家族
ドーン! ドン! ドン! ドーン!
ドーン! ドーン! ドン! ドン!
ドドドドドドーン! ドン!
隣街の川沿いで行なわれていた花火大会もフィナーレを迎えたみたいで、フィナーレの花火が連続で打ち上げられている。
此のあと3時間くらいは渋滞しているから出かけるのはその後。
明日は家族の命日だから。
花火大会の会場から帰る人の群れが少なくなって来たんで出かける。
愛車のバイクに跨り暫く街の中を流していたら、Tシャツにジーンズ姿の中高生くらいの女の子が1人で歩いているのを見つけたんでナンパ。
「こんばんは、時間あるなら俺とツーリングいかない?」
「え? ツーリング? 今から?」
「そ、凄く奇麗な朝焼けか見れるダムがあるって噂聞いたこと無い?」
「あ! あるある、えっと何だったっけ? き、き、きなんとかっていうダムでしょ?」
「うん、菊池ダムね、奇麗な花火見てたら何か奇麗な朝焼けが見たくなってさ、見に行こうと思ったんだけど1人だと寂しいから一緒にどうかな? って思ってさ」
「うーん……どうしようかな?」
「行こうよ、帰りもちゃんと送り届けてあげるからさ」
「じゃ、行く」
「それじゃ此れ」
って言いながら、ヘルメットと革ジャンを渡す。
「え、革ジャン?」
「夏とはいえ夜のツーリングは冷えるから、着た直後は暑いけど走り始めたらちょうど良くなるから」
「うん、分かった」
俺の家族、お父さんお母さんお姉ちゃんお兄ちゃんの4人は菊池ダムで亡くなった。
菊池ダムの脇の山を越えたところにある有名な避暑地に向けてダムを取り囲むように走ってる道を走行中、車の前にダム湖とは反対側の斜面から突然猿の群れが飛び出して来る。
ハンドルを握っていたお父さんがそれに驚きダム湖の方にハンドルを切った。
ハンドル切った場所は偶々ガードレールが途切れていた所だった為に、車はそのまま湖面に向けてダイブする。
そのとき湖面がキラキラ光る様が面白くて、隣り座るお姉ちゃんに暑いから閉めてと言われたのに窓を開けて湖面に見入ってた俺は窓から投げ出され、斜面に生える木々の梢に引っ掛かり助かった。
俺を投げ出した車はそのまま湖面に激突。
激突の衝撃で気絶した家族は皆、溺死した。
そのとき小学校低学年だった俺は父方の祖父母に引き取られる。
転機は16歳になった夏に訪れた。
それまでは祖父の運転する車で菊池ダムに来て家族の冥福を祈っていたのだが、16歳になって直ぐに自動二輪免許を習得して、その夏は祖父に買い与えられた125ccのオフロードバイクで1人菊池ダムを訪れる。
祖父の車と違い小回りが効くオフロードバイクだったので、湖面の傍に行きたいとダム湖の周りを見て回っていたら獣道らしい細道を見つけた。
とんでも無い悪路だったけどオフロードバイクのお陰で湖面の直ぐ傍に行けたので、そこで背負っていたリュクサックから線香を取り出していたとき不意に声をかけられる。
『家族に合わせてやろうか?』
その声は耳に聞こえるというより頭に直接響くような声。
顔を上げ声のした方を見る。
青白い顔の70代くらいの年寄りが水際に立っていた。
「会いたいよ! 会いたいけど死んだ人とどうやって会うんだよ!」
『そうか? それじゃそこにいるのはお前の家族じゃ無いのか?』
年寄りはそう言い少し離れた湖面を指差す。
そこには、青白い顔だけどあの時のままのまだ40前の若々しいお父さんとお母さん、小学校高学年のお姉ちゃんと中学生のお兄ちゃんが立っていた。
我を忘れ俺は家族の方へ駆け出す。
家族も俺の方へ駆け寄って来た。
水際で家族と抱き合おうとしたけど出来ない、腕を伸ばしても互いの身体をすり抜けるだけ。
会話も出来なかった。
皆んな声を発しようとしてるんだけど音が出てこない。
『抱き合いたいか? 会話したいか? 私の手伝いをしてくれたら、抱き合う事も会話する事も出来るぞ』
「手伝い? 何をすれば良いんだ?」
『私は菊池村に住む者たちの数を増やしたいんだ! だからお前がその手伝いをしてくれるのなら、此処でだけだが、家族と抱き合い会話できるようにしてやろう』
俺はそれ、色々と噂を流して人を菊池ダムに来るように画策して、年寄りに引き渡すことを躊躇すること無く承諾した。
後から家族に教えて貰った事だけど、ダム湖の中にある菊池村にはダム湖とその周辺で家族のように事故死したり自殺したりした人たちの霊や、ダム湖に不法投棄に来たり釣りに来たりして年寄りにダム湖に引きずり込まれた人たちの遺体が生活してるんだって。
だから俺の後ろに乗っている女の子も今日から菊池村の村民になるんだよ。