第22話 決心
しばらくギクシャクとした空気が流れた。
正確には、キャンディスさんが色々話しかけてくるのだけれど、俺が上手く受け答えできない状態が続いた。
彼女は大丈夫だろうか? 部屋から出なければ食料がすぐなくなる。
それに霧の帝国の先行偵察部隊……。あの忌まわしいエルフたちがウロウロしているかもしれない。間違えてドアを開けたらアウト――魔石にされてしまう。
ふう……だめだ……。彼女を迎えに行こう。この部屋に連れてこよう。この部屋の方が、まだ安全だ。
俺はキャンディスさんに伝えた。
「すいません、キャンディスさん。ちょっと出掛けます」
「出掛ける? この霧の中を? どちらまで?」
「ちょっと……」
「ちょっと!?」
キャンディスさんが、浮気を疑うような目で俺を見る。いや、キャンディスさんとお付き合いをしているわけではない。キャンディスさんは、あくまで仕事として俺の様子を見に来ているだけなのだ。
それは、わかっているが、何かやましいことをしている気持ちになってしまう。
「さっきのメッセージですね? 彼女ですか?」
何で女性はこうも鋭いのだろう?
俺は観念する。
「はい。そうです。T市にいるんです」
「新たに霧が発生したT市ですか……。なるほど……」
キャンディスさんは、ジッと考えてから再び口を開いた。
「明日にしませんか? 明日ならシールズのチーム1が横田基地に到着しています。護衛を頼めますよ」
米軍特殊部隊の護衛か……。それは大変心強い。だが、霧が出たということは、T市は霧の帝国のターゲットにされているということだろう。急いだ方が良い。
「それは心強いですが……、霧の帝国の先行偵察部隊が現れたらT市は魔石の狩り場にされてしまいます。彼女も巻き込まれるかもしれません」
「数日待ちませんか? レジスタンスのお三方が戻ってくるかもしれませんよ?」
「待っていたら状況が悪くなるかもしれません。それより早い段階でT市から彼女を連れ出す方が、リスクは低いと思います」
「うーん……困ったな……」
キャンディスさんのいうこともわかる。特にレジスタンスの三人がいれば、非常に心強い。だが、レジスタンスたちは、いつ戻ってくるのかわからないのだ。
ひょっとしたら、もう、戻って来ないかもしれない。霧の帝国が他の世界にも目を向けていて、他の世界の支援に向かったとか、最悪霧の帝国にレジスタンスが潰されてしまうとか、そんな可能性だってあるのだ。
アテにならないチャンスを待つよりも、今の状況で最善を尽くす方を、俺は選択したい。
「わかりました。私が同行しますよ」
「えっ!? キャンディスさんが!?」
キャンディスさんが同行してくれるとは思っていなかった。理由を聞くと、俺を一人で新たな霧の中に突っ込ませるような真似をしたら大統領に怒られるそうだ。
そうかアメリカ政府は俺のことを重要人物と認識しているのだ。キャンディスさんからしたら、俺に勝手な行動を取って欲しくないのだろう。
キャンディスさんが、怒った口調で俺を責める。
「だいたい……、この霧の中、T市までどうやっていくつもりですか?」
「歩きでH市の外まで出て、タクシーを捕まえようと……」
「計画性ゼロですね。私が同行すれば、車でT市に行けますよ」
「あっ……はい……お願いします……」
「はあ~」
キャンディスさんが盛大にため息をついた。