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柔よく剛虎を制す!~呪いの帯で虎の怪物になった元・柔道女子高生は妖を柔道技でねじ伏せる~   作者: 暁季
前半戦

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第六話 白雨と厄災と封印師


 私たちは(つむぎ)(れん)の情報を頼りに、白陽(はくよう)町の山奥に眠る「白雨神社(はくうじんじゃ)」にたどりついた。


 廃墟同然と化した神社を探索していると、奥の本殿に怪しげな汚れた塊が落ちていた。

 その塊を拾い上げると突然、それは青白い光を放ちだした。


「お前! 何をしたッ!?」

「し、知らないって!なんか汚れた石みたいなのが落ちてたから拾っただけだって!」

 

 目を開けていられない程の激しく、あたたかな光。

 やがて光は収束していき、後ろを振り返ると倒壊寸前の神社の天井を突き破らんばかりの巨大な影が姿を現した。


 透き通るような白い毛並み、青白い炎をまとった九本の尾、身体と顔に広がる水色の紋様。

 神々しく、そして圧倒的な威圧感を持つ、巨大な狐。


 外からサー……と静かな雨音が聞こえてくる。


『……久しいのう。この穢れた気配、まさかあの業虎(ごうこ)が再び世に放たれることになるとは』

 巨大な九尾の狐が、琥珀色の眼で私たちを品定めするように見下ろす。


 私たちはその神々しさと威圧感に言葉を失い、動けなくなっていた。


「こ、これが……白雨(はくう)様……!」

 漣が声を震わせながら平伏する。


 『いかにも。わしの名は白雨。世の理を正し、安寧(あんねい)を司る神じゃ。よくぞ参った、若き器と未熟な封印師よ』

 白雨と名乗った狐はその大きな口を開いて私たちに語り掛けた。言葉ひとつひとつが心臓の奥にまで響き渡るような感覚だ。


「あ……あのっ! 私、変な帯を着けたら突然虎の化け物になっちゃって……! 帯も外せなくて、どうしたらいいかわからなくて……! その、白雨……様は何かわかりますか!? 私元に戻れますか!?」

 私は緊張を押し殺しながらたどたどしく白雨様に問い掛けた。


業虎(ごうこ)の力じゃな。その帯の中身は、わしらが生きた時代の「負の遺産」じゃ』

「業虎……負の遺産……」

 紬が息を飲んだ。そして私の腕にそっとしがみつく。


『そうじゃ。あれは今から千年前。この国はかつて、暴力そのものが具現化した業虎の手によって滅びかけた。見るがよい……』

 

 白雨がふわりと大きな尻尾を振った。

 すると辺りに白い煙が立ち込め、やがてそれはスクリーンに映写するように形を変え、情景を描き始めた。


 それは、地獄のような光景だった──


 燃え盛る(みやこ)。逃げ惑う人々。転がり落ちた人や、動物の──死体。

 そしてその中心で天を覆うほど巨大な二足歩行の「黒い虎」が城を爪の一撃で粉砕している姿。


「なに……これ……」

「酷い……」

「……」

 夢愛(ゆあ)は「地獄の映画」に絶句していた。いとも容易く消し飛ぶ町や人々。握りしめた拳に汗が滲んでいく。


 私は暴れまわる「黒い虎」の姿に、変身した自分の面影を重ねていた。私の中に、こんな化け物が宿ってしまったなんて……恐怖と絶望に、震えが止まらない。


『奴は喰らう。人の命も、希望も、悪意も。すべてを飲み込み力に変えて肥大する、生きた災害じゃよ』

 すべてが消し飛び焦土と化した世界。煙の中の地獄の中で、小さな影たちが黒い虎に立ち向かう。


 白や黒の装束を纏った、陰陽師(おんみょうじ)のような出で立ちの人間と、彼らに従える白い狐。


『わしら(あやかし)と人間が手を組み挑んだ「百鬼大戦(ひゃっきたいせん)」。多くの血が流れ、屍の山を築いた……そして葛葉(くずは)の一族の長が、最後の戦に挑んだのじゃ……』

 

 一人の男が札を掲げ、何かを詠唱する。すると札がまばゆい光を放ち、全身を包み込む。

 

