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柔よく剛虎を制す!~呪いの帯で虎の怪物になった元・柔道女子高生は妖を柔道技でねじ伏せる~   作者: 暁季
後半戦

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第十六話 鵺と怒りと炎の渦


 後方から最も聞きたくなかった悲鳴がした。


 初めは、何が起きたのかわからなかった。

 いや、脳が処理を拒んでいたのかもしれない。


 薙ぎ倒された大木の山──その残骸の中で夢愛(ゆあ)が一人、泣き叫んでいる。


 そうだ、(つむぎ)は……紬はどうしたんだろう。

 確か夢愛と一緒にいたはずだ。


 一体どこに……。

 もう薄々勘付いているはずなのに、遠回しに状況を整理しようとしてしまう。


 スローモーションのように重たくなった私を、最悪の映像が覚醒させた。


 大木の下敷きになって、力なくはみ出た細くしなやかな腕。

 私のよく知る、大切な者の腕──


「ぁぁ……ぁぁあああアア!!」


(らん)!」


 私を呼ぶ(れん)の荒げた声は耳に届かなかった。

 (ぬえ)に背を向け、地面を蹴る――私は絶叫と共に弾丸のような速さで大木の山へと飛び出していった。


 枯葉が吹き飛び空気が震える。

 地面を(えぐ)りながら急停止した私は、すかさず何本も重なり合っている大木を鉤爪で鷲掴みにし、軽々と背後へ投げ飛ばしていった。


 ──そこにいたのは、やはり紬だった。


 両脚は真っ赤に染まり、あり得ない方向へ歪んでいる。

 酷い有様だ。私は変わり果てた紬の姿にサッと血の気が引き、頭の奥で何かが焦げるような感覚を覚えた。


「ガァァッ、紬ィ! 紬!!」


「…………」


 私の悲痛な呼びかけに、紬は何も答えなかった。

 青白く虚ろな表情でピクリとも動かない。


「グズッ……ウチを……ウチを庇って、紬がぁ……ぁぁああっ」


 夢愛が目を腫らし、嗚咽を上げながら血だまりの地面にへたり込んだ。


「グ、グゥゥ……! 許さない……!」


 プツンと、私の中で何かが切れた。

 内に眠る業虎の破壊的な闘争本能と、私の鵺に対する絶対的な殺意が重なる。


 地響きが起こり、森が震えだす。

 私の身体からどす黒い稲妻のようなオーラが立ち込め、全身の筋肉が、「奴」を抹殺する為だけに形を変えようとしていた。


「グォォォォ……!」

 

 沸騰した湯の如く筋肉がボコボコと盛り上がり、その密度を増していく。

 全身の毛が逆立ち、その一本一本が生き物のようにうごめき出す。


 私の(まなこ)が殺意の赤に染まりかけたその時、後方から私を射抜く鋭い声が鼓膜を打った。


『小娘よ!! 殺意に支配されてはならぬッ!』

 

「ガ、ガァッ……!?」


 声の主は白雨(はくう)だった。

 その太い尻尾のあちこちから青い血を流しながら、私たちの元へ飛び込んできたのだ。


 白雨はぐったりと横たわる紬の元へ駆け寄り、その口元に耳を近づける。


『むぅ……これは酷い……じゃが、微かに息をしておる! 諦めるでない!』

「グズッ……えっ……! まだ……生きてる……?」

 夢愛が涙でぐしゃぐしゃの顔をこすり、ハッと目を見開いた。


『うむ。わしは安寧を司る神。力の大半を失った今でも、生きてさえおれば癒しの術を施す事が出来る……!』

 白雨はそういうと、体の水色の紋様を輝かせ、大きな九本の尻尾をそっと紬の胸に当てて目を閉じた。


 穏やかな光が紬を包み込む。

 

「ガァッ、よ……よかった……ッ! だけど、トまらないッ……!」

 一度溢れ出した破壊衝動は、決壊したダムのように止まることを知らない。

 私は膨れ上がる身体と力を抑えようと、背中を丸めて悶えた。


『いかん……! 業虎(ごうこ)の力が「鎮収流転(ちんしゅうるてん)」で(まわ)し切れておらん! 気を静めるのじゃ、小娘よ!』


 白雨の言う通りだ。気を落ち着かせないと……

 

