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第42話 魔石化防止薬

 魔石にならない薬があるのか! 単純なことなのに、なぜ気が付かなかったんだ!

 キャンディスさんがブレーキを踏んで車を停めた。後部座席に身を乗り出す。

「何で早く言わないのよ!」

「奥方! 落ち着いてくれ!」

 キャンディスさんが、ダークエルフのミアさんにつかみかからんばかりだ。俺はキャンディスさんを抑えるが、キャンディスさんの怒りはおさまらない。

「ひどいわ! どれだけの人が犠牲になったと思ってるの!」

「……」

 ダークエルフのミアさんは、うつむき唇をかむ。俺はキャンディスさんを抱えるようにして落ち着かせる。

「キャンディスさん! 落ち着いて!」

「落ち着いてられないわよ! 日本でもロスでも魔石にされた人が沢山いるのよ! それなのに――」

「薬の数がないんだ!」

 ダークエルフのミアさんが苦しそうに答えた。ミアさんの答えを聞いて、キャンディスさんの勢いが削がれる。

 ドワーフのガルフが、のっそりとした動きで悲しそうに話し始めた。

「キャンディスの姉ちゃん。ミアを責めないでくれ。全員分に行き渡る薬がねえんだよ」

 薬の数が少ないということか? なら薬を生産すれば良いと思うが……。

 キャンディスさんは、俺と同じことを思ったのだろう。キャンディスさんがガルフに聞く。

「魔石にならない薬をレジスタンスで作れないの?」

「研究はしているが作れねえ。そもそも材料も作り方も分からねえ」

「そんな……」

 キャンディスさんが、ガッカリする。

 キャンディスさんが怒ったことで、俺は逆に冷静になれた。ミアさんの立場も分かるし、ガルフの言っていることもわかる。魔石化を防ぐ薬はあるが、全員に行き渡らない。となれば、薬の争奪戦だ。下手をすれば、殺し合いになりかねないだろう。

 何とか救おうと思って訪れた世界で、自分たちの情報が原因で現地住民が殺し合ってしまう……。レジスタンスの三人からすれば、悪夢以外の何物でもない。


 ガルフは腰ベルトに付いている小さな物入れから小さな瓶を取り出して、俺たちに見せた。

「これだ」

「この小さな瓶に入っているのが魔石にならない薬か?」

「そうだ。倒したエルフから奪った物だ。戦利品ってヤツだな。レジスタンスの中で最前線に出る部隊には、一人に一つ配給されている」

「これが沢山あれば……」

「いや。そうとも言えん。この魔石にならない薬は、三日しか効かねえ」

「三日……」

 黙り込んでしまったミアさんに代わって、ドワーフのガルフと犬獣人のモーリーが丁寧に説明してくれた。

 この魔石にならない薬――魔石化防止薬は、霧の帝国でのみ作られている。原材料や製法は不明だ。効果は三日程度で、霧の帝国の兵士は一人につき五つ携帯しているそうだ。

 ガルフたちレジスタンスは、霧の帝国の兵士を倒し戦利品として魔石化防止薬を手に入れる。魔石化防止薬は貴重品なので、レジスタンスの中でも最前線で活動する兵士にだけ分配される。

「この魔石化防止薬は、いざという時に生き残るために持っている。例えば、多くの敵に囲まれて強行突破する時とかな」

「じゃあ、普段は飲んでないのか?」

「ああ。粉を浴びないように、ひたすら奇襲だ。少人数の敵しか狙わねえ。だからな。俺たちだってよう、悪意があって魔石化防止薬の情報を隠していたわけじゃねえんだ。言えばトンデモねえことになるかもしれないから黙ってたんだ」

「パニックになりかねないですからね……。わかります」

「すまねえな……」

 誰の責任でもないし、少なくともガルフたち三人がどうにか出来ることでもない。

 キャンディスさんが、ダークエルフのミアさんにスッと手を伸ばした。

「ミアさん。ごめんなさい。誤解してた」

「わかってくれれば良いんだ。ありがとう。我々も言うのが辛くてな」

「そうよね……」

 ミアさんはキャンディスさんの謝罪を受け入れ、二人は握手をして仲直りだ。


 キャンディスさんが気持ちを切り替えて、再びハンドルを握る。

「さあ、お昼を食べましょう! ムクドナルドでドライブスルー! ハンバーガーをガツガツ食べるわよ!」

 犬獣人のモーリーが、はしゃいだ。

「わっ! 食べたことがない料理だ! 楽しみ!」

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