風呂の妖怪
41話 風呂の妖怪
そのバナナの葉のような葉が浮き上がると下に顔が。葉は、帽子か髪のようだ。
「何者、あんたは」
「何者?! ここは妖怪ホテルよ、そこに居るんだから妖怪に決まってるじゃない。あなたは……二口女よね。身体洗うの見てたよ」
「いや〜んエッチ。覗いてたのね」
「覗くも何も、ここで風呂に入ってれば丸見えだよ……エッチって、わたしゃおっさんか」
「ちょっとふざけただけよ。あんたは植物妖怪? バナナ娘?」
「違うわよ……この葉はバナナじゃないわよ、よく見て」
と、言われたんで、わたしたちは、お風呂の中に入り植物妖怪に近づいた。
「近くで見るとカワイイ顔してるわねぇお嬢ちゃんだ」
「お嬢ちゃん言うな、わたしは江戸時代から生きてる。『芭蕉の精』だ。名を芭蕉松緒という」
「松尾芭蕉。あの……」
「いいや、反対だ芭蕉松緒だ。松尾芭蕉は、わたしの弟子だった。いつの間にか、わたしの名をかたっていた」
「そうなの、あんた俳句とか出来るの?」
「いや、わたしがヤツに教えたのは忍びの術だ。俳句はやつが勝手にやってた……それで有名になり芭蕉の名は俳句と結びついた。本物の芭蕉はわたしだったのに」
「なるほど、あんたは芭蕉の精か、名は聞いたことある」
「あんたたちは、何処から? コチラのなまりもないねぇ旅してるの?」
「ええ、旅の途中よ。これから九州に」
「旅はいい。わたしも各地をまわってる。松尾芭蕉に旅の楽しさを教えたのもわたしだ」
「へえ〜あの芭蕉に忍術と旅を……」
「明日は早いから出るか……ココは妖怪の姿が出せて気持ちいい」
と、湯からあがった姿は頭の毛が緑の芭蕉の葉で、身体は艶めかしい女のそれだった。
「なあ、アヤ。旅はわかるけど、なんであいつが忍術を教えたんだ?」
「なんででしょうか」
「おまえたち、知らないのか。松尾芭蕉の出身が伊賀だからだ。おそらく天狗に武術を教わった牛若丸と同じだろ」
「そうなの裏アヤ」
「天狗ならわかるけど、アレは芭蕉の精だぞ」
「妖怪だ、人間より優れてるからな」
「なるほど醜女、博識ね」
「おまえたちがアホなだけだ」
「アホとか、いうな大阪でかぶれたな」
「違うは、そんなコト言うと大阪っ子に嫌われるぞ底なし!」
つづく




