お仕置き
84話 お仕置き
「スタジオの玄関のトコに大きな鏡があるでしょ、アレ実は妖怪なのよ」
と、社長さんに言われて昨日のスタジオに来た。
静ちゃんと、しげしげとその大きな鏡を見た。
「こいつ妖怪って……なんのかわりばえしない普通の鏡だよね、アヤ」
「そうだね大きいだけの……モデルさんたち、ここで全身見て、スタジオ入りするのよね」
「よく考えるとこいつスケベな鏡かもよ。毎日モデルを見てる……おい鏡。ここより更衣室の方がいいもん見れるよ」
『たしかに……』
「あ、鏡がしゃべった。おまえ、検美鏡だろ?」
「顕微鏡?」
「検査の検に美術の美で検美鏡。付喪神だよ」
『そういうあんたは?』
「あたしは二口の静で、隣が二面のアヤだ。あんた、昨日ココに来た男を映しただろ」
『どんな男だ。ココに来る男は少ないから、昨日はカメラマンとその助手。それに見慣れないのが二人いたな』
「多分その二人の、やさ男風でチャラいのだ。もうひとりの痩せた背の高いのはいらない」
『チャラい男か、こいつか』
鏡見に男の姿が。
そいつだ。昨日、内戸を名のったヤツ。
「そいつだ鏡、それみんなの鏡に出して見せられる?」
『そんな器用なことは……まあ、ココに呼べばいいだけだ』
「そいつの居場所がわかるかな?」
『無理。 それなら、『うんがい鏡』さんに頼めばなんとかなる。うんがい鏡さんなら鏡を見た人間を取り入れることが出来る。居場所どころか捕まえられる』
「うんがい鏡かぁ……あんた、あいつ呼べる?」
『まあ……お供え餅用意出来るか?』
「わかった、外のスーパーで。アヤ、お願い行ける?」
「いーわよ」
うんがい鏡か、名前は聞くけど見たことないわ。
古い妖怪らしいな。
そんなことしか知らないわよね。静ちゃんは知ってる風だったけど。
お供え餅って、やっぱり丸餅かしら。
じゃないのか。しかし、正月でもないのに。
まだ売ってるかなぁ。
さすがに鏡餅はなかったが普通サイズの丸餅が袋で売っていた。
帰ると数人のモデルさんたちが。
「ねえ、何始まるの?」
「静ちゃん、なにするの?」
お歯黒さんや昨日のメイク等のスタッフやモデルさんが集まっていた。
静ちゃんが、お餅を乗せる皿や下に引く白紙を用意してた。
「アヤ、お餅を」
『コレでイイ』
お供えのお餅を鏡の前に置くと、しばらくして鏡が白く曇り渦を巻き始めた。すると渦の中から、雲型の台に乗った丸い鏡が現れお供え餅の前に出た。
「うんがい鏡、餅食う前に一仕事お願いしたい!」
『ウヌは二口女、久しぶりだの』
「何百年ぶりかしら……まあ挨拶はあとで。ある男を捕まえてほしいのよ。そいつチャラ男だから、よく鏡を使うと思うから」
『どんな奴だ?』
けんび鏡さんが、男の姿をうんがい鏡さんに見せると。
そく、うんがい鏡さんの丸い鏡が曇りだし渦を巻いたら、出てきた。
「昨日の偽内戸!」
「え、鏡を見てたら……ココは!」
あとは、みんなで抑え込み偽内戸を縛りあげた。
そして、スタジオに。
「あんた、ナニモノよ!」
静ちゃんの髪の毛が伸びて男の首に巻き付いた。
「僕は……内戸、ギッ!」
「もうバレてるのよ、本物はロッカーから助けたわ。あんた、あたしらになんの恨みがあって昨日逃げたの」
「いやぁあんまりキミが沢山……ひいっ」
「あんた、カードだから大丈夫と言ってたよね。あそこで逃げるのは変じゃない?」