 ──でも、ダメだ。力が溢れて止まらない。

 この暴虐な力を、今すぐぶつけたくて仕方ない。全部壊して、楽になりたい……


 理性が闇に沈み、諦めかけた、その時だった。


「ゴフッ……ら、らん……ちゃ……」


「!!」


 紬が血を吐きながら微かな声で私の名前を呼んだ。

 今にも途切れそうな、命の力を振り絞って──


 普段は少しの物音でも怯えてしまうような、臆病で怖がりな紬。

 

 そんな彼女が、恐怖を押し殺して夢愛を庇い、血まみれになりながらも私を引き留めようとしている。

 

 その透き通った瞳が、理性を失いかけていた私の魂を、人間側へと強引に引き戻した。

 

 彼女たちの存在がなければ、私は間違いなく、今この瞬間に完全に「業虎」へと堕ちていただろう。


「グ……ウォォォォ!!」

 

 私は天を仰ぎ、咆哮を上げた。(はらわた)の底から響き渡る低い猛獣の咆哮。

 しかし、それは破壊衝動に身を委ねただけの叫びではない。私の命を()す覚悟の叫びだった。


『小娘の「器」から漏れ出した力を……強引に廻している……!?』


 肥大し膨れ上がった肉体が、ギュッと引き締まり鋼のように堅くなる。

 視認できる程に溢れ出たどす黒いオーラが、私の身体に纏わりつくように渦を巻き始めた。


「グルルッ……! 白雨さマ……紬を、お願いしマす……!」


『おぬし……何をするつもりじゃ?』 


「力を、抑え……キれない……だったら、力に飲み込まれるマエに……シんでもアイツを、ブッ倒すッ!」


 もうどうなってもいい。私が「私」でいられる内に、すべてを終わらせる。

 

 たとえ自分の肉体が滅びようとも、道連れにしてでも。業虎が死ぬならそれでいい。


 絶対に許さない。絶対に。


 私の感覚が、極限まで研ぎ澄まされていく。

 視界が赤く染まる中、闇を掻き分け再び戦場へと意識のピントを合わせた。


 


 私が暴走の淵で足掻いていた数十秒の間――

 漣はたった一人で絶望的な防衛戦を強いられていた。


「くそッ……『卯ノ跳躍(うのちょうやく)』!」


 鵺の紫電を紙一重で躱し、漣が上空へと高く飛び上がる。

 

 すかさず空中で札を掲げ、足元に分厚い毛の壁、「弾性結界(だんせいけっかい)」を展開した。

 

 それをトランポリンのように蹴り付け、縦横無尽に空中を跳ね回り鵺の猛攻を掻い潜る。


 しかし、相手は黒雲を操り空を支配する(あやかし)

 

 鵺はその歪な体を捻じ曲げながら、雷光の如く超スピードで飛び上がり、漣の背後を一瞬で捉えた。


「なッ……!?」


 漣が振り返るよりも(はや)く、鵺の強靭な前脚が空中で無防備になっている漣の背中へ冷酷に振り下ろされた。


「ぐぉあっ!!」


 凄まじい衝撃音と共に、漣の身体が一直線に落下し、地面に激しく叩きつけられた。


 陥没したクレーターの中で漣が大量の血を吐き出す。

 手足が小刻みに痙攣し、身動きを取るどころか声を発する事すら出来ていない。


『ヒョォォォ……!』


 上空の鵺が不気味な唸り声を上げると、夜の闇よりも暗い黒雲が、渦を巻きながら頭上に収束した。

 

 それは次第に紫色のスパークを纏いだし、巨大な雷球がバチバチと膨れ上がる。完全にトドメを刺すつもりだ。


 周囲の空気が張り詰める――焦げるようなオゾンの匂い。


 漣は弱々しく歯ぎしりをしながら、目を閉じる事しか出来なかった。


 落雷が漣を穿(うが)つその一瞬の刹那(せつな)


