妖怪トラック
24話 妖怪トラック
オンボロの妖怪トラックは、乗り心地最低で、スピードも出ない。ノロノロ運転。
キツネやタヌキ、イタチも乗っている。
「お嬢さんたちは、見た目は人間だね。何処からきなはった?」
わたしたちの向かいでカブを齧ってる老婆が。
「あたしらは関東から」
「見栄はらず東北と言えよ」
「黙ってな、醜女」
「ほう。関東でも刑部姫様の忘年会の噂が……」
裏アヤの声は聞こえなかったようだ。
「いや、忘年会の話は、さっき運転手に。刑部姫の噂話は今じゃ妖怪本に載ってるし。城マニアが多くて知られてるよ。あたしらはヒッチハイクしてたんだ。そしたら運転手の……山男にひろわれたんだよ」
「ひっちはっくというのは? わてはあまり人里に出へんので。新しい言葉は知らへんのや」
「クルマひろいながら、旅先に行くことだよ。貧乏旅行だから交通費をうかしてるんだ」
「通りすがりのクルマに乗っての旅か」
「おおーい、そんなもんに乗ってんのかい」
一反姐さんが夜空から降りてきた。
「今から姫路城へ忘年会しに行くんだ姐さんも行こうよ」
「姫路城……おさかべ姫んとこの」
「姐さんは、行ったことある?」
「大昔な江戸の頃かな……」
「そうなんだ、刑部姫って、どんなヤツなんだ?」
「昔は十二単着てて平安の貴族みたいだった……ソレは綺麗なお姫様って感じだったの。皆が鍋物食ってどんちゃん騒ぎしてるのをただ笑って見てた」
「笑って見てただけ? 自分は何も食わずに……」
「姫様は、物を食わぬのじゃ……実はわしも久しぶりの参加じゃ」
「そうなの、忘年会なんだけど。あたしら貧乏なんだけど参加費とかは?」
「運転手は、何も言っておらんのか?」
「ただ、妖怪なら大丈夫と……」
「カネいらないいと言ってたぞ底なし」
「カネなど、いらぬよ。忘年会とは、年に一度の姫様を楽しませる会じゃ。歌の一つでも披露すればええんじゃよ」
姫路城に着いたら。
うわぁ……。トラックが飛んだ。
そして、城の屋根に降りると荷台の連中が降りる。
「キレイで、立派なお城だね静ちゃん」
飛べない妖怪も見えない廊下を歩き城の天守閣の中に。
ドバーンっと城に入ったら大きな音が。
狭そうな天守閣内で、妖怪を沢山招待して忘年会なんてやれるのかなと思ったら、天守閣内は異空間?
まるで、学校の体育館くらいの広さが。
床のテーブルには料理が並んでた。
忘年会は立食パーティー?
入るなり大きな音がしたのは奥にあるステージの上のバンドのドラムの音。
ディナショー?
四本腕のドラマーが叩いたドラムの音。
バンドのメンバーは皆、多腕多足で。
中には顔も一つでないものが。明らかに人間じゃない。
バンドの演奏とともにステージ横から、短パンで厚底ヒールを履いた全身ラメでキラキラした女性が出てきた。
「ハーイ、今年もやってきたプリンセス刑部のオンステージ! 来場ありがとー。みんな感謝してるよー」
「あの派手派手なロック歌手みたいなのが刑部姫?」
「自分でプリンセス刑部って。見た目はあたしらと同じくらいの人間よね。婆さんが歌を披露って。こっちが披露されてる……」
「一曲目いくよ!『おさかべロック!』」
「ずいぶん変わったね……」
一反姐さんと荷台の妖婆が同時に行った。
つづく




