旅の思い出
86話 旅の思い出
ひと月モデルの仕事し、東京を出る事にした。
ドォルルルールン
「わあっ、ナニ。工事の音?」
「電話よ、お歯黒に変えてと頼んだらこんな音に。あ、はい」
〘元気? 聞いたよ、東京でモデルの仕事をしてるんだって〙
その声は志子華さんだ。
「うん、でも終えて帰るつもり」
〘遠野に帰るの? まっすぐ?〙
「ニ、三寄るトコあるけどね」
〘そう。九州の事とかのまとめ、聞く時間あるかなぁ〙
「あ、そういえば、そちらの企画あったのよね、忘れてたわ。ごめん、こちらの都合で打ち切りになったのよね」
〘大丈夫、続きを話して。あと、九州やその帰り写真、スマホで撮った?〙
「何枚か……」
帰る前に、金沢さんたちの取材を受けることに。
場所は金沢さんたちの会社の近くのカフェ。
今は水道橋に仕事場を借りて、完全独立したそうだ。
「久しぶり、お二人さん」
「そちらも」
「ウチねぇ二人じゃなくなったの、あと二人女のコ雇ったのよ。改めてハイ、コレ『香華クリエイト』の新名刺よ」
金沢さんと天野さんの新しい名刺をもらった。
会社の住所が変わってる。
「で、どうだったの九州での仕事は? ヒッチハイク再開は……」
さすがに、あのあとのガラッパさんのコトとか、でっかいスッポンに乗って本州へ渡ったとか言えないよね。
「まあ、いろんな人に世話になったよ。九州じゃドライブ好きの女のコふたりがね乗せてくれて。あ、そのふたりさぁ金沢さんとシズカみたいだった。歳は同じだったけど、そんなコンビ。彼女たちは九州に多いカッパを乗せたって話てた」
「カッパって、本当にいるの?」
「妖怪研究家の静が言うんだからいるんじゃない」
「自称……。居るよ。遠野には居ないけど九州には、居たよ。ガラッパっていう。カッパの長老に会ったんだ。で、カッパの潜水艦で鹿児島から桜島へ渡ったんだよ」
静ちゃん、そこまで言うの。
「カッパの潜水艦……あんた何処までが真実?」
「信じる信じないは、どーぞご勝手に。それから、沼にいたでっかいスッポンに乗って空から本州に、アレはスゴかった。ね、アヤ」
「はぁ〜漫画かよ。空飛ぶスッポンって、べつに話を面白くしなくてもいいんだよ……静。冗談は、さておき。で、本州にもどって……」
「ああ、深夜はゲテモノ料理屋で昼間は普通のラーメン屋というトコに出雲の手前で乗せてもらったクルマに連れて行かれたわ」
「ゲテモノ料理、虫とかヘビとか。食べたの?」
「奢りだったからね。でも、蜂の子とか、イナゴはよく食べてるから……」
「蜂の子もイナゴも食べたことないわよ、あたしは」
「私もよ。アヤちゃんも食べたの?」
「はあ」
「イモリの串焼きとかムカデの唐揚げとか、意外といけたよな静ちゃん」
よけいなコトを言わないでよ裏アヤ。
「イモリとかムカデはそのままの形?」
「だよ、そのラーメン屋さ。深夜の方が儲かってるらしいよ」
「そうなのか……あたし、虫は見るだけでダメだわ」
「その後、出雲で乗ったクルマのドライバーが旅の紀行文書いてるおっさんだったよ」
「そういうのも走ってるだろうな……」
「で、何処まで行ったの?」
「え~と岐阜だっけアヤ?」
「滋賀県の彦根よ」
「そうか、お城見たよね。兜のネコも見た。おっさんは大坂へ行くと別れたんだよね。わたしらは、岐阜方面に」
「そういえば、なんちゃて女子高生のコとネコ耳ちゃんたちとは再会したの?」
「したよ。東京まで帰るという無免許爺さんのクルマで一緒に乗ってきた」
「無免許の爺さんのクルマで東京……って、あんた
また、ホラ吹いてない? 無免許で爺さんがクルマで走ってたの」
「ホントだよ爺さん、運が良くて捕まらなかったと」
妖怪だからね。
「まあ運も良し悪しね。よく無事だったわねぇ。その爺さんボケてなかったの?」
「シズカ、その話はヤバいでしょ。カッパの話は載せられるけど無免許のお爺さんの話はカットよ」
「そうですか……イイ爺さんだったんだけどね」
「『美女ヒッチハイクの七不思議』で載せちゃだめ?」
「ダメに決まってるでしょ。あんた何年仕事してるのよ」
「美女ヒッチハイク七不思議か……ねえ今度『自称美女妖怪研究家の妖怪紀行』っていうのやらない」
「自分で美女研究家って」
「うるさいなぁ醜女!」
「あら、静ちゃん。醜女は酷いわよねアヤちゃんはカワイイじゃない」
「ええ、まあ……」
アレはわたしじゃないんだけど。
「妖怪研究家の紀行はねぇウチの仕事のジャンルじゃないわねぇ」
「あたしの知りあいのとこで出来そう」
「『アトランティス』かな? あそこなら通る企画かもね。企画持っていってみようか」
つづく




