第51話 ヒーローズ
俺たちはH市で霧の帝国の拠点――霧の発生装置が設置されている場所を発見した。
横田基地に戻り全員ボディーカメラの映像をCIAに提出する。この映像と俺たちの報告を参考にして、CIAと米軍特殊部隊シールズが突入作戦を立てるのだ。
だが――。
「霧の帝国の兵士が、うじゃうじゃいるんだよな……」
俺たちは帰りの車の中でモーリーから、工場の中の様子を聞いている。モーリーによれば、工場の中には兵士が沢山いた。何人いたかは、CIAがボディーカメラの映像を分析するだろうが、問題はそこじゃない。
魔石になる粉を持った兵士がうじゃうじゃいる中に、俺たちは米軍特殊部隊と一緒に突入するのだ。勝てるのだろうか? 霧の発生装置を破壊できるだろうか? 生きて帰えれるだろうか?
絶叫を上げた瞬間、魔石に変えられてしまう自分を想像し、俺は気分が悪くなり、顔をしかめ、深くため息をつく。
ダークエルフのミアさんが、ほっそりとした指を顎におく。
「恐らく、先行偵察部隊を我らが排除したので、増援をかけたのだろうな。厄介なことだ……」
「他の所を襲うって選択はなかったんですかね?」
「もちろん、そういった選択もあり得る。T市だったか? 他のエリアでも霧が出ただろう?」
「じゃあ、なんでH市の拠点に増援が?」
「質の良い魔石が得られたのではないかな……」
俺は深く眉根を寄せる。
質の良い魔石を得られた――H市に住んでいた人間を魔石に変えたら、良い魔石になった。だからH市でもっとマンハントをする……。
吐き気がする。
「しかし、そんなに兵士の数が多いなら、明日の作戦は中止じゃねえか? 突っ込んで行くより、外で待ち伏せる方が確実だろう?」
ドワーフのガルフだ。ガルフの言うことも一理ある。
最悪、H市は放棄。霧の帝国の拠点になっている工場の周りをコンクリートで囲って、出入り出来なくしてしまう。封じ込め作戦だって考えられる。
キャンディスさんが、グッと髪をかき上げた。
「今は考えても仕方ないわ。それより食事よ! さあ! 食べるわよ!」
俺たちは、夕食をとるため横田基地の食堂に来た。
横田基地の食堂は、映画に出てくるような広い食堂で、素っ気のない金属製のテーブルが並んでいた。沢山の米軍兵たちが食事をしている。横田基地は空軍の基地だから、パイロットや管制官もいるだろう。
俺たちが入り口に立つと、俺に気が付いた若い兵士が食事の手を止めて立ち上がった。食堂内で俺たちに気が付いた人が増えて行く。俺たちを見て色々な声が上がる。
「オイ! 見ろ!」
「レジスタンス!」
「CIAのキャンディスだぜ!」
「ユウマもいるぞ!」
「獣人って本当にいるんだ……」
「ダークエルフは、ラティーノっぽいな」
「あれがドワーフか。腕相撲したいな」
俺はボソリとつぶやく。
「止めとけ。腕をへし折られるぞ」
どうやら米軍の連中は、俺たちに敬意を示してくれいるらしい。まあ、悪い気分じゃない。気持ちに応えて胸を張ろう。
俺たちは、堂々と食堂の奥へ向かった。俺たちが進むと、次々と兵士が立ち上がる。食堂の一番奥では、料理を担当する兵士がニカッと笑って俺たちを待っていた。
「ようこそ! ヒーローズ! たっぷり食って行けよ!」
ぶ厚いステーキと冷えたビールが、ガチャリと出て来た。
「食うか……!」
俺は、ステーキを胃袋に流し込んだ。
ああ、元気をもらえた!