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第5話 邂逅

 俺は機動隊と逆方向へ逃げた。自分のマンションから遠ざかるが仕方がない。今は、あのエルフたちから逃げる方が先だ。

 背後で声が聞こえた。振り返ると、薄らとした霧の向こうで俺の方へ駆け出す黒い影が見えた。

(やばい……エルフと一緒にいた兵士だ……)

 俺を追いかけるつもりだろう。俺は足音が立つのを気にせず全力で走った大通りを直進しながら、どうするかと考える。

 もう少し走れば駅がある。駅に逃げ込み電車に乗れば……。いや! タイミング良く電車が来るとは限らない! 駅はダメだ。追っ手から逃げられそうな場所は……。

 走りながら左右を見ていると、左前方にショッピングセンターが目に入った。

(ここだ!)

 俺はショッピングセンターの敷地へ走り込む。早朝なのでショッピングセンターは、まだ開店していない。だが、このショッピングセンターは敷地が広く、南側は公園になっているのだ。

 公園には、植樹された大きな木やベンチ、子供向けの遊具などが設置されている。さらに公園の南側は、マンション群に隣接している。マンションとマンションの間には通路があり、初めて入った人にとっては迷路同然だ。ここなら追っ手をまきやすい。


 俺はショッピングセンターの建物をグルッと回り込んで南側の公園に出た。

 息が切れている。久しぶりに全力で走ったので苦しい。

 立ち止まって耳を澄ます。後ろから足音は聞こえない。追っ手をまくことに成功したかもしれない。追っ手が大通りを直進したことを祈ろう。


 呼吸が落ち着いて来た。公園の中を通り抜けて、マンション群の中へ。そして俺の住む部屋へ戻ろう。


 歩き出そうとすると不自然な物を見つけた。いや、物と言うのは正確じゃない。空間に黒い穴が空いているのだ。穴の大きさは一メートルほどで、空中に浮いている。

(霧のせいで、光が乱反射したとか……?)

 霧は徐々に薄くなっているが、それでも視界は悪い。もうすぐ日の出だ。太陽の光の加減で、黒い穴が見えているのかもしれない。

 そんな風に考えていると、黒い穴の中から人が出てきた。

(えっ!?)

 俺は悲鳴を上げそうになったが、何とか耐えた。悲鳴を上げて、あのエルフたちを呼び寄せてしまっては大変だからだ。

 穴の中からは、次々と人が出てきた。

 最初に出てきたのは、肌の色が濃い美形の女性だった。コロンビアとか中南米にいそうな雰囲気だ。黒い革のパンツに、黒い革ジャン、足下は編み上げのブーツを履いて、どこのロックスターかといった出で立ちだ。

 女性は穴から素早く飛び降りると、サラサラの長髪を手でかき上げながら周囲を警戒した。手には大ぶりなナイフを持っている。


 続いて飛び出してきたのは、全身毛むくじゃらの歩くぬいぐるみといった雰囲気の犬のような獣人だった。手には弓を構えている。


 さらに背が低くヒゲの濃い男がハンマーを持って黒い穴から出てきた。三人が飛び出すと空中にあった穴は消えてなくなった。

(獣人に、ドワーフ!?)

 俺は目の前の出来事に驚く。

 三人はお互いの背中を守るように構え周囲を警戒し、しばらくすると構えを解いた。

 三人の中で中南米系っぽい女性が、俺に歩み寄ってきた。

(あっ! 耳!)

 俺に近づいてきた女性は、耳が長い! エルフだ!

(もう、ダメだ!)

 俺は腰を抜かしてしまった。目をつぶり最期の時を恐れる。だが、いつまで立っても俺は死なない。

 恐る恐る目を開けるとエルフ女性は、俺に指輪を差し出している。俺と目が合うと、エルフ女性は知らない言葉をしゃべった。そして指輪を俺に押しつける。

(指輪を受け取れということか?)

 俺はエルフ女性から指輪を受け取った。

 指輪は金色で小さな青い宝石が埋め込まれている。ちょっと幅がある指輪で、不思議な模様が刻まれていた。なかなか美しい品だ。

 エルフ女性は、『指輪をつけろ』とジェスチャーで指示した。俺はエルフ女性の指示に従い指輪を左手につけた。

「これで私の話が通じるかな?」

 エルフ女性の低く落ち着いた声が俺の頭に響く。エルフ女性の声が、耳からではなく、脳に直接響く感じなのだ。非常に不思議な感覚だ。

「この指輪は魔導具で、お互いの意思疎通を可能にするのだ。私の話がわかったら、何かしゃべってくれ」

「あっ……ああ! 話していることは、理解出来た。凄く不思議な感覚だ。あなたの言葉が、直接頭に入ってくるような感じなんだ」

「じきに慣れる。ところで、この辺りにエルフがいると思う。人を襲ってないだろうか?」

「いる! 追いかけられていたんだ! もう、何人も襲われて消えてしまった!」

「そうか……。私たちは、あのエルフに抵抗する組織に属している。また、新たな世界がエルフの犠牲になりそうだと情報を得て、世界を越えてきたのだ」

「抵抗する組織?」

「ああ、レジスタンスという。我々は――」

「来たぞ!」

 会話は犬のような獣人の鋭い声に遮られた。

 革製ブーツが地面を叩く音が聞こえてきた。

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