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廃墟


連れが車を止めて歩道を歩いてる5人組の歩行者に声をかけた。


「ヨウ、久しぶり元気してた?」


「アレ? 先輩、久しぶりです。


こんな時間にドライブですか?」


「ああ、あと2時間程で明日になるのに全然気温が下がらないから、ちょっと怖い噂がある廃墟に涼しみに行こうと思ってな」


「へー良いなぁー」


「なんなら一緒に来るか?」


「友達たちも一緒に良いですか?」


「良いよー、ってか、男2人だけで行くより女の子も混じってた方が俺たちもありがたいからな」


連れが以前バイトしていた飲食店の後輩とその友達、男性3人と女の子2人が車に乗って来る。


「うー、冷房効いてて涼しぃー」


「そうだろ、そうだろ、あ、こいつ俺の大学の同級生の優希」


連れが助手席に座る俺を車に乗り込んで来た5人に紹介した。


俺と連れは夜になっても30度以上ある熱帯夜にうんざりして、連れが大学で聞き込んで来た噂、廃村になった菊池村の廃墟に幽霊が出るって話しを確かめに菊池村を目指している途中。


俺たちは女の子が混じった事で華やかになった車中でお喋りしながら、東京の水がめって言われる事もある菊池ダムを目指す。


目的地の菊池村はダムによって村が分断され、昭和の終わり頃だったか平成の初め頃だったかに住む人がいなくなり、隣町に吸収された。


それで噂ではその菊池村の病院や旅館などの廃墟に幽霊が出るらしい。


ま、眉唾物で真相はホームレス辺りが住み着いているんだと思うけどね。


俺たち夏休み中の大学生には関係無いけど平日の夜って事もあって、2時間程で菊池村がある山に到着。


到着したんだけど、車の周りは濃霧で真っ白。


「霧の所為で一寸先も真っ白だ」


「でも霧が発生してるって事は涼しいって事だから、願ったりかなったりじゃないの?」


「そうだな、じゃ行くか」


皆んなが車から降りる。


最初に車から降りた奴が発した。


「東京よりかなり涼しいけど、湿気が半端ないわ」


「ホントね」


と、運転席に目をやると連れが降りて来ない。


「オイ、行くぞ、どうした?


「なんか無性に眠いんだ。


悪いんだけど、ちょっと仮眠取りたいから皆んなだけで廃墟見物行って来てくれよ」


「ああ、分かった、行って来るよ。


皆んな行くぞー」




『大丈夫だ、大丈夫だ、記憶を改ざんするから大丈夫だ』




「ん?」


「どうしたの?」


「今、年寄りの声しなかったか?」


「「「「「俺(私)は聞こえなかったよ」」」」」


「ハハーン、そう言うこと言って、怖がらせようとしても駄目よ」


「あ、バレた?」


「「「「「「ハハハハハ」」」」」」






コン、コン。


俺は窓を叩かれる音で目を覚ました。


目を擦りながら外を見る。


パトロールと書かれた腕章を上腕部に巻いた老人が窓の外に立っていた。


窓を開ける。


「おはようございます。


何かご用ですが?」


「用って訳では無いんだが、こんなところに車を止めて何してるのかな? と思ってね。


私は山に不法投棄してる者がいないかパトロールしてる者だけどね」


「実は菊池村の廃墟に出るって噂を大学で聞いたんで、廃墟を見に来たんですが山に着いたら眠くなっちゃって、仮眠のつもりが熟睡しちゃったみたいです」


「菊池村の廃墟だって?」


「はい」


年寄りはダムを指差しながら話す。


「菊池村の廃墟は山には無いよ、廃墟はあのダムの底だ」


「え? どういう事ですか?」


「昔、バブルの前だからもう40年以上昔の事だけど。


ダムの所為で菊池村は山の此方側とダムの底とダムの向こう側に分断されてね、住民がドンドン引っ越して行ってたんだが、菊池村の地主っていうか本家本流の血を引く東京で株だったかで大金持ちになった人が村に帰って来て、故郷が無くなるのは嫌だ、山を超えたところにはスキー場や避暑地があるからなんとかなる筈だと儲けた金を注ぎ込んで、病院やマンションや旅館を建てたんだ。


でも箱物だけで人が集まらず逆に人が少なくなって行く。


それでもその人はなんとかなる筈だと頑張ったんだけど、ある夏、台風の豪雨で山崩れが起きて、病院やマンションそれに残っていた菊池村の家々もあのダムの中に落ちてしまったんだ。


菊池村の住民はもうその頃には殆ど居なくなっていたんで、犠牲者はその大金持ちの男だけだった。


だから廃墟を山で探しても見つからないよ」


「へーそうだったんだ」


「まぁ町にとっては迷惑な噂だけど、私にとっては存在しない廃墟を探して山の中をウロウロする人が多ければ、不法投棄する奴らが寄って来ないからありがたい噂ではあるな。


そういう訳だから気をつけて帰りなさいよ」


「はい、情報ありがとうございます」


頭を下げ年寄りが自分の車の方へ戻って行くのを見送り、俺は後部座席を倒して眠りこけている優希に声をかけ起こす。


ボーと寝ぼけてる優希に今聞いた話しをしてやった。


優希は後部座席を元に戻してから助手席に座り変な事を言う。


「アレ? 皆んなわ?」


「皆んなってなんの事だよ?」


「来るとき女の子もいたような……」


「お前、まだ寝ぼけてるのか? 今もそうだし来るときもお前と俺2人だけだっただろうが」


「アレー? 夢だったのか?」


ブツブツ言い首を傾げる優希を横目で見ながら、俺は車を発進させた。








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