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第五話 社長の告白

第五話 前編 社長の告白


 電話口から響く声は、与世夫の背筋を凍らせた。

 「……神林、社長……?」


 かつてオルディス商事で毎日のように怒鳴られていた声。その威圧感と不気味さは、年月が経っても体に染みついていた。


 「ハハハ……覚えていたか、世夫。まさかお前が、あの惨めな会社員から数十億の資産家に化けるとはな。だが運命というのは皮肉なものだ。金を持ったことで、お前は“標的”になった」


 受話器越しに響く笑いは、背後に潜む巨大な影を感じさせた。

 氷川が割り込む。

「神林……あなたが黒幕だったのね。聖与兄弟を消そうとした理由は?」


 神林は一瞬だけ声を潜め、低く告げた。

「二人の父親――聖与剛三は、私の“師”だった。政財界と裏社会を結びつける仲介人。その血を引く者が二人も生きているなど、我々にとって致命的なんだよ。お前たち兄弟が存在する限り、古い秘密が暴かれる危険がある」


 与世夫は拳を握りしめた。

「そんな理由で……俺を殺すってのか!」

「理由はそれだけではない」


 声がさらに冷たくなる。

「剛三が残した“遺産”がある。莫大な裏金、取引記録、そして政財界の要人を脅すための証拠資料。それを受け継ぐ資格があるのは、血族だけだ。……お前たちだ」


 泰司の顔色が変わった。

「まさか……それを奪うために、俺たちを狙って……」

「察しがいいな、泰司」


 神林は楽しげに笑った。

「お前たちは、鍵だ。父が死ぬ直前に残した二重暗号の鍵。それは“兄弟の血”によって開く。……二人そろって初めてな」


 与世夫の脳裏に、いくつものピースがはまっていく。

 ――予告された死。

 ――血統を消すという目的。

 ――兄弟が同時に狙われる理由。


 すべては父が残した“遺産”の存在に繋がっていた。


 「待てよ……神林。つまりお前は、俺たちを殺す前にその“遺産”を見つけようとしているんだな」

 「そうだ。だが残念ながら、時間はない。だからこうして最後通告をしている。――明日、剛三が眠る墓へ来い。来なければ……弟も兄も、ここで終わりだ」


 通話は一方的に切れた。


 沈黙の中、氷川が重く呟く。

「……父親の墓が、鍵になっている」


 与世夫は泰司を見た。血を流す兄の目には、憎しみと同時に奇妙な共闘の光が宿っていた。


「どうやら……弟と手を組むしかなさそうだな」


第五話 後編 父の墓


 翌日の午後、与世夫と泰司、そして氷川凛は、郊外の古い墓地に足を踏み入れた。

 薄曇りの空の下、湿った土の匂いが漂う。静まり返った墓地には、蝉の声さえ届かない。


 墓石には――「聖与剛三之墓」と刻まれていた。

 与世夫は、胸の奥が重くなるのを感じた。

 子どもの頃、病で父を失ったと信じていた。だが今は違う。父は裏社会に深く関わり、死の真相すら闇に葬られていた。


 「……父さん」

 与世夫は思わず墓前に膝をつき、目を閉じた。泰司も隣で無言のまま立っている。その横顔は憎しみと諦念に覆われていたが、その奥に微かな兄弟の情も見えた。


 氷川が慎重に墓石を調べる。

 「……ここ。裏側の石が不自然に削れているわ」


 彼女の指先が触れると、カチリと小さな音がした。石がずれて、中から鉄製の小箱が現れる。


 泰司が息を呑む。

 「やはり……遺産はここに」


 小箱は重く、錆びついていた。二人で力を合わせて蓋を開けると、中には古びた革の手帳と、USBメモリが収められていた。


 氷川が眉をひそめる。

 「これが……裏金や取引記録の証拠……?」


 与世夫は震える手で手帳を開いた。そこには政財界の有力者たちの名前、巨額の裏金の流れ、そして“神林”の名が何度も書き連ねられていた。


 「これを世に出せば……神林は終わりだ」

 泰司の声が低く響く。しかしその時――背後から拍手が聞こえた。


 「見事だ。さすがは剛三の血を引く者たちだ」


 三人が振り返ると、墓地の入り口に神林の姿があった。護衛らしき黒服の男たちを従え、薄笑いを浮かべている。


 「さあ、渡してもらおうか。それが俺の手に入らぬ限り、兄弟そろってここで死ぬことになる」


 与世夫は手帳を胸に抱き、泰司と目を合わせた。

 兄弟の間に、言葉は要らなかった。


 ――ここで終わらせるか、それとも立ち向かうか。






次回、第六話 墓前の決戦


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