良い日旅立ち
「おめでとう、諸君は晴れて今日から警察官となった」
まだ底冷えのする春の体育館に100人の訓練生が集められた。
背筋を伸ばしパイプ椅子に腰かけ小さく震えている。実を言うと自分もそうだ、込み上げる感情を抑えられず皆と同じく目に涙を浮かべる。どうか終わらないでくれ…もっと皆と居させてほしい。整理のつかない思いか両手の平はズボンの膝をぎゅっと強く握り混んだ。
「ここに、訓練生の任を解く。総員別れ!」
「別れます!」
訓練生の任を解くと耳にした訓練生100人は揃って両足を体育館の床に叩きつけ大きな音を出しながら立ち上がり、別れの返答と共に登壇した学校長に敬礼をする。
学校生活では一度も見せたことの無い笑顔で学校長は挙手注目の答礼を返す。足の開き、脇の角度ともに完璧な答礼だった。
学校長の降壇の後、暖まった会場の熱がスッと引いていく。
嗚呼、終わってしまった。泥にまみれ、汗を流し苦しかった思い出が今は全部過去に過ぎ去った。早く終われと願った、毎日自分は何をしているのかと自問自答する毎日だった。自分で選んだ道なのに夢を忘れ逃げ出すことばかり考えた。苦しかったこと、辛かったことなのに思い返せば全部楽しかったと言ってしまう。地獄でともに笑いあった仲間たちの顔ばかり浮かぶ。
全員隣りを見合わせ前後の仲間同士と包容し最後は円陣を組んでそのままはしゃいで走り回った。そんな浮かれた学生たちに教官を務めた班長から激が飛ぶ。
「まだ学生気分抜けてねぇよなぁ!?もう一回入学からやり直すか?三歩歩けば忘れるチキンなのか?運動場の鳩のほうがまだ利口だぞ鳥頭ども!」
そんな言葉など耳に入らないように制帽を体育館の天井めがけ、全員が一斉に投げた。舞い散る制帽はまるで自分達の卒業を祝う花吹雪のようだった。入学以来、強制で全部刈り上げられたので全員が坊主頭を指差し
「自分達は、鶏冠がないのでチキンではありません!」
「ならばヒヨコだな!ヒヨッ子ども!ぴーちくぱーちく五月蝿くてかなわん」
いつもなら即座に腕立てなのに班長は決してそうは言わなかった、もう訓練生とは見てくれていなかった。しまいには円陣に加わりひとしきりはしゃぎ回った。楽しいのに悲しい、この束の間の楽しい時間は各警察署に別れる時間が来るのでそれにあわせてお開きとなった。
訓練生「アサクラ・コウイチ」の青春は今終わったのだ。
ひとしきりはしゃいだ後、体育館から居室(教育期間中暮らす十人部屋)のある棟まで戻り、各分隊ごとに別れ荷造りの残りを片付ける。
と言っても六ヶ月訓練生としてここに来ただけなので荷物と言ってもボストンバッグ一つですべて収まってしまった。時間稼ぎにもならないけどカバンの中身を全部出し、今度は訓練で身に付けた荷物の重心を考えまた詰め直していく。
「あっという間だったね!もう最後なんか泣きすぎてなんにも覚えてないよ!」
荷造りの最中背中に衝撃があった、振り向くとジャージ姿に自分の膝丈ほどの身長の二足歩行のパグが飛び付いていた。舌を上下に揺らしながら嬉しそうに話しかけて来たのはこの六ヶ月間、自分のバディ(相棒)だったパグのコボルトである。名前はハーパー・バーグァ、風呂も飯を食うのも遅いマイペースなヤツで自分と二人でお荷物コンビと揶揄されていた。
「スローリーが先に泣き出すから皆釣られてないてたな」
「い~や、クライベイビーが先だったね。泣き虫先生にはやっぱりかなわないね」
互いに肩を叩きあって笑いあった。こんなやり取りももうすぐ終わると思うと、二人は少しもの悲しくなった。笑いあって、喉の奥まで出てきた次の言葉を出せなくて閉口してしまう。
訓練生は本名ではなくこうしてニックネームで呼びあっていて僕はクライベイビー(泣き虫坊や)ハーパーはスローリー(のろま)と教官の班長から命名され以降この不名誉な名前である。叩いた肩を最後はがっしり掴み、互いに向き合うとまた涙が零れる。
その時、開いた部屋の扉をノックする音が聞こえた。居室の入り口に牛頭の大男が立っている。ミノタウロスのフランク・チクリス(毎晩ロールペーパー持ってトイレに消える様からミルクボーイと呼ばれた)が気だるそうに用件を告げる。
「全員作業辞め、注目。教場で班長が待ってるこれより教場に向かう、集合!二列縦隊!」
