海妖怪
47話 海妖怪
石が降ってきたのがやんだと思ってたら。石は波間に沢山落ちて行くのが、わかった。
人間にちかいおまえの目には見えないかもな。
何が見えるの裏アヤ?
なんだか、デカい壁が石を弾き返してる。
「石が、デカいヤツのせいで海女に当たってるよ、オバさん。アレって噂に聞く」
静ちゃんにも見えるんだ。
「あんたにも見えるかい。そうさ、塗り壁だよ」
「おまえたち、まだこりずにそんなことをしてるのか。そんなんだと人間に滅ぼされるぞ」
多分人間には聞こえないだろう独特の重い妖怪声が聞こえた。
わたしにはそう聞こえた。
姿は見えないが聞こえたんだなアヤ。
うん、いったいナニが現れたの?
『塗り壁』と、カッパのばあさんが言ってたぞ。
「塗り壁が、海女たちを追い返した……」
「静ちゃん、ぬりかべが居るのね、わたしには見えないの」
「あとで形とか教えてあげるよ、妖怪交友録に描くんだろ」
「うん。でも交友はしてないけど……」
「あの運転手は……どこだい!」
「わたし見たのオバさん、捕まえてくる!」
わたしの顔と入れ代わった裏アヤが、走り出し浜にある漁師小屋に。
「ひいっ!」
「おまえも妖怪か!」
「いえ、わたしは……海豹です」
「海豹……獣臭はないな」
「長いこと人間の中に暮らしてて臭いが消えてコロンを」
「言われてみればミカンの臭いが」
柑橘系でしょ。
そうともいう。
「おまえが頭か? 人間を集め海女に食わせるつもりだったのか」
「ヒイッ」
運転手の海豹の腕をひねり小屋から出てクルマの前に。
「静ちゃん、こいつ海豹よ。こいつが海女を」
「海豹だったのかい、やたらとオーデコロン臭いとおもったら海豹臭をかくしてたのね」
「オレはただ頼まれただけだ」
「誰に頼まれたのよ、海女」
「あの海から出てきたの海女っていうのね」
「噂で聞いたけど、ホントに居たのか」
「あの石は海女が投げてたのか?」
「いいえ、あれは『いしなげんじょ』という妖怪だ、正体は知れない」
「そうなの、オバさん妖怪に詳しいのね」
「いしなげんじょって、名前からして女だろ、やっぱり海女じゃないのか?」
「オレは海旦那の家来で。海旦那に頼まれたんだ。娘らが、腹をすかしてるから人間を集めてこいって」
「海女房って聞いたことはあるけど……オバさん」
「静ちゃん、海女房って、海旦那の奥さんかしら?」
「海女は奴らの娘か。海女房は子供を連れてるって聞いたことがある。だよねオバさん」
海なんとかは沢山いるんだなぁ。海坊主は有名だけど。
「海豹、もしかして『いしなげんじょ』の正体って、海旦那か?」
「オレもよく知らないんだ」
「おい、海豹。ゆるしてやるからあたしたちをちゃんと福岡まで連れてけ!」
ポカッ
「わかりました。ごめんなさい」
皆がクルマに乗り道路へ走りだした。
「あ、塗り壁が浜辺で手をふってる」
やっぱりわたしには見えない。
つづく




