結成、三日月の羊
翌日ロイドは正式にパーティー結成の手続きをとるためギルドに向かい、今もそこで宿をとり続けているリゼと合流した。
「ロイドさん、おはようございます」
「おはようリゼ。じゃあさっさと手続きを済ませちゃおうか」
「はい。昨日のうちにミリーさんに話だけしてあるので」
「それは話が早そうだ」
二人が受付に向かうと別のパーティーの対応を終えたばかりのミリーがこちらに手招きをしてきた。
「ロイドさんおはようございます。やっぱりリゼちゃんに紹介して正解でした」
「関わっちゃったからにはね、さすがにすぐに見捨てようとは思えないからね」
少しだけ苦笑いを浮かべながら応えるが、ミリーはそうですよねと言いたげな笑顔だ。
「では新しいパーティーの登録ということで、説明は必要ですか?」
「いや、リゼにも教えないといけないから最初からよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします」
「分かりました。では説明しますね」
(それよりも周りの空気が、何というか面倒くさいなぁ……)
朝の早い時間とはいえ冒険者ギルドにはそれなりの人数の冒険者がいる。そんな中でパーティーの結成、しかも昨日まで悉く周りに断られ続けた新米魔法使いと薬局の店主の二人という異色のパーティーだ。馬鹿にしていたりこんな奴らに何ができるんだという視線が背中越しからひしひしと感じる。
(俺たちを気にしてる場合じゃないだろ)
内心ため息を吐きつつ、それを顔に出さないように説明に集中することにする。
「まず冒険者パーティにはF~A、その上のSの7段階の冒険者ランクがあり、それに応じたクエストやダンジョンに挑むことが出来ます。これはパーティーが無謀な難易度のクエストに挑んで無駄死にするリスクを減らすための措置です。ダンジョンに潜るときも事前にギルドに申請をしてください。基本的に結成したばかりのパーティーはFランクからの所属になり、一定以上の実績をギルドが認めれば上のランクに移れます。お二人のパーティーもFランクになります。ロイドさんくらいの方が複数人集まった場合は上位ランクからでも始められるのですが今回は」
「あぁ、そもそも二人パーティーが認められるのが珍しいし、しかもその片方が新人ならそうなるでしょ。文句は無いよ」
「ご理解感謝します。このランクは活動が無かったり失敗が続くと下がることもあるのでご注意ください。一定以上のランクになるとギルドからの特別依頼もありこれは強制なので、正当な理由がない場合にこれを断ってもランクが下がります」
「特別依頼って何ですか?」
「街とか国に大災害が起こった時に、それに対処する為の招集があるんだ。だけど今はリゼは強くなることだけ考えていけばいいよ」
「その通りです。それと冒険者ランクによって街の武器屋や防具屋、魔法道具店などから割引を受けることができます。Fランクだと割引率はまだ少ないですが、今日から使えますよ」
(あぁ、そういやリゼの杖もちゃんとしたの買ってやらないとな)
リゼが今でも持っている練習用と呼ばれるような安い杖を見て、すぐにでも本格的なものを買わないととロイドは決意する。
「説明は以上となりますが、何か質問はありますか?なければパーティー名とリーダーを申請していただいて冒険者カードを作成して完了となります」
「げっ!そうだった、パーティー名を考えないといけなかったか。忘れてた……」
ロイドは頭を抱える。
「昔のパーティーはあいつらが考えてたし、今はソロでやってたから個人名でよかったしなぁ。リゼ、何か案ある?」
「えっと、そうですねぇ……」
リゼはちょっと悩んだ後にそれならと言葉を続ける。
「《三日月の羊》っていうのはどうでしょう?」
「じゃあそれで。リーダーは流石に俺でいいから」
「即決ですか⁉」
「かしこまりました。ではカードを作成してきますので少々お待ちください」
そう言うとミリーはカウンターの奥へと歩いてゆく。
「えっと、本当に名前があれで良かったんですか?」
「いいのいいの。俺じゃあいい名前なんて思いつかないし、名前の凄さなんて後から付いてくるもんだよ」
焦るリゼをよそにロイドは落ち着いて笑っている。
「あ、でも三日月は三日月堂由来だろうけど、羊はどっから来たの?」
「そりゃあやっぱり睡眠といえば羊じゃないですか」
「それだと完全に俺一人の要素しか入ってないけどいいのかよ」
「そうは言っても今の私の要素なんて有って無いようなものですし、だからこれでいいんです」
「……そっか。これから強くなっていこうな」
「はい!」
そうこうしている内に戻ってきたミリーがロイドにカードを手渡した。
「お待たせいたしました。こちらが冒険者カードになります。リーダーであるロイドさん、どうぞ」
ロイドはカードを受け取るとリゼに見せる。
「これが冒険者カードだ。基本的にほとんどのパーティーでリーダーが所持してる。カードにはランクの他に、クエストとかダンジョンの達成数とか失敗数なんかも記録されるんだ。ランクの更新は所属してる冒険者ギルドじゃないとできないけど、ランクは全国共通だから他の街で依頼を受けることも可能だ。そうですよね?ミリーさん」
「私が説明しなきゃいけないことを全て言われてしまいました」
ミリーは苦笑いでそれで大丈夫ですよと答えた。
「じゃあ今日はいったん帰ります。この後リゼの杖とかも買ってやらないといけないので。それじゃリゼ、行こうか」
「え⁉私まだ杖を買うお金持ってませんよ」
「それは俺が買ってあげるから。普通の杖に買い替えるだけで今より威力とか諸々向上するから」
「あ、ありがとうございます!」
リゼを促しギルドを出ようとする。周りの冒険者の多くから嫌な視線が集まってるのが分かるが、そいつらに対しロイドは睨み返す。睨まれた者たちの顔には怒りから青筋が浮かんでいる。
「あ、ミリーさん!」
入口のところでわざと全体に聞こえるような声でロイドは叫ぶ。
「いつも通り、明日の朝ポーション届けにくるんでよろしくお願いしますね」
そう言ってロイドはもう一度全体を睨む。今度は挑発的な笑みを浮かべて。
そう、これは文字通りの挑発だ。文句がある奴は明日の朝ここに来いよという無言のメッセージ。見たところ結構釣れてるなぁと思いつつ、言葉に出さずリゼとギルドを出て魔法道具店に向かう。
「リゼ」
「何ですか?」
「改めて言うけど強くするための手伝いはしてあげる。でも実際に強くなるかはリゼの努力次第だ。パーティーを組む以上その努力はとっても重要になる。わかるね?」
「……はい」
「うん。頼むよ、《三日月の羊》のメイン火力にするつまりなんだからさ」
ロイドは右手を差し出す。
「改めてこれから同じパーティーとしてよろしくな、リゼ」
「はい!よろしくお願いします」
二人だけの特殊なパーティーの物語がここから始まるのだった。