「静、こいつを逆さ吊りにして、足に釘打ってロウソク立てましょ」
「それより裸にして磔にし、アソコに重しを吊るして、重しを一つづつ増やしていくの楽しくない?」
「そんなまだるこしいコトより、口ん中に熱湯流し込んじゃえば」
「そんなコトしたら喋れなくなっちゃうよ」
「特大の張り型、尻の穴に突っ込んじゃえば」
「ムチ打って塩を塗り込むの効くわよ」
「目玉レンズで焼いちゃえ!」
『姐さん方、酷い拷問ですなぁ……おい、オマエは妖怪だな。妖気は、ないが。わしの鏡には真の姿が映るぞ。うっししし』
わたしがお餅と一緒にスタジオに運んだうんがい鏡さんは鏡台の横から出た手て餅を生で食べながら笑った。
『わしの鏡で映すか、姐さんたちの拷問うけるか、はよ選べ。姐さんたちナニするかわからんぞ。おお怖……』
「ぽ、僕は頼まれて……」
「誰に頼まれたのかしら?」
「あひいっ!」
モデルの一人がドコから持ってきたのかロウソクを男の襟首に後ろからたらした。
「つい、楽しくて……」
正体はわからないが、このモデルたちも妖怪だよね。
男の色が緑色に変わり髪の毛が草になった。
「やったじやん、こいつ正体あらわした!」
「あ、こいつは『空き地ボッコ』じゃない」
誰かが。
わたしの知らない名の妖怪だ。
名前からすると昔なら沢山あった空き地の隅にぼ~っと立ってるアレかしら。
「正体をあかしたわね。あんたに悪さを頼んだのは誰?」
「あちっ!」
「ああ、言うからやめてくれ、おい、ズボンを脱がさないでくれぇ!」
「妖怪でも、コイツは大事なのね」
「ギャア、握りつぶす気かぁあ。言うって……」
「『にぎにぎ』、やめなさいよ。言うって言ってるわよ」
にぎにぎ? ぶるぶるさんの仲間?
「カマイタチに頼まれたんだ」
「あのオカマイタチ、逆恨みもいいとこね」
「静、あいつとナニがあったの?」
「ちょっとしたコトがあってね。アヤを傷つけたから、あのヤローを地獄に落としたのよ」
「静、怖いことするねぇ」
「四国のイタチだったか、カワウソだったかが会ったって言ってたから地獄から抜け出したのね。あいつ」
カワウソじゃなかったか?
どっちでもいいじゃない。
「おい、空き地。カマイタチは何処に居るの!」
「知らない、昨夜は新宿で報酬を受け取ったから多分東京に居ると」
「報酬もらってるのね。ヤツと連絡とれる?」
「あ、スゴいコイツのサイフパンパンだ。やっぱ妖怪は、いまだ現ナマだよ!」
「わあっ、僕のサイフ。返してぇ」
わたしたちだけなら、どうするか。あんた、ボコる?
面倒なやつだからなぁ。一発くらいは。
妖怪モデル事務所の連中怖そうだから。
このままほっといたら空き巣ボッコはどうなるかなぁ。
ほっとけばいいんじゃねーの。
ん、まあ悪いことして、稼いだからね。
でも、わたしたち、運良く危機を乗り越えたからね。
「さて、あのカマを呼び出してどうするかだね」
「ちょん切って、女にしちゃえ!」
お歯黒さん、けっこう過激だわ。
「それじゃあカマは、喜ぶんじゃないの?」
「それじゃ女地獄に落としちゃえ!」
「女地獄って?」
「やっぱり貼り付け石重しの刑よ!」
「張り型よ」
「カマだからぁソレ、喜ぶんじゃない」
「熱湯地獄よ、くすぐり地獄も楽しいわよ」
まだ、捕まえてもいないカマイタチへの地獄のお仕置きの数々が上がった。
つづく




