ツクモの愛人
88話 ツクモの愛人
「ボクです忘れました?」
「なんとかツクモだよね。坊主頭にしたの。わからなかったよ。クルマ、買ったんだね」
「あれから免許とったんだ。いつかキミらを乗せようと思ってさ」
ホントは、ツクナと移動しやすいからなんだけど。
「お隣は彼女さんですか? もしかしてツクモさん結婚したとか?」
「あ、そんなことないよ。まだ独身だよ」
まずい。アヤさん、本物だ。
「はじめまして~ツクモの愛人やってま〜す。ツクナでーす」
「えっ、あんた。アヤそっくりじゃない!」
「ああ、気にしないで乗って」
うっかり、停めちゃたけど。やっぱり静さんのそばにアヤさん居るよな。
走り出して、ツクナが小声で。
「ねえ、ツクモ。後ろの人はナニモノ? アヤにそっくりって、言ったよ。もしかして、この顔の……」
「そういうことだよ。でも、気にしないで。テキトーにボクと話し合わせて」
「アヤ似のあなたって愛人なの?」
「あ〜その話は、後でゆっくり。またヒッチハイクしてるんだねキミたち。もしかして遠野に帰るとこ?」
「そうよ。ツクモはドコに?」
「ウチに帰る途中。アキバに行ってたんだ」
「ウチって千葉だよね」
「そう、柏だけど。茨城の取手あたりまで乗せて行ってあげるよ」
「悪いわねぇ。で、その隣の愛人は?」
「愛人とか言ってるけど、タダの彼女だよ。冗談好きなんだ。この娘」
「橘ツクナです」
「あ、苗字一緒じゃない。やっぱり奥さん?」
「だから冗談好きだから、ちゃんと本名で言ってよツクナ」
でも、苗字ないんだよな。
「だから本名だよタチバナツクナ、一緒に居るんだからいいじゃない」
「そうか、同棲してるのね、あんたたち。ツクナさん、ツクモは優しい?」
「ええ、なんでもしてくれるのツクモは。料理も出来るし、この洋服とか、可愛いいパンティ買ってくれるんだよ。だからあたい、お礼におっぱい揉ませてあげるの」
「え、そんなコトさせてるの」
「ツクモはおっぱいだーいスキなんだよ」
「おいおい……」
「やっぱり男ね……ツクモも」
「ねぇツクナさんて、わたしに似てるよね」
「あ、ソコちょっと違うんだよ綾樫さん。実は僕の先生の漫画、知ってるだろ?」
「アヤカかな?」
「そう、彼女はアヤカに似てたんでボクね、声かけて……いまにいたるだ」
「アヤに似てたから、ナンパして付き合ってるってことか。アヤ、フラれたね」
「静ちゃん、なんでわたしがフラれたのよ。意味わからないんだけど」
「あのさぁツクモ、あたしをナンパしたのは漫画のアヤカに似てたからじゃなく、後ろの娘に似てたから?」
「だと、思うよ。ツクモはアヤにお熱だったから」
「静さん、話をややこしくしないでくださいよ」
「べつに……ホントのコトでしょ」
わたしたちは茨城県の取手まで来て国道ぞいのコンビニで降りた。
「ありがとうツクモ」
「おふたりも気をつけて。さよなら。また何処かで……」
橘九十九くんは帰って行った。
「ねえ、アヤ。あのツクナって娘。人じゃなかったよね」
「静ちゃん、気づいてた。わかったよわたしも。ツクモくんは知ってるのかな」
「さあぁ。でも、あの娘はツクモに害のない存在なのは、わかったから言わなかったけど」
「そうね……」
橘九十九の車中。
「ツクモ、あのふたりとはどういう関係?」
「ただの知り合いだよ」
「それにしては……。あのふたりはナニモノか知ってるの?」
「まあだいたい。東京でモデルの仕事してて。女優さんもときどきやってて映画にも出てるんだ」
「それだけ?」
「普段は岩手県の遠野で暮しているんだ。多分ヒッチハイクは趣味かな。それだけだよ。ツクナ、もしかしてやいてんの?」
「そんなことないよ。あのふたりは、人じゃないよ。向こうだってあたいを人じゃないとわかったはず」
「えーっ人じゃないってじゃナニ? あの二人は?」
つづく




