冒険者として活動するための前準備
「さっそくだけど杖を選んで買ってしまおう」
魔法道具店を訪れた二人はリゼの杖を選ぶために店内を見渡す。
「杖はここら辺か。とりあえず持ってみて手に馴染むかどうかと、あとは直感だな。こっちに超高性能で高いものもあるけど、今は手に余るから逆に避けた方がいいかも」
「そうなんですね。……あ」
何本か手に取ったところでリゼがふと声をもらす。
「ロイドさんの言ったこと、分かった気がします」
「それにするんだ?」
「はい。他と比べて段違いに手に馴染むというか、相性がいいように感じます」
「じゃあそれが正解だよ」
ロイドはそう言ってリゼが手に持つ杖を店主のもとに持っていき会計を済ませる。店主によるとこの杖はオーソドックスなタイプで、他の杖は特定の属性魔法が得意なものがあったりするが、それに比べると無属性魔法はこちらの杖の方が撃ちやすいらしい。
「《光弾》をメインに使うリゼにはぴったりの杖だな」
「これが、私の杖になるんですね」
改めて購入した杖を手に取り、まじまじと見ながら思わず声をだしてしまう。
「私、この子のことずっと大事にしますね」
「そうだな。そいつは魔法使いにとっての相棒だから」
少しだけ物思いにふけつつ店を出ると、ロイドはそれじゃあと話題を切り替える。
「じゃあ次の場所に移動するぞ」
「え?何を買うんですか?」
「う~ん。買うというか、決める必要があるというか。絶対っていうよりは推奨って感じなんだけど」
ちょっと移動した先の店の看板を指さしてロイドは言葉を続ける。
「あの冒険者ギルドに寝泊まりするより自分の家を確保した方がいいから、不動産屋に行くぞ」
現状リゼは冒険者ギルドで他の冒険者から白い目で見られている上、この先しばらくは冒険者ギルドに行くよりも三日月堂に来ることが多くなるはずだ。それならば安いアパートだとしても三日月堂に近い場所に居を構えた方がいいというのがロイドの考えだ。
昨日のうちに不動産屋に目星だけ付けておいてもらい、今日店を訪れるとすぐに部屋をいくつか紹介された。さらにそこから家賃や治安、三日月堂への距離なども考慮してとあるアパートの一部屋をピックアップした。
「それでピックアップしたのがこの部屋だけど、自分の部屋としてどう?」
内見をしにきた二人、これから住む予定のリゼに感想を聞いてみる。
「いい部屋だと思いますけど、本当に引っ越す必要があるんですか?」
「ギルドに寝泊まりするよりは少しだけ家賃が高くなるけど、ストレスは少ないと思うよ。ついでに言うと魔法の練習を街中でするわけにはいかないから街を出て森の中でやる事になるんだけど、そこに行くまでの距離も短いからそっちの移動時間の短縮にもなるし」
自分の好みの家具を揃えられるのもメリットだとも伝える。
「部屋をここに決めたら家具も買いに行こうな」
「そ、そんなことまでしていただけるのですか?」
「初期投資だよ、初期投資。だから気にするな」
あまりにも自分事にお金を出してくれるロイドにリゼは慄くが、当のロイド自身は笑いながら大丈夫と答える。実際は最終的にこれまでに貯めていた貯蓄の半分近くを持っていかれる事になるのだが、リゼがさっさと成長して高めの依頼を受けられるようになることが一番の近道だと思っていた。
「じゃあ、ここに決めます。何から何まで本当にありがとうございます」
リゼは深く頭を下げる、そして内心でこの人の為にいち早く成長しなければと一段と覚悟を決めるのだった。
「よし、じゃあそろそろ昼食の時間だし本契約したら昼飯を食べに行こう。そしたら家具とかを買いに行っていけるなら今日中に運び込んでもらおう」
「はい。わかりました!」
その後昼食を食べた二人は家具を買いに行きベッドや寝具、洋服棚や椅子、テーブルなどを購入し、そして運よくその日のうちにそれらを運んでもらえるということでそのままリゼの新居に運び込んでもらうことにした。
「これが私の部屋なんですね」
家具を運び込んで生活できる環境になった部屋を見てリゼは感慨深くつぶやく。
「さて、リゼ」
そんな中でロイドがかなり真剣な声で声をかける。
「俺が勝手にやったとは言えここまでお膳立てしたんだ。再三言ってるけど、それを返せるぐらいの頑張りをリゼにはしてもらう必要があるのは分かってるな?」
「当然です。ここまでされたらどこまでも強くなってやりますよ」
「よし、そしたらこれを着けてくれ」
そう言いつつロイドは一つの腕輪を机の上に置く。それは紫色に輝く不思議な腕輪だった。
「これから魔法の練習をしたり使うときはその腕輪を装備しておいてくれ」
「これ何なんですか?」
リゼは疑問を持ちつつもその腕輪を装着する。
「《魔力修練の腕輪》、その名前の通り魔法の修行の効率をめちゃくちゃ上げてくれる魔道具だよ。サボったら何の意味も持たないけど修行すればするほど爆速で強くなれるし、本人の素質の上限を超えるのは難しいけど素質の上限がないならとんでもない魔法使いになれる優れものだよ。その効果は俺で実証済み」
「えぇっ⁉そ、そんなものまで貸していただけるんですか⁉」
「貸すというか、なんならずっと持ってていいよ。俺はもうほぼ効果出なくなってるから」
「というか、こんな魔道具聞いたことないんですけどどこで手に入れたんですか?」
「それは昔組んでたパーティーでダンジョンに潜った時にくすね……ゲフン、手に入れたものだよ」
下手なごまかしだがリゼはあえてつっこまなかった。
「まぁ本人の努力次第でかなり強くなるよって事だ。誰よりも強くなってやろうぜ」
「当然です。ここまでしていただいたんですからそれに見合った努力をさせていただきますよ」
二人は軽くグータッチをする。
「明日から《三日月の羊》本格始動だ。期待してるぜ、リゼ」
「こちらこそ。頼りにしてますよ、ロイドさん」
それは二人だけのパーティーの快進撃の物語が始まった瞬間だった。




