3/3
(3)
家に帰るとすぐに夜ご飯の準備を始める。これまで何度も、何百回も繰り返してきた風景。壊れてしまっても良いと思いながら、全ての作業に憂鬱と焦りを込める。そうやって出来上がった湯気の立つうどんを見つめる。なぜか笑いが込み上げる。「くだらない」そんな嘲りが漏れ出る。度の強い缶ビールを開ける。漂うアルコールの匂いで、何かのスイッチが入る。いや、スイッチ"を入れる"。もう疲れたんだ。今日ぐらいは、全部忘れさせてくれ。そう思いながら、缶ビールを口に運ぶ。一気に飲み干す。体が芯の底から溶かされていく、心も体もドロドロに溶けて沸騰して脳と血管を巡る。初夏の夜に少し寒気がしていた、この身体も、いまは自分自身が色褪せていくように熱っている。今はただ幸せで心地よくて、吐き出しそうに、浴びるほどの世界からの賞賛を、永遠に飲みこむ。もはや、あの日の痛みは此処にはない、それはきっと永遠に。そのはずだ。
目が覚めると、床で寝ていた。酔ったまま寝たのだろう。もうわかってる。そうだ宴の後には後の祭りがつき物なんで、それがずっと嫌いだったこともまた思い出すんだ。もはや考えるのも疲れて、ベランダに向かう。フェンスにもたれかけ、糸息をつくと。まだ覚めきってない夜を見ながら「寒いよ」そう呟いた。




