第40話 検問
午前中はキャンディスさんに身体強化と発勁と伝授した。
午後は横田基地で脱出作戦の打ち合わせ。そしてレジスタンスとアメリカ政府要人との顔合わせ予定だ。
「そろそろ出掛けましょう。お昼は外で食べましょう」
十一時になったところで、キャンディスさんが出発と号令をかけた。
黒いSUVに乗る。
運転席はキャンディスさん。助手席は俺。後部シートに、犬獣人のモーリー、ドワーフのガルフ、ダークエルフのミアさんが座る。ちょっと狭そうだ。
「これは変わった馬車だな……。いや、馬がいないから馬車ではないのか?」
ドワーフのガルフが疑問を口にした。ガルフの世界では馬車が当たり前に動いているのだろう。俺は振り返ってガルフの疑問に答える。
「これは自動車といって、馬なしで動く車なんだ」
「ほう! そいつは凄いな!」
ガルフはご機嫌である。というのも、俺の部屋にあったバーボンをもう三本開けている。ガルフはスポドリ感覚でバーボンを飲むのだ。喉が渇いたらバーボン。ちょっとビール。また、バーボン。だが、ガルフに酔った様子はない。ドワーフって肝臓が五つか六つあるんじゃないだろうか?
ガルフは車が動き出した後も、『これは何だ? どういう仕組みなのか?』と色々質問してきた。キャンディスさんが霧の中を慎重に運転しているので、当然俺が答える。だが、あまりにも質問が多すぎて辟易した。
俺がウンザリしたところで霧を抜けてH市の出口に着いた。例によって例のごとく、検問だ。列が出来ていて、警察が対応している。
違うのは住民が殺気立っていることだ。前の方から怒鳴り声が聞こえてくる。
「オイ! 通せよ!」
「外出は自粛して下さい」
「冗談じゃない! エルフだか、何だか変なヤツが霧の中にいるんだろ?」
「いや、でも、外出自粛なんで」
「ニュースでやってたぞ! アメリカが動画出してたぞ!」
「あれはT市です! とにかく家に戻って! H市からは出られません!」
アメリカが公開した俺とキャンディスさんの戦闘動画の影響だ。
うーん……。霧の帝国の存在が明らかになり、危険性が周知されたという面では、動画を公開して良かったと思う。H市やT市の住人が、外出に気をつけてくれれば犠牲者が減るだろう。気になるのは日本政府がどれだけ対応してくれるかだが、検問の様子を見ると今までと同じ方針のようだ。
俺たちの順番になり黒いSUVが前に進む。キャンディスさんが窓を開け愛想良く警察官に挨拶する。
「どうも~!」
「あっ! アメリカ大使館さんですね!」
キャンディスさんは、この検問所ですっかり有名人だ。若い男性の警察官は、美人のキャンディスさんに会えて嬉しそうにしている。
俺はちょっとイラッとして、ヤキモチを焼いている自分に驚く。俺って独占欲が強かったかな?
警察官は俺の顔をチラリと見た後、後部座席のレジスタンス三人を見て目と口を大きく開けた。
「えっ!? あの!? 後ろに乗っている人たちは!?」
後部座席には、ダークエルフ、ドワーフ、犬獣人の三人が座っているのだ。そりゃ驚くよな。
キャンディスさんは、軽い調子で警察官に答える。
「アメリカ大使館関係者です!」
「いや! そうじゃなくて! あの格好!? というか人間!?」
「コスプレですよ! ほら、お台場あたりに行けば沢山いるでしょ? 日本はコスプレ大国ですもの~!」
「ええ~!?」
若い警官が騒いでいると、ベテランの警察官がやって来た。
「あの~、アメリカ大使館さん。この後ろの人たちは?」
「アメリカ大使館の関係者です」
「うーん……。例の動画に出ていた人に似ているのですが……」
「コスプレですよ! 何か問題があるのでしたら、日本政府からアメリカ大使へ伝えるようにご手配いただきますか?」
うわっ! キャンディスさんが大きく出ることで、警察官にプレッシャーをかけた。
「いや……、まあ、そこまで大げさにすることでは……」
「じゃあ、通って良いですよね? 横田基地に急いでいるので、足止めされると困るんですよ」
ベテランの警察官は、困っていたが最終的に折れた。
「あー、はい。どうぞ。あの……騒ぎは起こさないで下さいね……」
「大丈夫ですよ!」
なんか、スマン……。俺はベテランの警察官さんに深々と頭を下げた。