17-声なき秩序の再生
王都は、いっとき瓦礫のようだった。
神を失ったわけではない。
けれど、神の“声”に騙された記憶が、王宮にも神殿にも民衆にも深く刻まれていた。
教えを疑う声が日々あふれ、神官たちは信用を失い、誰もが“次は何を信じればいいのか”を探していた。
――その中で、リアナとカイルは、残った。
カイル・ローウェルが率いる新生・国家魔術局は、
神殿の権限を引き継ぐ形で“予言・異常兆候の観測”を管理するようになった。
彼が敷いたのは証拠に基づく知識と抑止の網だった。
魔術は信仰と異なり、再現できなければ正しくない。
その厳格さが、再び王都に事実を根付かせた。
一方、リアナ・フェルディナントは王立資料院の再整備を担った。
過去の神託記録と王政資料を照合し、
「いかにして偽りが真実に見えたか」を言語と構造で読み解く仕事だった。
彼女は民に説得せず、弁じず、ただ記録を残した。
やがて人々は、彼女の静かな沈黙の中に信頼を見い出すようになった。
王都の広場に人々が集まる。
もう誰も奇跡の光を求めない。
代わりに舞台には、魔術と理論の研究成果が披露され、
正確な天候予測と治水計画が発表された。
その中心に立つのは、リアナとカイルだった。
拍手は起きた。
けれどそれは、誰かを讃える音ではない。
ようやく、自分の頭で考えて生きていけるようになったことを喜ぶ、
王都の者たちの掌の音だった。
*
「……あなたが言っていた通りになったわね。
神に頼らなくても、人は立てるって」
リアナが、ゆっくりと花壇を見下ろしながら言った。
カイルは隣で腕を組み、空を見上げた。
「俺が言ったんじゃない。お前が最初から、そうだったんだ。
俺はただ――信じた女の歩幅に、遅れず並ぼうとしただけだ」
「……言うようになったわね、局長」
「誰かの影でうずくまってた過去が、少しずつ消えていくのは、
お前の隣にいると、悪くない気がする」
*
こうして、王都は復活した。
神の名ではなく、誰かの叫びでもなく、
静かな記録と、無言の知性によって。
リアナとカイルが離れなかった意味は、
この街の空気に、確かに根を張り始めていた。