 私は雷光よりも速く漣の元へと滑り込み、その身体を優しく、かつ強引に抱き上げた。


 紫色の落雷が大地に着弾し、森を揺るがす大爆発が起きた。


 私は漣を腕に抱き抱えたまま、迫り来る爆風と衝撃波を置き去りにして、一縷(いちる)の迷いなく駆け抜けた。


「……なっ……!?」


 焦げた匂いと煙が風に乗って流されていく。

 煙で曖昧になっていた私の姿が浮き彫りになり、漣の黒い瞳にハッキリと映し出された。


 漣を優しく抱き抱える丸太のように太い腕。

 全身からどす黒いオーラを放ち、瞳孔が縦に裂けた紅い眼。肥大化し、凶暴に変貌した私の姿。

 

「グルルゥ……」


 私の喉から、抑えきれない獣の唸り声が漏れる。


 爆風を切り裂き、少し離れた安全な場所へと着地した瞬間、私の腕の中で漣が唖然とした表情で声を上げた。


「お、お前……蘭なのか……!?」


 口の端から血を滴らせながらも、漣は震える声でそう呟いた。

 その瞳には恐怖と、驚愕の色が浮かんでいた。


「ガァ……そう、だよ……ワタシ……ッ」


 私はゆっくりと腕を降ろし、漣を大木の根元にそっと寝かせた。

 命を抉り取るような鋭い鉤爪で彼を傷つけないよう、細心の注意を払って。


「ゴメンね……ムリさせテ……アトは……ワタシが、ヤるから……!」

 

 獣の牙が並ぶ口から、ひしゃげた声が漏れる。理性と破壊衝動の狭間で、私は必死に言葉を紡いだ。

 

「……お前……『流転』はどうしたんだよ……! その体……長くはもたねえ……ぞ……」


 漣が乱れた浅い呼吸で私に囁くように語り掛ける。

 わかっている。私に残された時間は、もう少ない。


「グ……ワカってる……だから、スグにオわらせる……!」


 それ以上は語らず、私はゆっくりと立ち上がった。

 背後で漣が悔し気に息を呑む気配がしたが、今は振り返らない。


(紬だけじゃなく、漣まで……絶対に許さない……!)


 私の殺意と怒りの視線の先には、獲物を獲り逃し、怒りに満ちた鵺が紫電を激しくまき散らしながらこちらを睨みつけていた。


『ヒョォォォオオッ!!』


 空気を震わせる咆哮と共に、鵺が勢いよく突進してくる。


 私はすぐさま地面を蹴り砕き、鋭く襲いかかる紫電に真っ向から立ち向かった。


 互いの姿がブレて消失する。

 

 次の瞬間、森の中央で巨大な肉体同士が真正面から激しく衝突した。


 凄まじい衝撃波が円状に広がり、周囲の木々が削れていく。


 どす黒いオーラと紫色の閃光が、残光を残しながら異次元の速さで飛び回る。


 時間さえも置き去りにした光速の世界。

 圧倒的な暴力と暴力のぶつかり合い。


 二つの暴力が跳弾のように飛び回り、森のあちこちで衝突し、幾度となく爆発が起きる。


 しかし、純粋な身体能力において、私は鵺を完全に凌駕していた。


 今の私の眼は、奴の超スピードすら手に取るようにわかる。


 鵺が強靭な剛腕を振りかざし、全体重を乗せて突進してくる。

 私はあえて正面から受け止めず、半身になってその剛腕の「袖」に当たる手首を掴んだ。

 

 そして、奴自身の凄まじい突進の勢いを利用し、足払いをかけながら前方へ大きく投げ飛ばす。


『ギィァァァ!?』


体勢を崩した鵺が、自らのスピードに振り回されるように錐揉み回転をして大木を薙ぎ倒していく。


 すかさず追撃。

 私は倒れた大木が指し示す先へと、地面を抉るように蹴り上げ、駆け抜ける。


『ヒョァッ……ォォ……!』

 

