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第33話 間話 大統領執務室再び

 ――アメリカ首都ワシントンのホワイトハウス。


 大統領執務室では、少人数の会議が行われていた。

 出席者は、パーマー大統領、フルブライト国務長官、そしてCIAのオーウェン長官である。オーウェン長官は横田基地でユウマと話をしていた人物だ。

 CIAのオーウェン長官は、日本からビデオ会議で出席し、画面越しに話している最中だった。

「――という状況が発生し、霧の帝国の先行偵察部隊四名の遺体を回収しました。アラスカの空軍基地に輸送しています」

「よくやってくれた! これでエルフに関する情報が増える! 日本政府の方はどうかな?」

 大統領がフルブライト国務長官に話を振る。フルブライト国務長官は、いつも通りの真面目な表情で報告を行う。

「日本政府にはイレギュラーな事態だったと駐日大使から説明をさせました」

 アメリカ政府は、キャンディス仁奈川から報告を受けるとすぐに動いた。駐日アメリカ大使が日本政府に接触し、『在日米国人と連絡を取ろうとT市に入った大使館員が霧の帝国と出くわした。襲われたので止む無く交戦、発砲した。特殊な事態なので、目をつぶって欲しい』とお願いした。

「あくまでお願いです」

「そうか。日本政府は何と言っていた?」

「遺憾であると。つまり目をつぶってくれるそうです」

「ふむ。エルフの遺体については?」

「日本政府には伏せてあります。この件は、我が合衆国が他国に先駆けて情報を得るべきです」

 フルブライト国務長官は、エルフの遺体に関する情報はアメリカが独占した方が良いと考えている。外交上のカードになるからだ。

 大統領はフルブライト国務長官の狙いを理解し同意した。

「よろしい。エルフの遺体は、専門家に任せよう。解剖なり、DNAの分析なり、好きなだけやってもらおう」


 続いてモニターに映像が映し出された。CIAのオーウェン長官が、映像について説明する。

「これはキャンディス仁奈川のボディーカメラの映像です。T市での戦闘の様子が録画されていました。マンションの五階のため、霧がかかっていません」

 マンション踊り場での戦闘がモニターで展開される。

 途中で動画がストップされた。CIAのオーウェン長官が大統領に説明する。

「画面をご覧下さい。エルフの体の前に半透明の板が見えませんか?」

 踊り場でエルフが立っている映像が、モニターに映し出されている。そして銃撃を魔法障壁が防いでいる状態だ。

 パーマー大統領は身を乗り出す。

「本当だ! あれは何だ!?」

「魔法の障壁。異世界から来たレジスタンスのメンバーが、そのように動画で言っていました」

「信じられんな……」

 パーマー大統領は、執務用の椅子に背を預けアゴに手を置く。フルブライト国務長官は、ソファーに座ったままジッとモニターを見ていた。

 一呼吸を置いてCIAのオーウェン長官が事実を告げる。

「ですが、現に存在しています。キャンディスの銃撃を止められています」

「うーむ……。ロスでも銃撃は有効でなかったと報告を受けたが……」

「足止め程度にはなるようです。続けましょう」

 動画が再生される。戦闘が続き、ユウマがエルフに向かって突っ込む背中が映る。次の瞬間、エルフが崩れ落ちた。

「何が起きた!?」

「接近して銃を使ったそうです」

「銃撃も有効なのか?」

「接近すれば有効です」

「ふむ……」

 動画は再生され続けキャンディス仁奈川が霧の帝国の兵士に止めをさした。

 大統領は思わず立ち上がり、興奮して拳を握った。

「よくやった! タッチダウンだ!」

「キャンディスが、よくやってくれました」

「ああ! エルフを倒した! 遺体を回収した! 素晴らしい成果だ!」

 大統領は執務室内を歩き回り、キャンディス仁奈川を賞賛した。

 興奮が収まり大統領は執務机に寄りかかりながら考える。

「長官。キャンディスは昇進だ! 大きな果実をもぎ取った者には、合衆国大統領として報いなければ!」

