第47話 午後の脱出作戦
午後の脱出作戦が始まった。昼食の後、仮眠をとったので俺はかなり元気回復している。
午後一時に横田基地を出発し、H市の北側と東側を回る。霧の帝国と遭遇せず、俺たちは順調にアメリカ人をピックアップした。救出したアメリカ人は、みんな笑顔で礼を述べた、この脱出作戦に参加して良かったと俺は再び感じ、充実感を得ていた。
だが、俺は一つ気になっていることがあった。キャンディスさんの態度だ。昨日から何かちょっと態度が変なのだ。昨晩は別の部屋に泊まったので、あまり話をする時間がなかった。そして今日は早朝から脱出作戦を実行しているので、仕事のこと以外話をしていない。
移動の途中、俺はキャンディスさんに話しかけてみた。
「キャンディスさん。どうしたの? 昨日から態度がおかしいけど?」
「ううん。いや、うーん……」
やはり態度がおかしい。
俺はひょっとしてキャンディスさんが破壊作戦に反対なのではないかと思った。キャンディスさんの態度が変わったのは、昨日オーウェン長官に霧の発生装置を破壊したいと俺が話した時からだ。
「破壊作戦には反対?」
俺の質問にキャンディスさんは、首を大きく横に振った。
「ううん! 賛成よ! 日本には、祖父と祖母が住んでいるし、母方の親戚がいるもの。CIA職員としても、霧を何とかするモデルケースになるし反対する理由はないわ」
キャンディスさんは、破壊作戦に反対ではないと言う。その割には歯切れが悪い口調だ。俺はキャンディスさんを問い詰めないように、なるたけ優しい口調で問いを重ねる。
「じゃあ、昨日はどうして黙っていたの? 俺がオーウェン長官と破壊作戦のことを話していた時、キャンディスさんは何も意見を言わなかったよね。それに今日も何か態度がおかしい。どうして?」
キャンディスさんは、しばらく車を運転しながらモジモジしていた。
何を言いたいのだろうと俺は気になって、ジッとキャンディスさんを見ていた。キャンディスさんは、顔を赤らめて俺に告げた。
「あなたが心配だったの……。ねえ、あなたの寝たのは仕事じゃない。好きよ。ユウマ」
俺は仕事じゃないと言ってもらえて、嬉しかった。キャンディスさんは、CIA職員なので、どこかでハニートラップなんじゃないかと疑う気持ちがあった。
だが、はっきりとキャンディスさんが口にしてくれたことで、俺の心の底に引っかかっていた小さなわだかまりが流れ去っていった。
俺は心に浮かんだ言葉を素直にキャンディスさんに伝えた。
「俺もキャンディスさんが好きだよ」
俺とキャンディスさんは、見つめ合いゆっくりと顔をちかづけキスをした。
すると無線が鳴った。
『一号車! 任務に集中してくれ! サーモグラフィーで、二人の動きは後ろから丸わかりだぞ! オー! バー!』
『本部より一号車! 車両の様子はモニターしている! 真面目にやってくれ! 大統領も見てるんだぞ!』
ゲッ! 見られているのか! 俺とキャンディスさんは、いつもの調子で大笑いした。
俺は無線機を手に取る。
「一号車! 了解!」