広島に到着
38話 広島に到着
フェリーに乗り、海を渡り広島に着き。
再びヒッチハイクで山口を目指す。
「金沢さんたちがいて良かったね。フェリー代出してもらえたよ、下手したら……」
「そんときは、姐さんに頼んで海を渡り一気に下関まで。苦しいときの一反姐さん」
「まあそういう手もあったけど……。やっぱり西日本は、なんのツテもなくって、きついね」
「顔のデカい静かは、西には知り合いがいないのか?」
「ああ、顔がデカいぃ」
「裏アヤ、わざと間違えてるでしょ。静ちゃん、顔が広いよ」
「わかってるわよ。こっちには知り合いの妖怪って、いないんだよ。だけどさ、東京と違い妖気を感じるから妖怪に会えば、すぐにわかる。その辺の人間の中にひとりやふたり……」
「居ないわよね……静ちゃん」
「ちょっと道路脇じゃなくて繁華街の方へ行ってみましょうよ」
静、腹が減ったんじゃないのか。道路脇に食い物屋がぜんぜん見あたらないからな。
コンビニもない。
このあたり。
ちょっとした繁華街を見つけて入り。
「アヤ、お好み焼き食べよう」
ほら、さっそく店を見つけた。
「広島のは大阪のとは違うんだよね。東京で食べた広島焼きの本場だよ! アヤ行こ」
わたしは、バッグからお財布を出して中を見た。
「静ちゃん、一人前にしてね。食べすぎるとフグは食べれなくなるよ……」
広島にはヘビヅカヤはあるのかな?
入ったお好み焼き屋さんで聞いてみた。
「ヘビヅカヤ。あんたたち、なんで広島まで来たの? 飛行機、船」
「フェリーで松山から」
「そうなのね。じゃわからないわよね。駅前にあるわよ、最近建ったキレイなビル。泊まるの?」
「そのつもりです」
妖怪だから平気だが、ここんとこ寝てない。
「そう、なんだかあそこ高いし、建ったばかりだから混んでて泊まれないかもよ」
店のおねえさんは、気さくでよくしゃべるヒトだった。
「わたし、知り合いに安い旅館やってる人がいるから、聞いてあげようか?」
「あ、大丈夫です。ほらヘビヅカヤのカード持ってるんで……いっぱいでも、なんとかなります」
大阪で作ったカードだ。フロントでコレを出せば、すぐに別館の妖怪宿にまわしてくれると。
東京より、地方はあまり妖怪が働いていないので、人間の従業員はカードで見極める。
カードを出すと、人間の受付けの人だとカードの意味を知っている妖怪の従業員に渡すしくみらしい。長く待たされない。
「へえーそんなのあるんだ。あんたたち、旅なれしてるねぇ」
一人前を食べた静ちゃんは、持ち帰りを一つ頼んで宿での食事とするようだ。
わたしはここの一枚で充分。
さすが本場、ボリュームもあった。
広島駅まで、やって来てヘビヅカヤを見つけた。
ホントだ、できたばかりのキレイなビル。ここに別館があるのかな。
また、外に古い宿があるパターンじゃないのか。
ありうるわね。
「お風呂あるかなぁ……別館。そろそろ疲れをほぐしてぐっすり寝たいねアヤ」
ヘビヅカヤの一階受け付け。
「あのぉコレでお願いします」
「はい、あちらのエレベーターにお乗りくださってB4を押してください」
と、すんなり言われた。受け付けのヒトは妖怪だ。
なんだろうな。妖気だけじゃわからない。
エレベーターで四階下まで行くと、エレベーターのドアすぐ前に受け付けがあった。
「いらっしゃいませ。カードを」
渡すとすぐに。
「二面の綾樫様と二口の草双紙様ですね」
「はい。ハイテクになったね」
「カードをお返しします。ポイントが、溜まりますとお風呂と朝食がサービスになります」
「ホント、じゃ朝食たのむよ」
「お客様、まだはじめてのご使用なので……」
「あ、そうか。四国にはなかったものね。九州にもヘビヅカヤはあるの?」
「ハイ、福岡、長崎、鹿児島と宮崎に」
「全県にはないのね」
「再来年には全県に」
「そうか、ありがとう」
「では、通路を。三つ目のドアの『蛇の目の間』をお使いください」
「すごいね静ちゃん。宿というよりホテルだね。ホントにタダだよね?」
「多分……。受け付けのおねえさんも妖怪だったし」
「あら、もしかして……モデルの静? そうよね。わたし、ファンなの握手して」
部屋に入ろうかとドアを開けたらメイド姿の若いコが出てきて、静ちゃんの顔をしばらく見てから。
「あなたは、ここの従業員よね……」
「はい、ベッドメイクを……ここ、少し前に空いたばかりで。それより握手してください。あ、大丈夫ですよ。わたしも妖怪ですから、あの映画も見ました」
「映画……あたし、厚化粧だったでしょよくわかったわね」
「映画で、ファンになったんじゃなく、新聞広告で、『しもむら』とか『ノラクロ』ので」
「え、アレは東京の……」
「『しもむら』や『ノラクロ』は、こっちでもあるんです。それ見てキレイなモデルさんだなぁと。名前も出てましたから。そしたらあの映画観たら名前が、パンフ買って確かめました。モデルの『静』って。やっぱり同一人物だったんですね。しかも本物の妖怪だった」
つづく