ここまでくれば馴れたもので、予定にないイベント(異常事態を想定)があってもパニックにならず集団行動をこなせるようになっていた。すぐさま廊下に並び、ミルクボーイの指揮で自分の分隊最後になるであろう任務に赴く。と言っても任は解かれたわけだしきっと、お涙頂戴が待ってるのは想像に固くなかった。
「駆け足、進め!一、一!一、二!」
「「ソーレ!」」
「「一、二、三、四、二、二、三、四!」」
掛け声合わせ、足並み揃え、もはや十人からなる十つ子の兄弟の如く息の揃うようになっていた。同じ釜の飯を食らった文字通り兄弟なのだ。十人からなる分隊員のは気持ちが一つとなり、そして…今日この日をもって散り散りになり各警察署へと配属となる。駆け足で泣くことがあったか、なんて思ってるうちに班長の待つ教場に到着する。
「縦隊~止まれ!右向け右!気をつけ!班長、総員十名怪我なし!到着致しました!」
「ご苦労、だがもう貴様らの班長ではない。次からは、一人の警官と警官だ」
教場に入り、中で待つ班長の前まで行進を終え、分隊のこの半年の訓練成果は行進から班長には伝わったはずだ。オーガ族の文字通り鬼教官、鬼教官は目に涙を浮かべ最後の激励が始まり、行進中も我慢していた自分達もまた釣られて泣き出してしまった。教場の開け放たれた窓から風がカーテンを優しく揺らし、射し込んだ春の陽気は教官の手に持つ餞別に反射した、それは薬莢で作られたネックレスだった。
「これは初めて貴様らが実弾射撃で撃った後の薬莢から作ったものだ。俺は教え子たちに必ず渡すようにしている」
こう言うとこでマメな人だ。教官は実弾射撃では、スポッター(観測要員)として横についていたがこうして射撃をした訓練生の薬莢も一つ一つ拾っていたのだろう。鎖を通した簡素なものだが班長が自分の指揮する分隊を大切に思っていたことが何よりも嬉しかった。
「ミルクボーイ、まずは貴様からだ」
「はい!」
一人一人首にかけていき、頑張れよと握手を交わしていく。
とうとう最後に自分の番に来たとき班長はニコッと笑うと
「貴様はすぐ弱音を吐く癖が抜けないまま現隊を去るわけだがそれが心残りでならん」
鎖を頭にかけながら冗談とも本気ともとれる言葉をかけながら最後によく分からない質問をしてきた。
「どうだ?重いか?」
これは行軍訓練で余りの重さに身動きが取れず泣いていた時に班長が言った言葉で確りと覚えている。親の心、子知らずとは言ったものでここで自分は最後だし普通なら「もう心配ありません!軽くて身に付けているのを忘れるほどであります!」と元気良く返すのが答えのところ悪ふざけし皆を笑わせようと頭では画策していた。
「重くて首が回りません!もうダメそうです」
ドッと他の仲間には受けて笑いが起こる。こんなときまでふざけるなよとは言っているが内心、良くやったと思っているに違いない。してやったりとしたり顔だった自分にニコッと笑っていた班長が急に真顔になった。これはやってしまった、ふざけすぎだと自分含め全員がお仕置きを覚悟した。だが返ってきたのは意外な言葉だった。
「その気持ちを決して忘れるな」
血の気が引いた思いから意味不明な返信で困惑してしまう。内心ジェットコースターのように情緒は乱高下している。しかし
班長の本当の心残りは自分達の甘さだと最後に気づかされた。
「おふざけは抜きにして、この弾丸が貴様らの命の重さと同じなんだ、いいか?犯人の放った、たった一発の弾丸でこれまでの短い人生もこれから過ごす長い人生も全部なかったことにする。仲間の、事件にあった被害者の、そして自分の命を奪うことになる。命の重さを決して忘れるんじゃないぞ」
何人もの教え子が現場で犯人の凶弾に倒れたと、訓練生時代は話半分で聞き流していた。いざ自分の番になるなんて考えていなかった。甘さはここで落としていけ、死んだらしてやれることは何もないからと厳しく育てられたのも明日から現場で生きていく自分たちのためだったのだ。
最後の班長との敬礼、優しく春風に揺れるカーテンの中。暖かい木漏れ日と冷たい空気をまとった教場の景色は、ずっと記憶に刻まれこれからも、きっとふとした時に思い返すのだろう。
拙い文章になりますがご了承下さい。間違いは気づき次第直していきます。
見切り発車なもので間違いが多々あると思います。暖かい目で見守ってください。
これから先、移動、配属と事件まで長いです。ですので、
鉄砲描写書きたいですけどまだまだかかります。
主人公、SWATらしかぬてか同僚も銃器に関してはあり得ないチョイスにしようと思います。お楽しみに