 その時、視線の奥でボロボロに砕けた顎をだらしなくぶら下げた鵺が、不気味な鳴き声を上げて足元に黒雲を呼び寄せていた。


 地上戦では分が悪いと悟ったか。

 鵺が脚に力を集約させ、絶対的優位に立てる自らの領域──上空目掛けて跳躍しようと姿勢を低く構えた。


「ニがすかァァァァ!!」


 私は地面を爆砕させて急加速し、跳び上がろうとした鵺の背後へ執念で食らい付いた。


 そして、鵺の強靭な後ろ脚と、大蛇の尾を鉤爪でガッチリと鷲掴みにする。


 ズブゥッと音を立て、爪が肉を引き裂き、骨に届く程に深く、深く食い込んでいく。


『ギィェァァァァァ!!』


 あまりの激痛に鵺が悶絶し、動きが完全に止まる。


 それと同時に焦った鵺は全身の毛を逆立て、最大出力の紫電を自身の体に纏わせた。


「ガァ、ァァアアァァァァッ!!」


 (ゼロ)距離からの最大放電。私の巨大化した筋肉が焼け焦げ、不快な匂いが立ち昇る。

 強烈な電流に全身の細胞が悲鳴を上げ、骨の髄まで焼かれるような激痛が全身を貫いた。


 筋肉が強制的に痙攣し、身動きが取れない。

 柔道技など、到底掛けられる状態ではない。


 それでも──


 絶 対 に こ の 手 だ け は 離 さ な い 。


 小刻みに震える手に、ありったけの力を籠める。

 鵺が激痛に顔を歪ませながらも、激しい放電は勢いを増すばかりだった。


 あまりの電撃に私は白目を剥き、綱渡り状態の意識が飛びかける。


 ──しかし、意識の糸が断ち切れる寸前のところで踏みとどまった。

 ここで意識を失えば、待っているのは破滅だ。

 

 乾いた(うめ)き声を漏らしながら、私は痺れる肉体を奮い立たせ、鵺の下半身を強く掴み続ける。


「ハナす……もんか……! おマエだけは、ゼッタイにユルさない……ッ!!」


 握撃(あくげき)と雷撃の消耗戦。

 その終わりの見えない地獄を切り裂くように、後方から何かが高速で飛来した。


『ギャッ……!』


 私の身体を縫うようにすり抜け、鵺の肉体に鋭く突き刺さったのは、羽根手裏剣だった。


「ガハッ……レン……!?」


 私は眼球を動かし後方に目をやった。

 そこにいたのは、血で染まった札を掲げ、かろうじて立っている漣の姿だった。


「クソ……こんな術じゃ……止まらねえ……か……」


 漣はそう言うと、血反吐を吐き、膝から崩れ落ちた。


「レンっ!!」


「ぐふっ……俺は、まだ……やれる……! このままじゃ、お前が持たない……早く、逃げろ……!」


 漣が立ち膝の状態で腕を震わせながら二枚の札をバンドから抜き取った。


 しかし、ここで私が手を離したら鵺は再び上空へ逃げ、強力な落雷を仕掛けてくるだろう。

 そうなってしまったら、満身創痍の私たちに対抗する術はない。


 そして何より、全身が焼け焦げ痙攣する今の私は、離れて逃げる事すら出来ないのだ。


 それならば、今の私に出来る事は……

 私は覚悟を決めた──

 

 血と泡を吹きながら、私は背後にいるはずの漣に向かって、残された理性を振り絞って叫んだ。


「ワタシごと、ヤれェェッ!!」


「なっ……! 馬鹿野郎! それじゃお前まで巻き添えに──」

「イイからヤれエエエェェッ!!」


 喉が裂けんばかりの絶叫。

 紬を苦しめた鵺への復讐を果たすため、これ以上誰一人傷つけさせないため。

 私は自らの命を賭す覚悟で、ただひたすらに鵺の肉体を強く掴み続けた。


 私の魂の叫びに、漣の表情から逡巡の色が消えた。

 奥歯を噛み締めながら、漣は二枚の札を天に向けて掲げた。


「チクショォォッ!! 『辰酉・炎嵐ノ舞しんゆう・えんらんのまい』ッ!!」


 札が紅く輝き、無数の羽根手裏剣が風を突き抜けて勢いよく飛び出した。


 そして羽根は激しい炎を纏わせながら、私と鵺を取り囲むように高速で渦を巻くように飛び回る。


 灼熱の竜巻が巨大な焔の龍の姿を(かたど)り、蜷局(とぐろ)を巻きながら私と鵺に容赦なく襲い掛かる。


『ギィァァァァアアァァ!!』

「あ゛あ゛ァァァァ!!」

 

