5-微笑の仮面、その下で
その男は、まるで彫像のように立っていた。
金の陽に照らされて、プラチナブロンドの髪が微かに輝く。
整った頬骨の輪郭、氷のように澄んだ青の瞳
――そして何より、纏う空気がすべてを拒絶していた。
王太子、セドリック・ヴァルトハイン。
神聖ヴァルトハイン家の嫡男であり、王国最年少の軍指揮官。
若干二十歳にして、戦場では「銀雷」と呼ばれるほどの天賦の才を誇る男。
そして――前世でリアナを裏切りと断罪の場に引きずり出した張本人でもあった。
(この人に、私は……処刑命令を出されたのよ)
リアナは、呼吸を整えた。
この再会のために、何百回も夢の中で演じた。笑顔の仮面は完璧に整っている。
「リアナ・フェルディナントと申します。初めてお目にかかります、殿下」
深々と頭を垂れ、決して目線を合わせぬまま、礼を尽くす。
これが彼の好む型だったことも、覚えている。
セドリックは、無言のまましばらくリアナを見つめていた。
そして、ようやく短く言った。
「……侯爵家の令嬢にしては、控えめな態度だ」
「身に余る光栄でございます」
事実、それは謙遜ではなかった。
リアナは、ここで彼に媚びる必要など微塵もない。
セドリックは一歩近づき、その目を細めた。
「神殿式典での立ち居振る舞い、見ていた。……聖女ミレーヌとも接触していたな」
「はい。貴族としての務めにて、面識をいただきました」
「彼女を、どう見る?」
来た。これが彼のやり方――試す質問だ。
正解を告げる気はない。ただ、少しでも歪めば即座に切り捨てる。
だがリアナは、怯まなかった。
「崇高なるお方と拝見しました。
ですが、神の声を聞くという責務は、想像を絶する重さと存じます。
それを背負うに足る方かどうか、判断を下すのは、我らではなく歴史と記録かと」
セドリックの目が僅かに鋭さを帯びた。
その瞳には、この女、只者ではないという読みが滲んでいた。
「なるほど。……言葉は、飾られているが、芯はある。
女にしては冷静だな。感情で動かぬか?」
リアナは、軽く目を伏せて答えた。
「殿下のお言葉に、学ばせていただきます」
(私はもう、貴方の言葉に縋らない。
あなたの庇護を得ようとも、あなたの感情に望みを抱くこともない)
セドリックは、つまらなそうに背を向けた。
「……用が済んだ」
まるで価値を見出さぬものに対するような、投げ捨てるような声。
リアナは、深く頭を下げたまま、その姿を見送った。
だが、彼の足音が遠ざかるにつれ、心の奥に、凛とした炎が灯る。
(この方は、再び私を見下した。
いいでしょう。では――貴方が“見上げる側”になる日まで、私は舞台を整えましょう)