「承知しました。昇進の手続きを進めます」

「二階級だ! それに昇給とボーナスもだ! 彼女はヒーローだからな!」

「わかりました。キャンディスも喜ぶでしょう」


 それまで黙っていたフルブライト国務長官が口を開いた。

「大統領。このビデオを公開しましょう」

「これを?」

「はい。このビデオは、我が国が霧の帝国の兵士を倒した動かぬ証拠です。国民の士気を高め、各国にアメリカが霧に対しても戦えるとアピールできます」

「なるほど……」

 パーマー大統領は、フルブライト国務長官の意見を検討する。ロサンゼルスでは米軍特殊部隊が、霧の帝国の先行偵察部隊を退けた。退けただけで、倒してはいない。

 一方、キャンディス仁奈川は、霧の帝国の先行偵察部隊を倒した。この差は大きい。

 だが、CIAのオーウェン長官は反対意見を強く述べた。

「大統領! お待ち下さい! CIAとしては、この情報は伏せておきたいです。情報の独占こそが、パワーの源です!」

 フルブライト国務長官が、すかさずCIAのオーウェン長官に噛みつく。

「オーウェン長官。では、いつまで黙っているのですか? 合衆国のどこかで霧が発生した時に、警官や兵士はどうやって戦うのですか? このビデオを公開しなければ、『情報を隠蔽した』と政権は火だるまになりかねません!」

「うっ……」

「それに我が国はエルフの遺体を回収しました。エルフの遺体から得られる情報を独占するだけで、他国より優位に立てます。充分でしょう?」

「それは……」

 CIAのオーウェン長官は言葉に詰まる。

 アメリカ合衆国は銃を持っている国民が多い。国民の自衛する権利が合衆国憲法で認められた国だ。霧の帝国から自衛する方法を政府が国民に知らせなかったとなれば、政府は非難される。特に右派からの突き上げは激しいものになるだろう。

 パーマー大統領は、政治的な影響を考えて迷った。ビデオを公開するべきか否か。

「うーむ……」

 腕を組み考えていたパーマー大統領の動きがピタリと止まった。

「オーウェン長官、このシーンは何だ?」

 動画は編集をしていなかった為に、ずっと流れていた。

 ボディーカメラの映像では、キャンディス仁奈川が、ユウマに近づいているのが見て取れた。

 大統領が心配する。

「二人が近いな。ユウマは怪我でもしたのか?」

「車内カメラの映像に切り替えてみましょう。オイ、車内カメラの映像を頼む」

 CIAのオーウェン長官がスタッフに指示をした。モニターは車内カメラの映像に切り替わった。

「あっ!」

「ああ~」

「まあ!」

 大統領執務室のモニターに映し出されたのは、ユウマがチョコレートバーを咥え、キャンディス仁奈川がキスをするようにチョコレートバーをかじるシーンだった。

 CIAのオーウェン長官は頭を抱え、フルブライト国務長官は口元に手をあてた。

 CIAのオーウェン長官が、すかさずフォローの言葉を口にする。

「あー……、その……、若い二人ですし……、戦闘が終った直後の興奮状態ですので……」

 パーマー大統領は、大笑いして手を叩いた。

「ハハハッ! 良いじゃないか! ビデオを公開しよう!」

「大統領。よろしいのですか?」

「ああ。二人が命がけでもたらしてくれた成果だ。霧の帝国の倒し方がよくわかる。これは我々が独占して良い情報じゃない。人類のためにも公開しよう」

「了解しました。大統領」

 CIAのオーウェン長官はモニター越しに頭を下げ、大統領の指示を了解した。

 大統領はご機嫌で指示を続ける。

「あー、それから! ビデオの最後には、このシーンを入れよう! ヒーローとヒロインがチョコレートバーでキスなんて素敵じゃないか!」


 こうしてユウマとキャンディス仁奈川のチョコレートキスシーンは、全世界へ向けて公開されることになった。

今夜は今話までです。

また、明日のお昼から連続で更新します。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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