お遍路さん……
32話……
適当に丸亀から室戸の旅の話をし、二人と別れた。
停まってくれるクルマをただ待っててもつまらないので、とりあえず先に歩く。
やはりお遍路さんに出会う。
「あんたらもお遍路かい」
三角の竹笠に白装束のお遍路スタイルに杖のお婆ちゃんに声をかけられた。
「違うよあたしたちは。ヒッチハイクの旅の途中で」
お遍路さんは何かをくれないから、静ちゃんは否定する。
「ヒッチハイク……ようわからんが旅行かい。楽しいかい?」
「ええまぁそれなりに……」
「そうかい、若いうちは楽しんどきなさい。楽しいのがイイ。若い時に楽しんでおけば、年取って過去を振り返れば楽しいコトだらけだよぉ。ソレがエエ。わしはろくな事がなかったじゃけんねぇ」
「お遍路さんは、楽しくないんですか?」
「まあ苦行みたいなもんだから、楽しくはないさ。けど、道中。こうやって人と話すのは楽しい。わしは、普段一人暮らしでな、一日で一言もしゃべらん日もあんだよ……だから楽しいんだ今は」
「一人暮らしは寂しいよね。あたしもにぎやかな方が好きだから」
お婆ちゃんは話し好きで。今までの人生を語りだした。
しかし、わたしたちは、このお婆ちゃんの三倍くらい生きてる。
世間話やお婆ちゃんの趣味とか、聞きながら歩いてたら奈半利町まで着いてしまった。
お婆ちゃんとは、別れ。
わたしたちは、先へ。
途中、安芸まで行くというクルマに乗せてもらって。
安芸に到着。
次は高知へ。もう暗くなってきた。
宿は探さず先へ進んだ。
タヌキと関係あるのか知らないが、四国にはヘビヅカヤは無いようだ。
夜道歩いてると、前にお遍路さんが。
「こんばんわ」
「こんばんわ」
この人はおなじみのお遍路さんスタイルだけど、目から下は白い布で見えない。
「あんた、物の怪だね。タヌキじゃないわね」
「わかるかい、あんたたちもそうだよね……妖気でわかるわ」
「ええそうよ。あんた物の怪のくせにお遍路さんしてんの? それとも何かのカモフラージュ?」
「物の怪だって、辛いことがあって聖人様につがりたくもなるわ。私は『納戸女』っていう妖怪よ」
「納戸女。岡山の『納戸ばばぁ』の身内かい……?」
「岡山の納戸ばばぁを知ってるのかい?」
「会ったことはないが、そーゆーのが居るって」
「岡山のは、私なんだ。私は香川に渡り、岡山に居た頃のように人をおどかしていた。やってることは同じだったのに。香川では、子供をさらって喰うなんて言われたよ……まあそれは、よくあることなんだけど、私しゃばばぁと言われるほど老けた顔をしておらんのだ。なぜか私はばばぁと呼ばれた……」
納戸女は白い布を取って顔を見せた。
「たしかにばばぁは、可哀想だねいいとこ四十代の人間の顔立ちだね……なんで顔をかくしてるのさ?」
「ばばぁと言われてから顔に自信がないんだ。私……だから名前は納戸ばばぁじゃなく『女』と名のってる」
「なら、顔出してりゃいいじゃん。あ、あんたもしかして、子どもばかりをおどかしてなかったか?」
「ええ、大人は武器を使ってて応戦してくるから……子どもの方が楽しい……」
「だからさ、まあ子どもが言うなら『納戸オバぁ』とか、言いそうだけど。悪く見えたらばばぁあつかいの顔だよ。大人だったら、『納戸女』って、言われてたかもね。子共は怖い。中年女でもばばぁだよ」
「そういうものかね……」
「まさか、それでお遍路さんを」
「今のは聞かなかったコトにして」
「いいじゃないか。あたしが、あちこちで『納戸女』の名をひろげてやるよ……『納戸姫』でもいいか?」
「納戸姫、いいではないか。なんだか、八十八ヶ所巡礼しなくても聖人に会えたようじゃ!」
と、はしゃぎながら納戸女は闇に消えて行った。
「姫はちょっとアレだね……やっぱ女止まりだ。あの顔は……ばばぁと言われたのもわかる」
静ちゃんってば、本音を。
つづく
 




