薬師のお仕事
わたしは昔、大きな病を患ったことがある。その時わたしを助けてくれたのは、両親とお医者様、そしてずっとずっとわたしの病が完治するまで面倒を見てくれ、薬を処方し続けてくれた薬師さまだった。
だから、わたしはなろうと思った。人を助け、希望を与える薬師に。
「……またやったわ」
「今日もぶちまけたわね」
「なんと悲惨な」
「学習しない薬師だな本当に」
聞こえる。王宮勤めの皆さんの心無いそして辛辣な会話が。
みじめな思いをしながら、わたしは見事にぶちまけた薬草を静かに拾い始めた。
決していじめられてるとかじゃないのだ。ただ単にわたしがなぜか―そう、なぜか!―日に一度はこうして薬草をぶちまけたり中庭の池に落ちたり茂みに突っ込んだりしているから皆さん呆れているだけなのだ。
ええ、認めます。認めますとも。自分が他の人に比べて少々鈍くさいということは。
だからって薬草拾うの手伝ってくれてもいいじゃないか。多少衣服が薬草くさくなるくらいなんだって言うのだ。
薬師になるためには、まずはじめに薬師のための学校に行く必要がある。子供の頃から薬師を目指していたわたしは、受験資格の与えられる12歳になったとき、その学校を受験した。そして、なんのまぐれか合格。3年間、青春の全てを注ぎ込んでそこでみっちり学んできた。
そして15歳になったとき、卒業試験を兼ねた薬師試験に受かり、わたしは晴れて「薬師」という国家資格を手に入れたのだ。
卒業後は、城下にある薬師院で、先輩につきながら勉強したり薬を処方したり、忙しくも充実した毎日を過ごしていた。
運命が変わったのは卒業してから3年後。つまり今から2年前。
わたしは超難関とも言われる王宮付きの薬師になるためそれはもう猛勉強をし、1年後に実を結んだ。そして今、こうして下っ端としてではあるし、毎日薬草運びとかの雑務を仰せつかってはいるけど、それでも王宮内の薬師室で、天才薬師のラーラ様指導の下立派に(多分)薬師として働いている。
しかし、こうも薬草運びが辛い仕事だとは思わなんだ。なぜ精神的に辛いんだこの仕事。
そんなことを思いながら腰をかがめ、薬草を一枚一枚拾っていると。
突然、目の前に薬草の束が差し出された。
「え?」
臭いと評判のこの草に触ろうとしてくれるひとは、この王宮内でも一握りだ。嘘、と胸の鼓動を感じながら差し出している腕の先を見やれば、そこにはいたのは見知った武官の男性。
まるで美しい漆のような色の髪と、黒曜石のような鋭く輝く瞳を持つ彼。
「グラウチカ、様」
わたしの愛する、その人だった。