元冒険者の睡眠術師と新人魔法使い
「え、一人だとクエストを受けられないんですか」
冒険者ギルドの受付カウンターで魔法使いの少女リゼ・フレーベは絶句した。
「はい、当ギルド新人の冒険者の方は自分たちでパーティーを組むか、ベテランの冒険者の方と複数回一緒にクエストを受けるかしてからでないとソロで依頼を受けることが出来ない決まりでして」
受付嬢にそう言われたがこの街に来て間もないリゼには知り合いも馴染みのある冒険者もいなく、このままでは生活費を稼ぐことすらままならないという悪い考えが頭の中をぐるぐる回っていた。
「えっと、ベテランの冒険者っていうのはどんな人が?」
「はい。こちらでちゃんと信頼できる方々を紹介しますが、生憎今はちょうどみんな出払っちゃってるんですよね。なので何日か待ってもらう事になりますが」
「そうなんですか……」
背に腹は代えられない、数日間はご食べ物を我慢すればと思っていたその矢先だった。
「こんにちわー、《三日月堂》です。ポーション届けに来ました」
挨拶をしながら冒険者ギルドに入ってきた青年はカウンターに持っていた荷物をどんと置いた。
「ロイドさん、いつもお疲れ様です。ではこれがポーションの代金ですね」
リゼの対応している受付嬢とは別の受付嬢がその青年の対応をし、そのまま彼はギルドを出ていこうとしていたその時。
「あ、ロイドさん!ちょっとちょっと」
「え?ミリーさんどうかした?」
受付嬢のミリーにロイドと呼ばれたその青年はカウンターに近づき、必然的にリゼの横に並び立つこととなる。
「ロイドさん今でも時々ソロで依頼受けてるでしょ?この子新人なんだけどパーティーがいないらしくてちょっと一緒にクエスト受けてくれないかな?」
「えぇ~、それってベテラン枠のあれだろ?俺一人じゃじゃ不相応だろうし、そもそも女の子だったら女性の冒険者がいた方がいいだろ」
「生憎みんな出払っちゃってる上に……多分この子金欠で生活費をすぐ稼がないといけないっぽいの」
「あぁそういう事ね」
こそっと耳打ちで教えて貰ったことに仕方なくだが納得し、ロイドはリゼの方を見る。
「えっと、杖を持ってるから魔法使いなんだろうけど、君名前は?得意な魔法は?」
「リゼ・フレーベといいます。魔法は《光弾》が使えます」
「他は?」
「今は満足に使えるのはそれだけで……」
「初級の初級だな」
属性のついてない、魔法使いが最初に覚えると言われる魔法。それが《光弾》だ。
「ごめんなさい」
「今は謝る必要は無いさ、これから覚えていけばいいし。ミリーさん、依頼って何があるの?」
「今だと一角兎の駆除がありますね。南の森に群れが出たので対処してほしいと」
「一角兎ね。リゼは魔法で倒せる?」
「はい、この街に来るまでに戦ったことがあるので。ただ当てるのがすごく難しくて」
額に鋭い角が生えた兎のモンスターはその素早い跳躍で攻撃を避けてくるので戦うと厄介だと有名だ。
「ならなんとかなるか。じゃあそれ受けていいだろ。俺も準備があるから出発するのは明日の朝でいいか?」
「はい!よろしくお願いします」
それじゃ後はよろしくとロイドは帰ってゆき、クエストの受付をしたリゼはその日は冒険者ギルドに泊まることになった。
翌朝冒険者ギルドで合流した二人は、南の森に向けて出発した。
森に入って少し経った頃リゼはふと尋ねた。
「ロイドさんって剣士なんですか?」
ロイドの腰に掛けられたショートソードを見てリゼはそう予測したが、帰ってきた答えは予想外のものだった。
「あぁこれ?これは飾り、って言ったら言い過ぎだけど俺の本職は魔法だよ」
ロイドは左手の人差し指につけられた指輪を見せる。
「これは指輪型の魔法の発動媒体。杖よりは魔法効率が劣るけど両手が空くのがメリットかな」
