妖異女三十六景
7話 妖異女三十六景
「ほぉ~やはり生は、ええなぁ〜」
「あの映画のおねえちゃんは、ケバくていかん。わしが美術監督したのに、あそこだけは別人だ」
「あのぉ〜ホントにコレでいいのかなぁ後ろの口が丸見えじゃない」
「いいんじゃよ。今回の作品は『妖異女三十六景』と言ってな妖怪の美女画集なんじゃ」
「で、裸なのは意味あるの? あたしは裸で後ろの口開けて食べる習慣ないわよ」
舌に墨を付けてて返事がない。
このエロジジィ。
ススッスーと、舌であたしの裸体を描いてるのが見えた。
描き終えると水を含み洗って。
「おまえさんの知り合いでも美女妖怪おるじゃろ。紹介してくれないかのう。礼は出す」
「まあいないこともないけど……前金でくれる?」
「かまわんよ」
ホントに、このジィさん気前がいいようだ。
サラサラと一枚墨で描き終えると、アヤを呼んだ。
「ジィさん、色は?」
「色はあとで塗る。モデルはいらない」
なるほど、楽でイイや。
「お願いしま〜す」
あたしと入れ替わりにアヤがジジィの前に。
「あ、ソレは脱いで……二面女だったね。ちょこっとななめ上見て」
「あの……後ろの顔も描くんですか?」
「そうじゃよ」
「ああ、聞いてないぞ、アカナメジジィ」
「言っとくが、わしは赤名めじろだ。アカナメじゃないし。妖怪でもない」
「描くんなら、私もメイクしろ!」
「おーい醜女、メイクしたって変わんないよあんたは」
「黙れ、底なし。私のメイクした顔見たろ!」
「あんたら、仲いいのかね……」
「まあそこそこです」
「後ろの顔さんよ。自然のままが、いいんじゃよ。あんたの顔は魅力的じゃ」
「そ、そうなのか……」
「さっき、妖怪五十なんとかと言っていたけど、裸で描く意味あるの?」
「あるよ。『妖異女三十六景』じゃよ。魅力は顔だけじゃない身体もじゃ」
と、アヤには答えた。
ようするに裸が見たいだけじゃないのか。
妖怪では、ないというが。
あのジジィ。あたしが知ってるエロ妖怪の中にも居ないスケベジジィに感じる。
目がイヤらしい。
「彩ちゃん、脱ぐとスゴイね」
ジャージをかたにかけた飛縁魔ひづるは腰に赤襦袢を巻いてる。
「まだ妖怪モデルが来ると聞いたけど……あのバイトかな、違うか。今回は妖怪画なんだよな。あいつは人間だ。聞いてる静?」
「いや、聞いてない」
「寝坊しちゃたわ。昼間の仕事は、なれてないからね」
アトリエにローブ姿で現れたのは。
「ろくろ首の姐さん!」
「あら、静ちゃん。お久しぶり」
「あ、来てたんだ。ひづる……ん、静じゃない。お久ぁ〜」
ろくろ首姐さんのあとから来たのは。
「出不精の姉さんまで」
「なんかさぁ一時間くらいで、一回でいいって聞いたしぃ。コレがイイんで来ちゃたよ。終わったら、ウチ来ない、冷凍でたこ焼き沢山あるからタコパしよう」
と、飛縁魔みずちは指で円を作り言った。
「飛縁魔さ〜ん。メイクまだだから戻ってェ」
もしかしたら、ココに日本中の女妖怪が集まってくるかも。
まあババァ妖怪は、来ないと思うけど。
つづく