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柔よく剛虎を制す!~呪いの帯で虎の怪物になった元・柔道女子高生は妖を柔道技でねじ伏せる~   作者: 暁季
前半戦

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第四話 焔と意地と監視者


 私たちは陸上部の篠森 葵(しのもり あおい)に取り憑いた鎌鼬(カマイタチ)を倒し、身につけていた脚絆(きゃはん)を手に入れた。


 (苦しい闘いだった……だけど、前の「変身」の時より(つむぎ)たちの声が少しだけ鮮明に聞こえた気がする……なんて言ってたかまではわからなかったけれど……)


 そして咄嗟に繰り出せた柔道技。もしかしたら、この力を使いこなせるようになるかもしれない。


 ──篠森には色々聞きたい事があるが、今は身バレを防ぐ事が最優先。私たちはこの場から立ち去ろうとしていた。


 その時だった。


 橋の陰から何者かが歩み寄ってくる気配を感じた。まさか──目撃者!?


「見事な手際だ……だが、その『虎』は放置できない。今ここで終わらせる。」

 

 街灯の逆光を背負い、深々と白いパーカーのフードを被った少年が立っている。色素の薄い肌。長く伸びた前髪から覗く三白眼が、こちらを鋭く睨みつける。


 一体何者だ?まさか私の動画をネットに投稿するつもりなのか?だとしたら私の秘密がバレてしまう──それだけはあってはならない。


 恐れていた事が現実になろうとしている恐怖に、私の顔から血の気が引く。

 

「『終わらせる』って、どーいう意味だよ!?」

 夢愛(ゆあ)と紬がすぐさま私の前に立ち、私の姿を覆い隠すように肩を寄せ、身構える。二人の背中が、いつもより少しだけ大きく見えるような気がした。


 少年は夢愛の問いかけに答える事なく、腕に巻かれたフィットネスバンドからスルリと札のようなものを引き抜いた。


「『急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう……酉ノ空烈(とりのくうれつ)』!!」

 

 シュビビビッ!!

 呪文のような言葉と共に少年の札が光りを放ち、無数の白い羽根が鋭利な手裏剣のように襲い掛かる──


 私は二人の間に割り込み前に踏み出す。逃げられない。だったら、私が盾になるしかない!私は覚悟を決めた。


 ドス!ザクザク!

 

「ぐっ……! ぅぅ……」

 少年が放った羽根手裏剣は私の腕や太ももに深々と突き刺さった。焼けるような痛みに、額から汗が滲み出る。


(痛い……! コイツは私をネットに晒すつもりなんかじゃない──倒すつもりなんだ……!)

 

 羽根手裏剣は身体がそれを拒むかのように内側から押し出され、そのままヌルリと抜け落ち消滅した。それと同時に赤い傷口がゆっくりと合わさり、完全に塞がった。


「チッ……再生か。面倒だな……」

 少年が舌打ちをすると、再び呪文を唱え始めた。


 次が来る――私はすぐさま二人の方へと振り返る。

(らん)ちゃん! 大丈ぶ……」

「逃げるよ!!」

「『酉ノ空烈』ッ!」

 無数の羽根が再び風を突き抜けながら迫り来る。


 私は両腕で紬と夢愛の手を掴み、勢いよく大地を蹴り上げた──

 ズアッッ!!

 蹴り上げた衝撃と羽根の斬撃が合わさり、地面が爆発する。

 

 危ない所だった。間一髪、私たちは羽根を回避する事に成功した。

 

 しかし、まだ終わりじゃない──私はさらに脚を回転させていく。

「お、おわぁぁぁ!? 蘭! 速すぎるってー!」

 自分でも驚く程の速さで私は疾走する。脚が、軽い。

 紬と夢愛の脚は私の速さについて行けず瞬く間にもつれ、やがて凧のように宙を舞った。


「逃がすかよッ……」

 少年がフィットネスバンドから新たな札を抜き取り、呪文を唱える。

 

「『卯ノ跳躍(うのちょうやく)』!」

 バッ!!