「剣を持つ為なのはわかりますが、それなら杖を持ってもいいんではないですか?」
「普通ならそれでもいいんだけどね」
ははっと力無く笑いながらロイドは続ける。
「俺、睡眠魔法しか使えなくて攻撃魔法が使えないんだ」
「睡眠魔法……相手を眠らせる魔法ですか?」
「そうそう。しかも長時間眠らせられるわけでもないしさ。警戒心があるだけで数十秒しか眠らせられないし、抵抗力がある奴に本気で抵抗されたら5秒くらいしか眠らせられなくてさ。昔は別の街で冒険者パーティを組んでたけどクビになったから街を変えて今に至るってとこさ」
「なんか、失礼なことを聞いてしまってすみませんでした」
申し訳なさそうにするリゼに、ロイドはいいのいいのと返す。
「たまたまその時に勉強してた薬師としての知識が生きてて生活は安定してるから問題は無いさ。それよりもこれからの戦闘の方が問題だ」
それまで笑顔で話していたロイドの表情が急に真剣になる。
「俺は短い睡眠魔法、君は単純な攻撃魔法。お互い使える魔法がこれだけならやる事は一つ。俺が眠らせたモンスターに間髪入れずに《光弾》をぶち込んでいく事だけだ。連続で魔法を撃つのは大変だがシンプルでいいだろ?」
「分かりました。頑張ります」
自分の役割を認識し、リゼの杖を握る手に無意識に力がこもる。
「冷静に手早く確実に。寝ている兎に魔法を撃つ簡単なお仕事だ」
その時リゼの前に腕を出し歩みを止めさせる。
「来るぞ」
その言葉と共に茂みの中から何匹もの一角兎が飛び出してきた。自身の誇るその角で二人を突き刺そうと勢いよくこちらに飛び掛かってくる。
「《眠れ》」
ロイドが魔法を唱えると飛び掛かってきた一角兎たちが次々と眠り地面に落ちていく。
「リゼ!」
「はい!《光弾》!」
杖先から放たれる光の玉は眠った一角兎に当たりその命を奪ってゆく。
「よし、その調子だ。どんどん撃ってけ」
ロイドはリゼを褒めつつ剣を抜き、自身も眠った相手に刃を突き立ててゆく。
「《眠れ》。相手が出てこなくなるまで気を抜くなよ」
眠らせ仕留める。それを繰り返していき数十匹倒したところでようやく一角兎の群れを倒し切ったのか草むらから新しい個体が出てくることが無くなった。
「結構いたな。証拠の角をはぐのが面倒だな」
「あの」
リゼは勢いよく頭を下げる。
「今日は本当にありがとうございました!」
「いや、そこまで深く感謝しなくても」
「一角兎には何発も魔法を撃たないと当たらないです。こんな数がいたら本当なら魔力切れを起こしていてもおかしくはありませんでした。そうならずに群れを倒せたのはロイドさんのおかげです」
「ん、まぁなんだ、その、あれだ。証拠持ってギルドに戻るまでがクエストだからな。最後まで頑張ろう」
普段からここまでまっすぐに感謝されることは少ない為言葉もしどろもどろになってしまうロイドであった。
その後ギルドに戻ってそれぞれが報酬を受け取ると、リゼは自分の貰った分がロイドのものよりだいぶ多い事に気づいた。
「ロイドさん、これって」
「あぁ、今回の俺はベテランの保護者枠だから報酬が少ないんだよ。その分新人に回して装備とか整えるようにしてもらう為にな。ギルドから別々に受け取ったのもベテランが不正して新人から分捕らない様にって配慮だし」
「でも今日の依頼はロイドさんのおかげで達成できたようなものですし」
「だからそれ込みでの保護者枠の報酬なんだよ。そういう決まりなんだから気にすんな」
新人冒険者はいろいろ金がかかるからそれに使うようにとも付け加える。
「何から何まで、本当にありがとうございました」
「おう、冒険者生活頑張ってな」
そう言ってロイドは自宅に帰っていくのであった。




