妖怪と……
61話 妖怪と……
「旦那さん」
「誰が旦那だ」
「あれ、あんたはこの家の旦那さんじゃないの?」
「まあそうだが……久路姫、いつもはそう呼ばないだろ」
「お茶の間にこないかい。一反が九州のみやげ持ってきたから皆で食べようと」
「姐さんが……」
書斎を出て、同じ二階のお茶の間に行くと。
「おあ、なんだそのかっこうは?!」
コタツに入らずに小さい金髪碧眼美女が。
で、黒い毛皮の帽子にコートって。
ブーツを畳の上で履くな。
背の高さからいうと。
「邪邪女だろ、おまえ」
「だよ。ご主人。この姿は気に入ったかな?」
「はあ? オレは子供には興味ない!」
「仕方ないだろ。わたしゃ变化は出来るが背は変えられないんだ。あと、コレも」
と、邪邪女は帽子をとった。頭のてっぺんの一角だ。それはまんまだ。
「久しぶりだなマカ。静が恋しがってたぞ」
「ウソつけ、姐さん。静はそんなことはないだろ」
「一反、マカは私と契った仲だ。静のことはなんとも思ってない」
「ナニ、ソレはホントか」
「ホントだわい。わたしゃ妊娠もしている」
ナニ! ウソだ。
よく見ると久慈姫の腹がふくらんでる。
「ウソだろーまだ……そんなに大きくなるはずないだろう!」
「知らないのかい。妖怪の成長は早いんだよ……ん、生まれる」
立ってた久慈姫が座り込むと、股を開いた。
グギャァアア
バケモノの子が、飛び出した。
「パパ!」
うっぁああ。
ふーっ夢か。
イヤな夢を見ちまった。
もう三時をまわった。
原稿を書いてて寝てしまった。
エアコンがきいていて、部屋は暖かいのでうとうとと。
お茶の間の方が騒がしい。
連中まだテレビを。
こんな時間にナニを見てるんだ。
トイレに行ってからお茶の間をのぞいた。
「あ、ご主人。騒がしかったか? すまん。そろそろ帰る」
「ああ気をつけてな……人間じゃないから大丈夫か」
「先生、おじゃましてます」
山女か。正体をバラされてから最近、よく来るようになった。
ホント、ウチは妖怪の集会場だ。
あ、山女の隣の白い和服の女は雪女ではないか久々に見た。
はーはーはーくしょん。
「寒いな。この部屋は」
雪女が来てるんじゃ寒いわけだ。
コタツに入ってる意味がわからねぇ。
雪女は、オレを見てコクリと。
たしか、静の友だと。
妖怪は美女に化けるというが、静も彩も化けなくても美女はいる。
雪女や山女はその方かな。
「じゃ、オレは寝るから……」
と、書斎に戻りパソコンの前に座って電源をきろうとしたら。
頭に雪女のストーリーが浮かんだ。
忘れないうちに。あらすじだけでも。
雪女を女房にした幻想作家の話だ。
作家の男は雪女と知らずに結婚し。
ふと、学生の頃に山で雪女と会ったことを思い出し、ソレを小説に書くと、部屋に現れた女房が。
「ソレは秘密の約束よと」
コレは現代版なんだ。
パクリじゃないぞと。
昔話なら雪女は旦那を殺して去っていくけど、ここから先はオレのオリジナルだ。
男は、そんな約束をした憶えはないと。女房に抱きつき。熱い一夜を。
朝目覚めたら女房が溶けていた。
このオチだとコメディだ。
別の展開を考えよう。
「先生」
山女が部屋に。
たしか、人間名は彩菓子友と。
「先生、皆帰りました」
「そう。キミは帰らないのか」
「はい……先生。知ってますよね。山女は里の男が恋しいんですよ」
いつのまに山女はオレの背後に。
気のせいか女がひとまわりくら大きくなっているような。いや、なっていた。服が裂けビリビリと。
オレは山女に床へ押し倒されて。
「かんべんしてくれ!」
はつ、夢か。
また寝ちまっていたのか。
最近、こんな夢ばかり見る。
妖怪のせいだ。
つづく




