高千穂麗
43話 高千穂麗
「所変わればよね。ヘビヅカヤの別館がホテル化」
「でも、お風呂代上がってたよ」
「物価のせいもあるんじゃない。近ごろなんでも値上がりしてるからねぇ。持ってるヤツは、持ってるからねぇ……お金。やっぱり埼玉に寄れば良かったかな」
広島駅前のヘビヅカヤを出て、大きな道路でヒッチハイク再開。
「この通り、なにもないのよね。早くクルマに乗って通りすぎたいわ」
クルマが通ると、静ちゃんは下関と書いたボール紙を上げた。
数台が通り過ぎた。なかなか停まらない。
あ、停まった。
「行こ、アヤ!」
クルマの横に着くと。
「下関に行くのね。乗せてあげる」
若い女の人だ、ドアを開けると。
一人女の人が。
コクリと頭を下げた。
「ゴメン、相乗りになっちゃうけどいいよね」
「ぜんぜんかまいません。おじゃましまーす」
「後ろせまくない?」
「大丈夫です余裕です」
「じゃ、行くよぉ」
先客の隣に静ちゃん。そしてわたし。
ドライバーの人は感じのいい人だ。ショートの茶髪で、革ジャン。
クルマの中は暖かいので薄着なのかな。
「こんにちは」
「こんにちは……」
後部座席に居た女の人は二十代くらいで、セミロングヘアで前髪で顔がよく見えないけどメガネをかけてる。
足元には、わたしたちみたいな、リュックが置いてある。その上にニットの帽子。
クルマの中は暖かいからぬいでるのね。てっぺんに毛糸の玉がついてるカラフルな色のカワイイ帽子だ。
「ねえ、あなたは何処からヒッチハイクしてるの?」
静ちゃんが話しかけた。
「鹿児島です。青森まで言って、帰るとこです」
そしたら。
「えー青森まで行ってたのスゴイね。そのコ、あまりしゃべらないから今知ったよ。四人もさ、他人が乗ってんだからさ自己紹介しない」
と、陽気なドライバーさんが。
「いいよ、じゃあたしから。関東方面から来た草双紙静です。コレから下関に美味しい物食べに行きます。でも、最終目的地は鹿児島ですぅ」
「関東の何処から来たの?」
「下総です。わかるかな?」
「わからないわ、東京の近く?」
「千葉県でしょ」
「あたり、あなたけっこう旅好き? 青森まで行ったんでしょ」
「千葉か、あたしは関西から先に行ったことないから、埼玉とか、横浜とかの位置関係わかんないのよね。あ、次はあたしね。名前は長門由香、コレから下関に帰るとこ。滋賀の友だちのトコに遊びに行ってたの」
「下関の方なんですね。わたしは、静ちゃんの友人のアヤです。静ちゃんとのヒッチハイクの旅はコレが三度目。特に今回はボンビー旅でトホホです」
「アヤ、ボンビーってなんだ?」
「ボンビーも知らないのか」
「醜女には聞いてない」
「静ちゃん、反対から……」
「反対……ビン……ボ……なるほど」
「ねえ、鹿児島ちゃんは?」
「わたしは、鹿児島から来た高千穂麗。趣味は旅行と読書かな……」
「そうか。高千穂麗。かっこいい名前だなぁ。タカラヅカみたいだ。アヤさんはみょう字は?」
「へんだから……。綾樫です」
「ぜんぜん変じゃないよね。アヤカシ……アヤ。そういうコト。気にしない、結婚すれば変わるし。だけど、あたしの知り合いの人で結婚したら金子鐘子になった人がいたよ」
「結婚ですか……まったく予定ないですけど」
「彼氏いないの、ふたりとも可愛いのに。あ、ゴメン。静ちゃんの方は知らないわ」
「あたしもいないよ」
「高千穂ちゃんは?」
「います」
「へーどんな彼氏?」
「どんなって、目が二つ鼻と口は一つで耳が二つの普通の男」
「あたりまえよね、ソレ。高千穂ちゃんも冗談言うんだね」
「冗談……でも口二つとか、顔二つとかの人も居るよ」
え、ナニ。わかっちゃたの?
この人、人間よね。
私にもそうとしか、見えないぞ。妖怪じゃない。
狐狸の類じゃないよね。
わたしは静ちゃんを見た。
目の合った静ちゃんは。
「高千穂ちゃん、そういう人、見たことあるの?」
「映画で……」
なんだ、映画か。
「長門さん。『怪異百物語』っていう映画観た?」
「ちょっと前の映画よね。お化けが沢山出るヤツ。見たよ」
「あの映画には、本物が沢山出てた」
「ヤーダ、ナニぃ。怖い話。あたし苦手なの」
しばらく車内沈黙。
「なにか、しゃべってよ!」
「お腹すいたわ。下関までどれくらいでつくのかな?」
「クルマなら広島から3時間くらいかな。お昼までに着くか着かないかね」
つづく




