第27話 愛の部屋から脱出
「ユウマ!? ちょっと!? どうしたの!?」
玄関で出迎えた愛が驚く。俺は緊張から解放されたばかりで息が整わない。
「ハァ、ハァ……。どうしたって? 何が?」
「それ! 手に持っているの銃でしょう!?」
「ハァ、ハァ……。ああ。警察に借りた。まだ、撃ってない」
「まだって……。撃つ気なんだ……」
「ハァ、ハァ……。それだけヤバイ状況なんだよ」
「お水を持ってくる……」
愛がキッチンから水の入ったコップを二つ持ってきた。俺は愛から水を受け取り一気に飲み干す。学生時代はもっと体力があったのに、社会人になってから体力が衰える一方だ。
キャンディスさんも水に口をつけて、愛にコップを返す。
「ごちそうさま。私はキャンディス仁奈川。ユウマの知り合いです。愛さんのことは、ユウマから聞いてます」
「どうも……。あのっ! どういう状況ですか?」
愛は混乱して、キャンディスさんを咎めるような雰囲気を醸し出している。愛の見た目はかわいい系なのだが、気が強いところがあるのだ。
キャンディスさんは、笑顔で冷静に対応した。
「先ほどユウマが話した通り、ヤバイ状況です。霧に紛れて犯罪者が人を襲っています。このマンションに入り込みました」
「本当ですか!?」
「ええ。エントランスで交戦しました。彼らは武装しています」
「交戦って……」
キャンディスさんは、霧の帝国や魔石について話さなかった。愛に信じてもらえなかったら、かえってややこしくなると判断したのだろう。
愛はキャンディスさんの説明を聞いて、みるみるうちに顔色が悪くなった。血の気が失せて顔が青白くなっていく。
俺は愛の肩をつかんで言い聞かせる。
「愛! 聞いてくれ! このままここにいちゃ不味いんだ! 脱出しないと、愛の命が危ない! 支度は出来てるね?」
愛がコクリとうなずく。
俺はキャンディスさんに目配せをする。
「エレベーターホールは危険ね。先ほどの二人にかち合うわ。愛さん。非常階段は?」
「出て左の突き当たりです」
「わかったわ! 愛さんはスニーカーを履いてついてきて! ユウマは愛さんの荷物を持って!」
「了解!」
キャンディスさんは指示を出すと土足で室内に上がった。これには愛だけじゃなく、俺も驚いてしまう。
「キャンディスさん! どこへ!?」
「ベランダから出るわ!」
そうか! ベランダからの方が霧の帝国の連中に会う可能性が低い。今は愛を連れているし、俺は愛の荷物を持たなくちゃならない。交戦は避けた方が良いという判断か!
「愛! 行くよ! 靴を履いて!」
「えっ!? わかった!」
愛は混乱している様子だが、俺の指示に従ってくれた。キャンディスさんはベランダに出ると、ベランダの仕切り板を蹴りでぶち破った。
俺は愛の荷物を持ってキャンディスさんに続く。
キャンディスさんは、次々と仕切り板を蹴破り非常階段へ向かう。振り向くとちゃんと愛が付いてきている。
俺を非難するような目つきをしているので、俺はとっさに弁解する。
「仕方がないんだ!」
「よくわからない」
「それだけ切羽詰まった状況だと理解してくれ!」
「迎えに来てくれたのは感謝しているけど、これはないと思う! ほら!」
愛が室内を指さす。他の部屋の住人が驚いて俺たちを見ていた。
「すいません!」
俺は謝りながらもキャンディスさんについて行く。迷惑をかけている自覚はあるが、今大切なのは、このマンションから無事に脱出することだ。
俺は愛に強い口調で伝える。
「仕方がないんだ!」
「……」
愛は無言で非難がましい視線を俺に向けた。
「出るわよ!」
キャンディスさんの声で、注意が前方に向いた。
ベランダの突き当たりに非常階段が見えた。