 少年が巨大なバッタの如く飛び上がり、急速に接近する。


 少年のシルエットが、月と重なる──


「──! 蘭ちゃん! あの子こっち来てる!」

「え! そんな……!」

(この速さに追いつくなんて! これも呪いの力なの!?)

 

「『酉ノ空烈』!」

 少年が青白く輝く札を掲げる。

 羽根が今度は雨のように上空から降り注ぐ。


 私は左右に軌道を変えながら走り続けた。羽根が私が駆け抜けた道をなぞるように地面に突き刺さる。


 このまま走り続ければ、羽根を避けることは出来る──しかしこのままでは二人が持たない。

 洗濯物のように振り回されてくたびれた二人を草陰で手放し、私は少年の方へと踏み出した。


「さっきから人の話も聞かずに……アンタ一体何者? アンタも『呪いの道具』に取り憑かれてるの?」

 私は彼に対する疑問をそのまま言葉にしてぶつけた。

 

「あ? んな訳ねーだろ。……俺はお前の中の『虎』を始末しに来たんだよ。」

 


(……やっと答えてくれた。どうやら取り憑かれてる訳ではないみたい。でも、私の中の虎を始末? 一体どうやって……)


「その力は危険すぎる。いいから、さっさと『虎』を出せ。さもなくば、お前ごと葬るまでだ」

 腑に落ちない私をよそに、少年がフィットネスバンドから次の札を引き抜く。その札は、端がチリチリと青白い火花を散らしているようだった。


「クソッ……霊力を使い過ぎた……これ以上は札がヤベェな。次で決めねーと……!」

 少年が何かを呟くと、両脚を広げてスンと姿勢を落とす。ゆっくりと札を前方に伸ばし、呪文を唱え始める。

「『急急如律令』……」


 またあの化け物になれって? なってたまるか。私は虎井 蘭だ。化け物なんかじゃない──それに、殺されるのも真っ平御免だ。

 

「『辰ノ火焔(たつのかえん)』!!」


 少年の札から龍を模った業火が、唸りをあげて押し寄せる。

 避けきれない──私は無抵抗のままその火焔を浴びる。全身を粘着質な焔が纏わりつく。

 服が、髪が、身体が焼かれていく──


「うぁぁぁぁぁ!!」

 熱い。熱すぎる。目を開けていられない。息が出来ない。

 一瞬で喉が渇き、ジュゥゥと音を立てながら身体を焦がしていく。意識が吹き飛びそうになる度に灼熱の痛みが現実に引き戻す。


 汗が蒸発し、肌が赤く爛れていく。再生が追いつかない──


 でも、ここで諦めたら全てが終わってしまう。

 私は終わりの見えない灼熱地獄を、ただ耐える事しかできなかった。

 

「何してんだよ……早く……早く『虎』を出せよ……! 本当に死んじまうぞ!」

 少年の声に「焦り」と「揺らぎ」が現れる。

 握りしめた札が端からジリジリと青白い炎を上げて燃え始める──


 ドクン……ドクン……


 またあの感覚だ。私の中で、「虎」が目覚めようとしている──

 

 命の危機に反応して、私の中の『虎』が力を解放しようとしているのを本能で理解した。

(やめろ……出て、くるんじゃあ……ない……!!)

 

 灼熱地獄と「虎」の闘争心に、意識を焼き潰されそうになったその時だった──

 

「蘭ちゃーん!!」

「!!」

 紬が荒れ狂う焔の龍に向かって走り出す。

 瞳から零れ落ちた涙が、月明りに照らされて結晶のように散っていく。


「「もう……限界だ……!!」」


 ボワッッ!!

