幻想エンタ編集部
9話 幻想エンタ編集部
「ええ、草双紙さんたちが東京へ来てるかって。摩訶先生、ボクに聞かれても。あの人たちはウチとぜんぜん関係ないんだし。え、飛縁魔先生んとこ。知りませんよ。ご自分で電話してみたらどうですか」
「どうしたの高田くん。摩訶先生がどうした? 先生、春季号の原稿まだなんだけど、催促しておいてくれ」
「はい、副編集長! あの、摩訶先生。なんかわかったら連絡しますから、原稿を早くお願いしますよ。新人も増えてますから、切られますよ」
この一言は効いたようだ。先生も飛縁魔先生みたいに赤名めじろとのコラボ受ければよかったのに。なんで断ったのかなぁ。
妖怪画にちょっとした文章入れるだけなのに。
「アルバイトの田中さんは、今日来るの? 一条さん」
「学校が、暇になったから来ると言ってたけど、赤名先生のとこの原稿?」
「はい、春号の巻頭にカラーページでと、打ち合わせに。編集長から」
「ああ、今先生が新企画で始めた妖怪画を載せるんだよ、その打ち合わせにバイトの田中くんと行ってきてくれないかな唐沢くん」
「なんでバイトの子を?」
「あの子なぁかなり先生に気に入られててな。一緒だと機嫌もいいんだと、なぁ高田くん」
「はあ……」
「なら、高田くんが行った方がいいんじゃないかしら編集長。わたしよりは……」
「すいません、唐沢さんボク飛縁魔先生トコに」
「そっちならわたしが」
ボクは唐沢さんに小声で。
「そんなに赤名先生んとこ行くの嫌なんですか唐沢さん……」
「あのエロジジィは特に……」
「わかりました。その代わり週末。唐沢さんトコ行って良いですか、最近ご無沙汰で……」
「あら、最近あのエロジジィと似てきたんじゃないの高田くん。頭が薄くなってきたわよ」
「ホント出すか?!」
「ウソよ、じゃお願いね。わたし、飛縁魔先生のトコへ」
変なウソつくんだな唐沢さん。
でも、親父も薄いしな。気になる。
「編集長、高田くんが行きます。若い娘と一緒ならいいそうです」
「唐沢さ〜ん。そんなコトは……」
田中みそぎ。ボクが一番歳が近いけど少し苦手なんだよなぁ。あの娘。
しかし、巻頭カラーページの打ち合わせ、ボクでいいのか。編集長。
顔を見たらボクの方を見てニコニコしてるだけ。
「あ、一条くん。三時頃、持ち込みの子が来るんで見てやってくれないか」
「はい」
幻想エンタの編集部に向かう田中みそぎ。
赤名先生の新企画のため、モデルのバイトはしばらくなくなった。
あ〜あ。欲しいもの沢山あるのになぁ。
編集のバイト料とはケタ違いだったのに。
「あの、このあたりに『幻想エンタ』の編集部が入ったビルがあると聞いたんですけど知りませんか?」
茶髪がクルクルっとカールしたセミショートのメガネ女の子。中学生くらいかな。
大きな封筒を持ってる。持ち込みかしら。
「知ってるわよ。そこでバイトしてるのあたし。一緒に行こう」
「良かった。わたし方向音痴なんです。助かります」
「それ、原稿?」
「ハイ」
「持ち込みね」
「ハイ……。編集の方って怖いんですか?」
「そんなことないよ。みんな優しいわ。編集長とか、いつもニコニコ顔だし。副編集長は、見た目はちょっと怖いけど、見た目だけで優しいよ。特に若い娘とかには。今頃くしゃみしてるかもね」
「フワァクション! 誰か俺の噂してんのかな。マイちゃんかな……」
「ないわよ。副編。あの子、あんたになんの興味もないのよ、新しいパパなんて考えてもいないわ」
「そうなのか……一条。少しは興味持って欲しいな」
「おはようございます。持ち込みの子が道に迷ってたので、お連れしました」
「あ、田中さん、ありがとう。高田く〜ん田中さん来たよ」
「今行きます!」
「わたしが、担当です。どうぞ、こっちの応接室へ。一条早苗です。え〜と」
あ、編集長に名前聞いてないわ。
ずいぶん若い子ね。中学生かしら。娘より若いみたい。
応接室のソファに座らせて。名刺を出した。
すぐに立ち上がり彼女は、お辞儀をして。
「はじめまして枕返珠水です。よろしくお願いします」
つづく