綺麗な奥さん
98話 綺麗な奥さん
「先生、一人だなんて。すごく綺麗な奥さんがいるじゃないですか。あ、奥さん。変な時間におしかけて、すみません。先生のファンで、網切ともうします」
網切さんはペコリと頭をさげた。
大丈夫みたいだ。マカさんチに来ても記憶はもどってないみたい。
それに、久慈姫が化けてるのだろう奥さんに、なんの疑問も持ってない。
久慈姫は、なんで奥さんになってるんだ。
それにあの姿は、マカさんが好きだと言ってた漫画の登場人物みたいだ。
まさか、マカさんホントに。
でも、マカは、来る前に一人だと、言ってたぞ。
そうね。
アレは久慈姫の押しかけ女房じゃないのか。
「小説家とか有名人によくあるよね、奥さん隠すの。マカさん」
静ちゃんは、この状態を進めるためにウソを。マカさんは。
「え、あ、まぁ……」
「奥さんは、いつ実家から戻ったんです? 丁度、あたしらが、旅立った頃に実家に帰ったと聞きましたけど」
おお、静のホラがはじまった。うまく合わせろアヤ。
「ああ、そうよね。マカさん、泣きながら電話でわたしたちに」
「おまえら、ナニ言ってんだ。コイツは……」
「マカさん、話を合わせなさいよ」
「だが、そんな設定は……イテッ」
「先生、どうしたんです?」
「いや、なんでもない持病の腰痛が」
「作家さんにはありがちですよね。大丈夫ですか」
「大丈夫、外で冷えたかな」
「寒い玄関で立ち話もなんですから、皆さんあがってください」
「ねぇ静、奥さん金髪だけど日本人よね?」
「そうですよ。アレは多分マカさんの趣味だと……ホラ、昔の漫画とか髪の色は国なんか関係ないから」
「先生は二次コンだったの?」
「静ちゃん。ソレ、今もだよ。頭の色なんか、なんでも有りよ。おかげでコスプレ用ウィッグが売れてるそうよ。最近は日本人もスタイルが良いから後ろからみたら何人かわからないわよね」
ダイニングに行くと河ババァがお茶を飲んでる。
「あら、お帰り静に彩」
「あの人は?」
「マカさんのお母さんだよ」
「そうなのね……私はてっきり」
網切さんは静ちゃんの耳元で。
「実は、私が見た河ババァってあの人なの。悪い思い違いね。近くに一反姐さんが居たものだから……」
「そうなの。ソレは言わない方が」
「お婆ちゃん、コレおみやげよ、お友達と食べてね」
「ほう、いつもすまないねぇ」
「ん、ババァ。なんだそれ」
「おまえまで、まだいたのか!」
「ご主人、もう夜が明けるから帰る……あ、静と彩。帰ってきたのか」
「え、先生。子どももいたんですか。あ、頭に角が」
「あんたまだ、節分のつもり。ソレ気に入ってんのね。あ、この子は奥さんの姪っ子さんで、よく遊びに来てるの」
「おい、ばあさん。その子、家までおくってやれよ」
「大丈夫だ、ご主人。一人で帰れるよ」
と邪邪娘は、玄関に走って行った。
「悪いな、客に朝めし食わしてくる。あのクルマ使わせてもらって」
「いいですよ。どうせなら皆で。奥様やお母さんも」
「そいつは無理だろう。クルマに乗れない」
「マカさん、あたしらは歩いて行くから。そう遠くじゃないトコでしょ」
「ああ日の出屋だ。あそこなら朝定食やってるからな」
「そうだね。それってマカさんの奢りだよね」
「ああ、待ってるから来い」
「え〜と……」
「網切です」
「網切さん、運転はオレが」
「いっちゃたね。大丈夫かな……」
「ああ。マリアは、あれをホントに奥さんだと思ってるのかな?」
「どうかな? しばらく一緒に居るとバレるかもしれないから、わたしたちも早く行こう日の出屋」
なんか、出ていけなかったわね。あの女の前には姿見せてるんだけどね。
つい、窓から出てきちゃたよ。
「あ、静ちゃん。一反姐さんだ。お〜い」
つづく




