訳あり新人魔法使い
ヴァーレンという街の外れにある薬屋《三日月堂》。街の住人の為の薬や冒険者の為の回復ポーションを作成し販売しているこの店の主がロイド・ディアスである。
「カトリンばあちゃん、いつもの冷え性を抑えるやつね。ちゃんと煎じて飲んでね」
「トーマスじいさんには腰痛に効く塗り薬ね。塗ったとしてもあんまり無理はするなよ~」
店を訪れるのは老人たちが多いが冒険者向けのポーションの販売もあり、生計を立てる分には困らない程度には収入を得られていた。
「さて、お客さんがいない間にポーション作っちゃおうかね」
薬草を煎じた液体に魔力を込め、その液体を瓶詰したものを回復ポーションとして販売している。三日月堂の店頭でも販売しているが、冒険者はみな冒険者ギルドに立ち寄るのでそちらに卸したものを買っていくので冒険者が店に来ることは滅多にない。
翌日に卸す分のポーションを作るためロイドは作業部屋に移ろうとしていた。
コンコン
「は~い、開いてるんでどうぞ」
ロイドが促すとドアが開かれ、そこには一昨日に出会ったばかりの少女が立っていた。
「あれ、リゼ?」
「ぐすっ……ロイドさん、助けてくれませんか?」
「うぇっ⁉なんで泣いて……とにかく中に入って!」
目に涙を浮かべながらそこにいたリゼを客用の椅子に座らせ、自分も対面に座る。
「ええっと、何があったの?」
「あの、あれからパーティーを組むためにいろんな人たちに声をかけたんです。だけど全員に断られてしまって……」
聞くところによるとリゼが《光弾》という魔法使いとしては基本中の基本の魔法しか使えないということで断られたというのだ。それだけならまだしも多くの冒険者に声をかけたためギルド内に噂が広まり、馬鹿にするような視線が集中するようになりギルド内にいられなくなりここに来たようだ。
「受付のお姉さんに言われたんです。ここに来ればロイドさんがいて、もしかしたら何とかしてくれるかもしれないって」
「そんなこと言いそうなのはミリーさんだな」
う~んと腕を組んで上を向いてロイドは考え込む。
「ロイドさん、私強くなりたいんです。一人でも活動できるように。だから私に魔法を教えてください!お願いします!」
「……まずは残念な話からしようか」
ロイドは悩んだうえでその重い口を開いた。
「冒険者ってのは信用も大事だが実力主義だ。弱い奴はそいつが悪い。舐められたくなければ強くなるしかないし、実力と実績で証明するしかない」
「…………はい」
「だから強くなりたいってのは分かるが、俺は魔法を教えられない。そもそも俺が睡眠魔法以外の適性がなく《光弾》すら使えないからだ」
魔法使いである以上ロイドもいろいろな魔法を覚えようとした過去があった。だがどれもうまく発動できず、睡眠魔法だけの異端魔法使いが誕生したのだ。
「新しく魔法を覚える方法は二つ。魔法学校に入って魔法を覚えるか、初級の魔導書を買って自力で覚えるか。魔法学校は結構金がかかるし、初級とはいえ魔導書もそれなりの金額にはなる。そんなもとまった金はあるか?」
「いえ、ないです」
「だろうな。強くなるために魔法を覚えたい、魔法を覚えたいが金がない、金がないから冒険者になりたいけど強くないからパーティーを組めない。詰んでるな」
自分で言っててもキツイなとロイドはため息を吐いてしまう。本当に辛いのは目の前の少女のはずなのに。
「一応聞くけど、冒険者以外の選択肢は無いのか?普通の生活の方が稼げはしないが安定はするぞ」
「それはそうなんですが……」
「まぁなんか理由あるんだろうなとは思ってたけどな」
「え⁉」
「ここで安定志向とる奴が家を出て違う街の冒険者ギルドに来るわけ無いし、そもそもその魔法の杖、練習用のくそ安いやつだろ?普通は冒険者になる前にちゃんとしたの買うはずだしな。どう見ても訳ありだしそんな奴をパーティーに入れる奴はいない。ギルド側も勘付いてるだろうからそこに関してのフォローもないだろうしな」
「あ、そんな、じゃぁ」
自分の杖を見て絶望が増えたことに気づく。もう自分に未来は無いのではないか?
「だけどここで俺が見捨てるのも目覚めが悪いのでここからは俺からの提案だ」
今までの重い声とは打って変わり、今度は明るめの声でロイドは続ける。
「時々この店を手伝いながら魔法の訓練をしよう。そしたら俺が正式にパーティーを組んであげよう。新人同士なら別だがソロ冒険者+新人なら二人パーティーとして受理されるはずだ」
「……いいんですか?」
「この前の一角兎の時にある程度戦えるのは見てるからね。やりようというか伸びしろはあるさ。ただ俺も店を開けなきゃいけないから普通の冒険者よりは受けれる依頼の回数は減るし、半分引退したような身だから動きは鈍くなってる。それでもいいか?」
「はい!……ミリーさんを信じてここに来て正解でした。ロイドさん、これからよろしくお願いします!」
彼女の瞳に浮かぶ涙はここを訪れた時とは違い、歓喜に満ち溢れていた。