 焔の龍が球体状に変化し、そのまま割れた風船のように熱風を吐き出して、消滅した。



 

 緩やかに流れる川のせせらぎ。コロコロと鳴くコオロギの鳴き声。深夜の河川敷が、本来あるべき静寂を取り戻す──


 その中に、ポツリと立っているのは、虎柄の痣をその身に宿した人間の少女──虎井 蘭だった。


「……ゼー……ゼー……」

 グツグツと沸かした湯が次第に落ち着いていくように、私の焼け爛れた肌が艶を取り戻しつつあった。

 

 危なかった……本当に危ない所だった。

 あれ以上燃やされていたら、死んでいたか「虎」になっていたかの二択だったのは、間違いない。


「ッ……!」

 少年は青く燃える札を振り払う。炎がかき消され、どこか線香にも似た匂いが風に乗って流れていく。


 

「……今の俺の霊力じゃ、これ以上は無理だ……それにしたって、アイツは何者なんだ……!?」

 そう呟くと、瞼を痙攣させながら少年が私を凝視する。

 上がる息を鼻呼吸で強引に整えている。


「……アイツが、「虎」の力を抑え込んだとでもいうのか……!ありえねえ……」

 少年が片膝をついた。額には汗が伝い、長く伸びた前髪を肌に貼り付ける。


「蘭!! 大丈夫!?」

 紬と夢愛が私の元へ駆け寄る。良かった。二人とも無事だった。安堵した私は膝の力が抜け、ストンと視界が下がる。

 その私を二人が咄嗟に支え、しっかりと肩を組む。


「ありがと、二人とも……私、生きてるよ……」

「蘭ちゃん……!」

 紬は溢れる思いに顔を歪ませ涙を流す。紬の肩を通した私の手を、優しく、力強く握りしめる。


「……あーもう! マジで死ぬかと思ったじゃん!! アンタほんとなんなの!? 私の貸した服も丸焦げなんだけど!!」

 夢愛がフラフラと立ち尽くす少年に指を突き付ける。


「……フン。丸焼きになる前に『虎』が正体を現すと踏んだんだが、計算違いだったようだ。」

 少年がボロボロに焦げた札を地面に投げ捨てる。


「いいか、勘違いするなよ。俺はお前を認めた訳じゃない。お前が人間として耐え抜いたその精神力……しばらく様子を見てやる」

 少年が三白眼で私を睨みつける。


「様子を見る……?」

「そうだ。お前を『監視』するんだよ。もし少しでも暴走の兆候があれば……その時は必ずお前を殺す」


 少年がバンドから一枚の札を抜き取り、呪文を唱える。

「『卯ノ跳躍』」


 少年は天高く跳び上がりそのまま夜の闇に消えていった。


「なんなの、アイツ……」


 嵐のような少年だった。私たちは溜まった疲れがどっと押し寄せ、その場にへたり込むのだった──



 ◇ ◇ ◇



 翌日。

 昨日の筋肉痛を引きずりながら、私たちは学校に登校していた。


 そして朝のホームルームで待っていたのは、衝撃の光景だった。

「転校生を紹介する。さあ、入って」


 ガラリ……

 教室のドアが開き、入って来たのは──


 制服を着崩し、フィットネスバンドを腕に巻いた、あの少年だった。

 

葛葉 漣(くずは れん)だ。よろしく頼む」

「「「!!!」」」

 教室が男子のどよめきと女子の黄色い悲鳴に包まれる中、アイツは私の方を見てニヤリと笑った。


 (言っただろ? 「監視する」って)

 私にはアイツの口がそう動いているように感じた。


「は……はァァァァ!?」

 私の絶叫が、朝の教室に響き渡った。

設定情報③

【名前】藤宮ふじみや つむぎ

【年齢】17

【職業】高校生

【身長】158

【体重】47

【血液型】O

【好きなもの】ハンバーガー/猫/K-POPアイドル

【嫌いなもの】怪談話/トマト

【大切なもの】小説コレクション

【性格】謙虚/臆病

【趣味】読書/アイドルの推し活

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― 新着の感想 ―
ある意味、熱烈なストーカーの爆誕の瞬間ですね。 (´ε`) 変身するたびに服が弾け飛ぶのならかなり金銭面のダメージが大変そう。 あと、裸を撮影されたりしたなら目も当てられないし、伸縮性の高い全身タイ…
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