 光は鎖のような姿に形を変え、映像の中の虎を縛り付ける。やがて虎は七つの光となって地に落ちた。

 

 煙が引き、白雨の大きな尻尾へと収束していく。


『わしと封印師(ふういんし)の力を持ってしても、奴を倒すことはできなかった。そこで封印師は自らの命と引き換えに業虎の肉体を七つに分散し、聖なる道具に封印したのじゃ。』


 白雨が天井を見上げながら、こう続けた。

『本来なら未来永劫解けぬはずの封印じゃったが……長い時が経ち、人々の心から畏敬(いけい)が薄れ、(くさび)が緩んでしまったのじゃろう……』


 千年前の破壊の化身──業虎。あれが、私の中にいる。

 そう思った瞬間、胃の奥がひっくり返るような吐き気に襲われた。

 

 白雨が悲しげに目を細め、絶望している私を射抜いた。

『小娘よ。そなたは業虎に選ばれてしまった。現世に蘇り、再び世界を破壊しつくす為の器としてな……』


「あ、あの……どうして私が選ばれたんでしょうか!? ……やっぱり、波長が合ったとか、前世の因縁とか、そういうものなんでしょうか?」

 私は恐る恐る、白雨にそう尋ねた。

 

『ん? いや、単純にその場にいた人間の中で一番頑丈そうだったからじゃな』

「え、えぇぇ……」

 白雨はアッサリと答えた。そんな理由で? そんな理由で私の人生をめちゃくちゃにしたのか。恐怖心が、怒りに変わった。

 

「テキトーかよ!」

 夢愛が眉間にしわを寄せながら、私の気持ちを代弁した。

「馬鹿! 言葉遣いに気をつけろ!」

 漣が慌てた表情で夢愛を怒鳴りつける。


『ともかく……「(なな)つの(くさび)」は封印の力を失いつつある。このままでは業虎が肉体を取り戻し、再び世界を地獄に変えてしまうのも、時間の問題じゃろう……』

 

「七つの……楔……」

 この話が本当なら、もう私の身体だけの話ではなくなっている。世界が地獄に変わるなんて……

 スケールの大きすぎる話で、現実感が湧かない。しかし、私の中の帯と業虎の力は本物だ。脳が情報を整理しきれない。

 

「どうすれば、その業虎の復活を止めて、蘭ちゃんを元に戻せるのでしょうか……?」

 紬が私の腕を強く抱きしめながら、白雨に尋ねた。


『うむ……本来であればわしの力と封印術で再び奴を封じ込められる筈なのじゃが……わしも長い眠りについていた故、力をほとんど失っておる。それに……現世の封印師がこんな「ふぬけ」ではのう……』

「ぐっ……!」

 漣は苦虫を嚙み潰したような表情で頭を下げた。


『そこでじゃ……わしに考えがある』

 白雨が再び、大きな口を開いた。


『七つの楔は長い年月を経て、封印された業虎の肉体が持つ力を媒介に妖の姿となってその力を開放しようとしておろう。その妖どもをこの「ふぬけ」一人で封じ込める事など到底出来まい。』


『そこでじゃ、小娘。そなたの出番じゃ。そなたの中に眠る「業虎の力」……それを使って、暴走する他の楔をねじ伏せるのじゃ』

 

「私が、妖と闘う……!」

 私は息を呑んだ。できるだろうか?また私があの化け物になって、闘う……確かに前より力は制御できてはいる。でも完璧じゃない。

 また暴れてしまったら……あの映像のようになってしまったら……


「お、お待ちください白雨様! それはいくらなんでも危険すぎます! 私が必ずすべての楔を封印してみせます……!」

 漣が血相を変えて白雨に訴えかける。

 

