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赤名のメイク・スタッフ

7話 赤名のメイク・スタッフ


「静ちゃん、久しぶり」

「あんたまで、静ちゃん……」


 事務所に居た飛縁魔ひづるが、顔を見るなり静ちゃんに抱きついて言った。


「彩ちゃんも久しぶりぃ」


 幻想小説作家飛縁魔みずちの双子の妹で、普段は北海道に住んでてて、モデルの仕事をしに飛行機で東京に。


「北海道に来たって、聞いたよ。連絡くれればよかったのに」


「あ、あのときは……東京に居たんじゃなかったけ」

「そうだったけ? 忘れたわ」


「相変わらず緑のジャージに赤バンテンね。今回もあのエロジジィの仕事?」

「ええ、そうよ。あの爺さん払いはいいのよ。機嫌がいいときはお小遣いもくれるわ。あ、爺さん、新しいモデル捜してるんだけど静もやらない?」

「ええ、あのジジィの……ヌードとかもあるんでしょ……でも、事務所とうさないんだよねモデル料」

「その日にくれるわよ。やる?」


「ただいまぁ。来たわね、二人とも久しぶり」


 社長の妖怪寝肥こと鳥山眠子がお風呂屋さんから帰ってきた。


「お久しぶりです眠子社長」


 ひづるから、離れた静ちゃんが。


「あ、社長。来てすぐなんだけど、仕事ある?」


「大きなのはないけど、ノラクロとかスーパーのチラシなら……」


「あ……ソレやっぱ、給金は月末だよね」


「まあそうなるわよね会社の仕事だから」


「ジジィのとこ行ってみようかなぁ……ちょっと稼いで東京を出るつもりなんだ」


「あら、今度は何処へ?」


「九州方面」


「なら、爺さんのモデルだよ静。明日、一緒に行こう」


 飛縁魔ひづるが喜んで静ちゃんの肩を組んで事務所の奥に。

 もしかして、わたしもあのお爺ちゃんのモデルをやるのかしら。


 大丈夫だろ、アヤは静みたいに体系よくないから。乳も小さい。


 あんたも同じよ。



 品川にあるヘビヅカヤに泊まっているという飛縁魔ひづると、わたしたちも同じホテルに。


 ヘビヅカヤは、妖怪蛇骨婆が経営しているホテルチェーンで妖怪は素泊まりタダなんだよね。

 しかも、はじめに泊まった部屋へはドコのチェーンホテルからでも行けるという便利な仕掛けも。


「ねぇ静ちゃん。絵のモデルとかホントにやるの? あのお爺ちゃん画家ってどうなの」


「手早く大金稼ぐのにはイイ仕事だって。ひづるもやろうよ。飛縁魔の紹介だし……」


「でも、まだやれるとは決まってないんだよね」


    リリリーリーン


「きた、ひづるからだ。もーしッ」

〘爺さん、明日一応面接するって〙

「え〜あたしの顔知ってるじゃない」


〘作品のイメージに合うか見たいそうよ。その場でメイクもするから〙

「え、ソレやばくない。あんたと違いあたしは見た目でわかる妖怪よ。彩だって……」

〘ソレは、心配ないわ、私も妖怪って知ってるから〙


 翌朝、飛縁魔ひづるとホテルを出た。


 幻想画家の赤名めじろは、八十代のお爺ちゃん。人間らしいが、妖怪じゃないかという噂もある。都会の妖怪は妖気が薄いのやら無いのやらで同じ妖怪仲間でも、わかりにくい。

 赤名は、なぜか妖怪と交流もあり、そのメイクスタッフは妖怪と聞く。


 赤名邸にあるモデル控室。


「あのエロジジィ、あたしを見るなり脱げるかって」

「あ、わたしも」

「脱いだらモデル代は倍にと言ったから、いいよと」

「旅の資金作りだから……とりあえず。わたしも」


「それだけくれるのは、口止め料も入ってるのよ。言わなかった?」


「口止め料って?」

「やっぱりね、私に言わせる気ね。あの爺ちゃんは、基本モデルは使わないというコトになってるんだよ」


「髪の形整えます」


 控室で話してるとスゴイ長髪の男が入ってきた。


「ねえ、あんた。女の控室にノックもしないで入るなんて失礼よ」


「静、彼はヘアー・メイクのゲンさん」


「二口ちゃん、久しぶりね。最後に会ったのは明治維新の頃かしら」


「えー。もしかして、あんた。毛羽毛現?!」


「そうよ、今は赤名ちゃんのトコでお世話になってるの」


「って、あんた。その言葉使い。いつからオカマに?」


「今どき、オカマとか言わないで……」


「なんか気持ち悪い……昔のヒゲおやじの頃、知ってるから」


「あなたたちは、知り合いだったんだ」


「おはようさん」


「えっ、イヤヤ。おまえもか!」


 メイク担当はやっぱり妖怪の『否哉いやや』。女裝だけど声からすると男妖怪か? 会うのははじめて。よく知らないけど一般には『いやみ』と呼ばれてるオカマ妖怪だ。

 やっぱり静ちゃんは顔がひろい。


「あら、二口さん。お久しぶり。新しいモデルってあなただったのね。もう一人のあなたは、お初ね」


「わたしは、二面の綾樫あやかしです。はじめまして」


「あら、ホント。後ろには怖い顔が」


 いつの間にかわたしの後ろにまわった毛羽毛現が後ろ髪を開き。


「イヤッすけべぇ!」


 わたし、他人に髪を開けられ勝手に裏の顔を見られるのって、裸を見られたみたいで恥ずかしい。

 コレは、静ちゃんも同じだと、まえに聞いたことがある。


 映画に出たときのメイクさんたちは寝肥りさんとこのスタッフで良かったけど。ここは、妖怪のオカマがふたり。


「すけべぇはないでしょ。後の顔は、寝てるみたいね。もうすぐお昼なのにお寝坊さん……」


「お、おまえ誰だ! なんだこいつはアヤ、あたいを覗き込んでる。閉めろ変態!」


「あなた、口が悪いわね。私、ヘアー・メイクの毛羽毛現けうけげんよろしく」


「あんたが、いつまでも寝てるから覗かれちゃったわ……恥ずかしい」


「ケウケゲンとやら、女の寝顔を覗くとはセクハラだぞ」

「いいじゃない。私、心は女なのよ」

「アヤなんとかしろ。キモいぞ、こいつ!」


「メイクで、あんたを隠すんだからしばらく、おとなしくしてて」



 仕事終わり、駅前の居酒屋さんで。


「あのエロ爺さん、舌でよくあんな絵を器用に描くよね。ホントに人間なの。でも、気前良いよね。コレなら一週間も通えば」


「寒くなってきたから九州に行くの?」


「そういうわけじゃないのよ。友だちの一反姐さんがね、故郷に行くからと誘われてね。まあ行くんなら、ヒッチハイクでのんびりと行こうと思い東京に寄り道して……」


「旅費を作ってるのよ。静ちゃん食費が大変だから」


「こら、アヤ。あたしを『大食い』みたいに」


「みたいじゃないだろう。底なし!」

「出たな醜女」

「ケンカしない! こんな場所でぇ」


「面白いね。あんたたち。いつも一緒であきない?」


「ぜんぜん」


 あー良かった。

 静ちゃん、あきると言ったらどうしようかと思った。


                つづく

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