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第6話 無傷の凱旋

 ギルドの扉を開けると、そこは数時間前と同じ喧騒に包まれていた。


 夜の帳が下り、酒場はクエストを終えた冒険者たちで満席だ。

 成功した者の自慢話、失敗した者の愚痴、そして傷の手当てをする者の呻き声。

 そんな日常の風景が、俺たちが足を踏み入れた瞬間に少しだけ歪んだ。


「おい見ろよ。あのデカブツと、空振り女だ」

「プッ、また変なのが集まったな。ゴミ捨て場から拾ってきたのか?」


 嘲笑のさざ波が広がる。

 その中心に、見覚えのある顔があった。

 第1話で俺を「寄生虫」呼ばわりした、あの大剣使いだ。

 彼は包帯だらけの腕でジョッキを握り、取り巻きたちに向かって何やら熱弁を振るっている最中だったらしい。


 俺たちに気づくと、彼は下卑た笑みを浮かべて近づいてきた。


「よう、生きてたか寄生虫。随分と早かったじゃねぇか。ビビって逃げ帰ってきたか?」


 酒臭い息が吐きかけられる。

 後ろの取り巻きたちがドッと沸いた。


「おいおい、そんな装備でどこ行ってたんだ? 地下墓地か? あそこはスケルトンが出るぞ。その鈍重な盾じゃカモにされるだけだろ」


 言いたい放題だ。

 俺は無言で彼を一瞥するだけにとどめた。

 相手にする価値もない。

 だが、俺の後ろでリリアが今にも大剣を抜きそうなほど殺気を放っている。ギルも悔しそうに拳を握りしめているのが分かった。


「……ヴィック」


 リリアが低い声で俺を呼ぶ。

 俺は片手を挙げて彼女を制し、そのまま受付カウンターへと歩を進めた。


「換金だ」


 俺はカウンターに、革袋を無造作に放り投げた。

 ゴトッ、と重い音が響く。

 受付嬢が愛想笑いを浮かべながら袋を開ける。


「はいはい、地下墓地のスケルトンですね。魔石がいくt……」


 言葉が途切れた。

 受付嬢の表情が凍りつく。

 彼女は袋の中身を二度見し、それから震える手で中身をトレーの上にぶちまけた。


 ゴロン。

 転がり出たのは、握り拳ほどの大きさがある紫色の結晶体。

 そして、まだ生々しい腐臭を放つ、巨大な怪物の牙だった。


「こ、これは……コープス・イーターの魔核!? それに、上顎の牙!?」


 受付嬢の悲鳴のような確認の声。

 その瞬間、酒場の喧騒が水を打ったように静まり返った。

 コープス・イーター。

 地下墓地の主。

 推奨レベル15以上。フルパーティで挑んでも半壊必至のボスモンスターだ。


「馬鹿な……!」


 大剣使いが素っ頓狂な声を上げた。


「ありえねぇ! あいつらが出て行ってから、まだ2時間も経ってねぇぞ! 移動時間を引けば、戦闘なんて数分しかねぇはずだ!」


 その通りだ。

 往復の移動がほとんどで、ボスの部屋には1分もいなかった。


 受付嬢が青ざめた顔で俺たちを見る。


「あの……怪我は? ポーションの在庫確認と、回復魔法の手配は必要ですか?」


 彼女の視線が、ギルとリリアの装備に向けられる。

 そこには、傷一つなかった。

 鎧はへこんでおらず、服は破れておらず、血の一滴すら付着していない。

 まるで、ただ散歩をしてきたかのような清潔さだ。


「必要ない」


 俺は短く答えた。


「被弾ゼロだ。回復などいるか」


 静寂が、驚愕へと変わる。

 誰も言葉を発せない。

 ボスを倒したことへの賞賛ではない。「無傷」という異常事態への畏怖だ。

 この世界の常識では、強敵との戦いは傷つけ合いだ。肉を切らせて骨を断つのが美学だ。

 だが、目の前の光景はそれを否定している。

 一方的な蹂躙。

 暴力的なまでの完全勝利。


 俺はカウンターに頬杖をつき、固まっている大剣使いに視線を流した。


「おい、そこのお前」


 男がビクリと肩を震わせる。


「逃げ帰った、だったか? 訂正しろ。ただの『作業』が早く終わっただけだ」


 男は顔を真っ赤にして何か言い返そうとしたが、パクパクと口を開閉させるだけで声にならない。

 圧倒的な結果という暴力の前では、どんな言い訳も負け犬の遠吠えにしかならないことを、本能で悟ったのだろう。


 俺は受付嬢から換金された銀貨の山を受け取ると、それを三等分してギルとリリアに渡した。

 かつてない大金を手にした二人が、呆然としている。


「行くぞ。飯だ」


 俺は踵を返す。

 背中越しに、酒場の連中の視線が突き刺さるのを感じた。

 嘲笑は消えた。

 そこにあるのは、理解不能な強者を見る目と、底知れない恐怖だ。


 ギルドを出て、夜風に当たる。

 隣を歩くリリアが、我慢できないといった様子で吹き出した。


「あはは! 見た!? あいつらの顔! 鳩が豆鉄砲食らったみたいだったわよ!」

「……心臓に悪い。あんなに見られるのは慣れてないんだ」


 ギルが兜の上から顔を覆う。だが、その声は弾んでいた。


 俺は夜空を見上げる。

 月が綺麗だ。

 やはりこの世界はいい。

 結果が全てを語る。

 俺たちの「ゲーム」は、まだ始まったばかりだ。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


不遇職、ゴミスキル。

そう嘲笑された彼らが、ヴィックの指揮一つで最強へと化ける。

そんな盤面支配の物語、楽しんでいただけましたでしょうか。


さて、ここから物語は第2章、配信ダンジョン編へと突入します。


今のヴィックたちは、まだギルドの片隅で噂になった程度。

ですが、次からは世界が彼らを放っておきません。


ダンジョン配信機能の解禁。

棒立ちでボスを瞬殺する映像が世界中に流れるとき、脳筋たちの常識は崩壊します。

コメント欄の混乱、熱狂的な信者の出現、そしてかつてのヴィックを知るガチ勢の影。


ヴィックの管理は、パーティメンバーだけでなく、視聴者や世論すらもコントロールし始めます。


ここで作者からのお願いです。


続きが読みたい。

ヴィックの無双をもっと見せろ。

リリアとギルの成長が見たい。


少しでもそう思っていただけましたら、ページ下部の星評価とブックマーク登録を、ぜひお願いします。


皆様の応援が、私の執筆速度を加速させる最強のバフになります。

評価が多ければ、明日にも第7話を更新する準備はできています。


ヴィックと共に、この世界をさらに教育していきましょう。

応援よろしくお願いいたします。


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