『このたわけが!! 今のおぬしに成し遂げられる訳がなかろう! 現におぬしは小娘の封印に失敗しておるではないか!』

「そ、それは……!」

 白雨の怒号に漣は何も言い返せなかった。漣の歯ぎしり音が小さく響く。


『小娘よ。酷な頼みである事は承知の上じゃ。しかしもう……それしか手がないのじゃ……』

 白雨の尻尾がスッと私の方へと伸びていく。


「わ……わたし……」

 怖い。何もかもが。踏み出せない。手が、膝が、震えているのがわかる。


 紬と夢愛が、私の手を優しく握りしめた。


「蘭ちゃん……ごめんね……こんなとんでもない事になっているのに、何もしてあげられなくて……」

 紬が目に涙を溜めながら私に語り掛ける。


「蘭……ウチらはさ、何の力もない。闘えない。……けどさ、あんたを一人で闘わせるつもりだってさらさらない」

 夢愛も涙を堪えている。こんな顔を見たのは初めてだ。


「ウチらは何があっても蘭のそばにいる。絶対離れない。もし蘭がヤバくなったら命がけで止める。マジで。絶対に止めてやる!」

「うん……私たちはずっと一緒! 私たちが蘭ちゃんを守るよ!」

 本気で言ってくれている。私にはわかる──二人の言葉が心に沁み渡る。


「紬……夢愛……」

 あんなに怖かったのに、不安だったのに、あたたかい気持ちが心を満たす。

 勇気が、湧いてくる──


 私は大きな深呼吸をした。二人の思いを、私の決意をしっかりと胸にためて、白雨に向かって宣言する。

「私……やります!」


『よくぞ言ってくれた……礼を言うぞ、小娘……! ……ふぅ』

 白雨はそういうとポン! という音と共に煙となって弾けた。


『あの姿は力を使う……肩が凝るのう~』

 溢れた煙が消えるとそこには、フワフワの尻尾を持った二頭身のぬいぐるみのような姿の白雨がちょこんと立っていた。


「キャー! なにそれかわいーっ!」

 夢愛が即座にぬいぐるみのような白雨に抱きついた。


『これ! 気安く触るでない! ……まったく……』

 白雨は夢愛を叱りつけるが、満更でもないように見えた。


『これからはこの姿でおぬしたちを指導してやる。良いな?』

「白雨様が仰るなら……私も協力します……」

 漣は納得がいかない様子だったが、渋々承諾した。



 外は西日が沈みかけ、紫色の闇夜が姿を見せつつあった。

 カラスたちが一日の活動を終えて、(ねぐら)を目指して飛び回っている。


「わあ……すっかり日が暮れちゃったね」

 紬が空を見上げて呟いた。

 

「……てかさぁ、もうこんなに暗くなってきたのに、これからまたあの山道を下るわけ!? 絶対遭難するじゃん! 無理なんですけど!」

 夢愛の言うとおりだ。この暗がりで下山するのは危険すぎる。

 しかし神社は廃墟も同然。これはまずい。

 闘う前に私たちは大ピンチに陥ってしまった。


『心配するでない。ほれ、小僧。術じゃよ術。はようせんか!』

「え? あ、ハイ! わかりました……」

 白雨に急かされ、漣が慌ててバンドから札を抜き取る。


「お前ら、しっかり掴まってろよ……」

「わかってるっつーの!」

「紬も、私にしっかり掴まっててね」

「うん……わかったよ」


 漣が術を唱え始める。漣の両腕に私と夢愛がしっかりと掴まる。

 紬は私の背中に乗り、私にしがみつく。


「『卯ノ跳躍(うのちょうやく)』」


 漣は地面を強く蹴り上げ、私たちを連れて天高く飛び出した──瞬く間に神社が豆粒ほどの大きさになっていく。


「だぁぁぁぁ! もっと優しく跳べないワケー!?」

「うるせえ! 三人も連れて跳んだことねえから加減がわかんなかったんだよ!」

「この『ふぬけ』野郎~!」

 

 夢愛と漣の叫び声が、風と共に夜の山に響き渡る──


設定情報⑤

【名前】葛葉くずは れん

【年齢】17

【職業】高校生

【身長】172

【体重】53

【血液型】O

【好きなもの】甘いもの全般/オムライス/ギター

【嫌いなもの】グリーンピース/勉強

【大切なもの】祖父の形見の札/ギター

【性格】クール/不器用

【趣味】音楽鑑賞 (ロックバンド)/ペン回し

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― 新着の感想 ―
拝読いたしました! 日常から突如非日常へと…人で無い何かへと変体してしまう主人公。 そしてそれでもそれを支え助けようとする友人達と、自らと向き合い封じ込めようと足掻く主人公。 登場人物も徐々に増え、こ…
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