第46話 昼食
――午前十一時。
俺たちは横田基地の格納庫で昼食だ。格納庫の中には折りたたみ式のテーブルと椅子が用意され、横田基地内の食堂から料理が沢山運ばれてくる。
俺はぶ厚いステーキをチョイスした。給仕してくれる横田基地の兵士が、俺を見て言う。
「君は随分痩せてるな……。もっと食えよ! これと、これと、これと、これもサービスだ!」
「さんきゅうぅぅ……」
ぶ厚いステーキ三枚、ポテトフライ、フライドオニオン、チリコンカーン、それぞれが山盛りだ。俺は覚悟を決めて椅子に座り、ゼロカロリーコーラで、ステーキを胃袋に流し込み始めた。
脱出作戦は順調に予定を消化している。
一回目は朝の五時に横田基地を出発し六時にポイントワン。順番にアメリカ人を回収し先ほど横田基地に戻ってきた。救出した人数は五十二人。
これでH市の南側と西側からアメリカ人の脱出は完了だ。午後は北側と東側を回る。
俺もキャンディスさんもさすがに疲れた。
キャンディスさんは、テーブルに足を投げ出して、ハンバーガーをかじっている。パンツスーツだから見えないけど、キャンディスさんは足もきれいだ。
俺たちも疲れているが、米軍特殊部隊シールズの隊員も大変だ。ずっと防護服を着てガスマスクとゴーグルを付けているのだ。ストレスはかなりあると思うし、体力も削られる。午後はメンバーチェンジするそうだ。
レジスタンスの三人も、ガツガツと食べている。ぶ厚いステーキがお気に召したようだ。ドワーフのガルフなんて、ステーキをバーボンで流し込んでいる。どこのテキサスだよとツッコミたい。
「やあ。ユウマ。ああ、食事をしながらで構わないよ」
CIAのオーウェン長官がニコニコ笑いながらやって来た。俺の正面に椅子を持ってきて座る。
俺は軽く挨拶をして、食事を続ける。午後は二回目のピックアップがあるのだ。エネルギー補給をして置かないと体力がもたない。
「これを見てくれ」
オーウェン長官が手にしたオレンジ色の封筒からA4サイズに印刷された写真を取り出しテーブルにのせた。写真には赤い点がマジックで打たれている。
「H市の衛星写真ですか?」
「そうだ。赤い点が霧の中心地点だ。今、CIAの分析チームが、地図データと照合して霧の発生装置がありそうな建物をピックアップしている。明日には報告が来るだろう」
「じゃあ、破壊作戦は?」
オーウェン長官は写真を引っ込めると、両手をテーブルの上で組み身を乗り出した。小さな声で慎重そうな態度で話す。
「大統領は午前中の成果に大変お喜びだ」
オーウェン長官は、クイッと視線を滑走路へ向けた。俺たちが救出したアメリカ人たちを乗せた旅客機が離陸しようとしている。あの旅客機はアメリカ本土へ向かうそうだ。
「五十二人のアメリカ人を救出した。こいつはデカイ!」
「大統領選挙ですか? 支持率?」
「もちろんそういうのもあるが、自国民を救出するのは、それ以上に意味のあることなんだ。アメリカではね。だから午後も頼むよ!」
俺はポテトフライにケチャップをつけて口に運ぶ。ケチャップはハインツ――アメリカ製のケチャップだ。
「日本政府はどうでしょう?」
「国務長官が日本の外務大臣と話している。日米安保条約を持ち出したら、かなりビビってた」
無理かな? 日米安保条約は発動されたことが一度もないはずだ。となると……事なかれ主義の日本政府では発動させないように立ち回るかな?
「じゃあ、破壊作戦に日本政府の許可は出ませんか……」
「うーん。また黙認じゃないかな?」
俺とオーウェン長官は目を見合わせて苦笑する。黙認か……。一番可能性が高そうだ。何かあっても日本政府は責任を持ちませんってことだ。俺は日本のために働こうとしているのに、日本政府は何もしれくれない。頼りになるのは米軍やアメリカ政府……皮肉なもんだ。
「ユウマ。大統領の様子だと、多分、破壊作戦にゴーサインが出る。だから、午後もしっかりやってくれ! キャンディス! 大丈夫だな?」
オーウェン長官は、テーブルに足を放り出し椅子にもたれてウトウトしているキャンディスさんに声をかける。キャンディスさんは、半分眠ったまま手をヒラヒラとさせた。
「ええ~わかりました~。車にチョコレートバーを積んどいて下さい」
「ああ、ダンボールごと放り込んどこう! じゃあな!」
オーウェン長官は、パチンとウインクして格納庫を出て行った。