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14-配流処分と、影の頂に昇る者

 王宮の青瑠璃の間に、選ばれし十七名の審問官が並んでいた。


その中央に、王太子セドリックが膝をついていた。


かつての栄光はない。

今やただの失政の象徴として、その名を呼ばれる男。


「セドリック・ヴァルトハイン。

 貴殿は、聖女ミレーヌ・クラヴィスの虚偽神託に加担、あるいは黙認した共謀責任により、

 王位継承権の停止に加え、信仰崩壊を助長した政治責任を問われる立場にある。」


重く響く審問官の声。

かつて部下を一喝するために響かせていた声とはまるで別物だった。


「……私は、信じた。ただそれだけだ」


「ただ信じたという言葉は、王位に立つ者の免罪符ではない。

 神の名を盾に、民の声を踏みにじった者がいたとき

 ――その盾を掲げたお前にも、責はある」


セドリックは、何も言えなかった。

否、言えるはずもなかった。


一方、王宮の北棟では、別の人間が正式に召喚を受けていた。


魔術師ライル・ローウェル。

長年、王直属の魔術団「黒衣の観察者」の長を務めてきた彼に、王より直接の命令が下る。


「国家魔術局、再編の件――

 ライル・ローウェル。貴殿に、初代・国家魔術局長官の任を与える」


その宣言のとき、誰もが息を呑んだ。


貴族でもなく、聖職者でもない者が、王国の魔術全系統の頂点に立つのは、史上初のことだった。


ライルは静かに膝をつく。


「……この職は、栄誉ではなく、秩序の剣と心得ます」


リアナは、その背後から黙って彼を見つめていた。

彼が何者でもなく、ただ正義の観察者であった頃から、変わらぬ姿で。


    *


 ――――同日夕刻 王命評決の発表


王太子セドリック・ヴァルトハインに対し、

信仰犯罪の直接的な実行責任は認められず、

ただし共謀的責任と政的失策により、王位継承権を永久剥奪。

皇族名簿より削除。

王城を離れ、辺境第二州へと配流処分。


処刑ではなかった。

だが、それは王という頂からの永久の追放だった。

辺境の地へ追放され、流刑地で一生を暮らさなくてはならない。


彼が背負っていた名も、血も、誇りも――

今はただ、過去に名を連ねた者として記録に残るのみ。


 ――その夜。

王都の高台から、処刑場とは反対の東の空を見つめて、リアナはぽつりと呟いた。


「人は、頂から落ちるとき、ようやく地面の硬さを知る。

 でも、ライルは最初から地面に立ってた。

 だからこそ、今、誰より高く昇れるのよ」


その隣で、昇進式を終えたばかりのライルが、柔らかく口元を緩めた。


「お前は……相変わらず、冷たい皮肉が似合うな」


「ええ。お似合いでしょ? 国家魔術局長官には……くすくす」

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