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第30話 本当に気まずい

「待ってて!」

 キャンディスさんは、SUVの方へ走って行った。

 戻ってくると手に何かをわしづかみにしている。。折りたたまれたナイロンか何かの布に見える。

「回収するわよ!」

「え?」

 キャンディスさんは手に持った布を広げだした。広げた布は、寝袋のように見えるが……まさか、これは!?

「えっ!? ひょっとして……死体袋!?」

「そうよ。手伝って」

「手伝えって……」

 キャンディスさんは、死体袋を広げて霧の帝国の兵士を入れようとしていた。さすがに躊躇してしまう。

 キャンディスさんが、ジトッとした目で俺を見る。

「ねえ。このままエルフの死体を転がしておくの?」

 まあ、確かにね……。住民がエレベーターで下りてきて、死体が転がっていたら大騒ぎになる。

「不味いですよね……」

 俺が住むマンションの近くで戦闘になった時は、レジスタンスの三人がエルフの死体を異世界に持っていってくれた。だが、今度は自分で後始末をしなくてはならない。俺はキャンディスさんの手伝いをすることにした。


 俺が死体の肩を持ちキャンディスさんが足を持つ。持ち上げて死体袋に入れようとするが重い!

 俺は魔力を全身に巡らせて身体強化を発動した。身体強化を発動すると、死体は軽々と死体袋に入った。

「次は階段の二つね」

 戦闘のあった階段の踊り場へ戻り、二つの死体を死体袋へ仕舞う。不思議と嫌悪感はない。というより現実感がないのだ。俺はどこかフワフワとした感じで、フィルターを通して風景を見ているような気分だった。

 死体袋を抱きかかえるようにして二つ持ち上げる。身体強化がかかっていれば、五キロの米袋を持ち上げる感覚だ。

 キャンディスさんが、怪訝そうに聞く。

「重くないの?」

「大丈夫です」

 俺は死体袋二つを担いで五階のエレベーターに向かう。

 エレベーターに乗り、キャンディスさんが一階のボタンを押す。

「ねえ、本当にどうなってるの?」

「とにかく後始末をして脱出しましょう」

 エレベーターのドアが閉まる。

 俺は説明を後回しにして、死体袋を黒のSUVまで運んだ。


 黒のSUVの後部座席には、愛が震えながら座っていた。何か声をかけて上げたいが、俺も気持ちに余裕がない。

 キャンディスさんは、無言でSUVのハッチバックを開ける。

 ラゲッジスペースに死体袋を入れるのだろうか? 死体と同じ室内でドライブするのは避けたいのだが……。

「ここに?」

「他にないでしょ?」

「……」

 やむなしだ。俺は死体袋四つをラゲッジスペースに横たえた。かなりパンパンだ。死体袋から血は流れ出ていないが、血の臭いはする。

「ちょっと電話するから、車内で待ってて」

 キャンディスさんの指示に従って黒いSUVに乗り込む。助手席に座り、振り向くと後部座席で愛が自分の体を抱くようにしていた。

 ショックだっただろうな……。俺は霧の帝国について予備知識があるから、色々なことが起きても『仕方ない』と理屈で自分の気持ちを抑え込める。

 だが、愛は予備知識がない。目の前で起きたことを正面から受け止め消化不良を起こしているのだろう。色々説明した方が良いのだろうか? だが、知らない方が良いかもしれない。何かあっても、例えば警察に聞かれた時に『自分は巻き込まれただけだ』と言える。その方が、愛を守れるかもしれない。

 俺が悩んでいると、電話を終えたキャンディスさんが戻ってきた。

「行きましょう」

 霧の中を黒いSUVが、ゆっくり走り出した。



 *



 霧に覆われたT市を出た。幸いなことに、まだ、警察はT市の出口で検問をしていなかった。丘陵地帯のアップダウンが大きい一般道を進んでいると、愛が口を開いた。

「あの……この坂を下りたら右へ曲がって下さい」

 キャンディスさんが、運転をしながら愛に確認をする。

「右折? 私が向かっている方向と違うんだけど」

「右に曲がると、すぐ駅があります。駅で降ろして下さい」

 キャンディスさんが、チラリと横目で俺を見る。俺は振り向いて愛に質問した。

「駅で降りてどうするんだ?」

「彼の家に行く」

「だから俺の部屋に――」

「ごめん! 悠真! 違うの! 私……、今……、他の人と付き合ってる!」

「えっ!? あっ……、うん……、わかった……」

 俺は上手く言葉を返せなかった。車内に気まずい沈黙が流れる。キャンディスさんがウインカーを右に出した。

「駅へ向かうわ」

 ――本当に気まずい!

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