 皮膚が焼け焦げ、肉が爆ぜる。

 だが次の瞬間には、業虎の異常な再生能力が働き、焦げた皮膚を突き破って新しい肉が瞬時に盛り上がってくる。

 

 焼かれては再生し、そして焼かれる。

 終わりのない痛みが神経を削り取る、想像を絶する灼熱地獄。


 鵺も同様だ。放電を続ける余裕もなく、ただひたすらに渇いた喉を振るわせ、もがくだけだった。


 次第に、業火の燃焼が業虎の再生速度を上回り始めている事に私は気がついた。

 

 私は、このまま死ぬんだ。そう心の中で確信した。

 だがこれで良い。鵺を、そして業虎を道連れに出来るのなら。


 微かな生への未練と、漣への感謝の気持ち。

 親友たちの顔を走馬灯のように巡らせながら、私は焔の龍にその身を委ねた。


 これで、全てが終わる。


 

 

 ――その時だった。


 鵺が燃える体を捻じ曲げ、炭化しかけた下半身を強引に千切り捨てた。

 そして前脚だけで、唯一の逃げ場である上空へと天高く跳び上がった。


(そ、そんな……!)

「なにィ……!?」


 鵺の影がどんどんと小さくなっていく。


 蜷局を巻く焔の中に私と、完全に燃え尽き崩れ落ちた鵺の下半身だけが無情にも取り残された。


 やられた。まさか鵺が自身の体を捨ててまで漣の術から逃れようとするなんて。


 人間の理解を超えた異形の判断に、私は深く絶望した。


 終わった……


 私は鵺の尾だった黒炭を握りつぶし、そのまま項垂(うなだ)れた。



 その時、私の身体が突如として天に向かって跳ね上がった。


 漣が三枚目の札から「弾性結界(だんせいけっかい)」を発動し、私の足元に展開させていたのだ。


 私の身体が、燃焼と再生で二重の煙を|巻き上げながら、上空の鵺に向かって急接近していく。


「やってくれェェ! 虎井 蘭ーッ!!」

「グルァァァーッ!!」


 焔の龍が上昇気流のように私の巨体をさらに押し上げ、加速させる。


 鵺が紫電を放出するよりも先に、私の鉤爪が奴の心臓部へ深く食い込んだ。


 もう、絶対に逃さない。

 奴の心臓という「襟」を鷲掴みにし、私は手を引きながら鵺に密着する。


 二つの巨大な肉体が、重なり合いながら地面に向かって一直線に落下していく。


「ガルァァァァ!!」


 凄まじい猛獣の咆哮が私の大きな口から放たれた。

 落下の勢いを乗せながら私は身体を回し、鵺の半身を完璧に背負い込む。


 地面が眼前に迫った瞬間、私の中で心技体――三つの力が今この瞬間、完全に一つに繋がった――


 柔道技、背負(せお)()げ――!


 バガゴォォォォン!!


 大地が砕け散り、猛烈な大爆発が森に着弾した。


「うぉあぁぁぁ!」


 放射状に吹き荒れる爆風に漣が吹き飛ばされ、ゴロゴロと山道を転がり落ちる。


 そして大木の幹が漣の土と血に塗れた身体を受け止め、静止した。


 森に、まるで隕石が衝突したかのような巨大なクレーターが生まれ、山の形が変わるほど抉れていた。


 その中心には、全身を強く打ち付けられ形を失った鵺の残骸と、どす黒いオーラと白い煙を纏った巨大な猛獣が、仁王立ちをしていた。


設定情報14

封印師・漣の名前の由来


「虎の呪いや妖たちに挑む」「努力を怠らず駆け抜ける」……設定から名前を決めた蘭とは逆で、レンの名前は蘭とバディを組むにあたって語感の良い名前はないかと考えた結果、降ってきました。


そこから陰陽師・安倍晴明の母とされる白狐「葛の葉」から苗字を「葛葉」に、

「漣」という漢字は、怪力と武術、燃える炎のイメージの蘭と対照的なイメージになるように「さざなみ」の漣としました。


ちなみに、英語の「REINレイン」は「手綱」という意味だそうです。

蘭が暴走しないよう監視し、「手綱を握る者」として相応しい名前になったと思います。

さすがにこじつけが過ぎましたかね?

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