酔っぱらい
20話 酔っぱらい
「お父ちゃんって、何処!」
ココちゃんが、まだ夕暮れ時なのに酔ってフラフラ歩いてる二人のおじさんの方へ。
って、あの酔っぱらいのどちらかが、お父さん。
「お父ちゃん、狐々だよ!」
「ん、ココ……ドコだよ……」
「お嬢ちゃん、面白い格好してるねぇ〜」
「ホントだ、耳が頭から生えてる〜」
「あ、アレだカップ麺のキャンペンガールとかゆ〜の『黄色いケツネ』だっけ?」
「あんた、クモだ!」
え、もう一人の酔っぱらいはココちゃんのお父さんを大阪に連れ出したクモなの。
「おい、おっさん。あんたの娘だよ。わからないのか?!」
静ちゃんが、ココちゃんのとこへ行き、ココちゃんのお父さんに。
「娘……娘は群馬だ! ココになんていねぇよ。娘はココいいまんねん」
「だめだなコレは。ココ、こっちのおっさんがクモなのか?」
「間違いない。このへんな顔は」
「なんだぁお前ら、人のことを変な顔って……うっ今日は呑みすぎた。今グンマとかゆーたな」
「ああ、群馬の娘がココにおると……ココがココに……ヒャハハ。シャレになっとるだろクモちゃんよ」
「静ちゃん……このふたり、どうしよう」
「水でもぶっかけて酔いさますか」
「道頓堀川にでも、たたきこんだらどうなん。妖怪なら死にゃあせんだろ」
「面白いな、裏アヤ。怪力でふたりを」
「あたしゃホークリフトじゃないよ」
と、言いつつ。わたしの顔が入れかわった。
わたしの体が動き、二人の酔っぱらいを掴んで川に。
暗くなったんで目立たないトコに一反姐さんをよんで、二人を寝肥女将の店に運んだ。
姐さんホントにいつも、のわたしたちを空から見てるんだなぁ。
わたしたちは電車で帰った。
濡れた服をスウエットに着替えた二人は、二階の個室で鍋を食べてた。
「よぉ狐々。久しぶりだな、座って鍋を食えあったまる」
「お父ちゃん、なんで今まで群馬に……」
と、ココちゃんはお父さんを叩く。
「いてぇやめれココ。ソレは、こいつのせいなんだ……」
「ひとのせいに、しなさるかぁ。あんたが勝手に呑んだやさかいに」
「アレはおまえの術のせいやろ」
「ナニがあったんだぁ。おっさんが十年も群馬に帰らないから心配して娘がわざわざ群馬からあんたを捜しに来たんだよ」
「せやから、こいつがな。悪いんや」
十年、大阪に居たせいか群馬のお父さんも時々関西弁がまじる。
よく話を聞くと。お父さんはクモという男の紹介で仕事をして。
一年間働いて帰るはずだった。
で、最後にクモと別れの席で酒をすすめられて呑み始めたお父さんは、稼いだ金を飲んだり食べたり遊んでつかってしまい帰るに帰れなくなってしまった。
仕方なくもう少し働いて稼いだお父さんは、また帰る前日に別れの席で……。
なんとコレを5年も繰り返してたと。
「なんでまた5年も。途中でやめなかったんだ」
「せやから、この化け物のせいで……」
「化け物いうな、この古狸が」
「わしは、キツネだ。タヌキだとぉ」
「まあやめなはれ、このクモとかいうおっさんは『やろうか酒』だ」
追加の野菜をもつてきた女将がお父さんを止めた。
「こいつ、クモ妖怪じゃないのか女将」
静ちゃんの髪の毛がクモの男の襟首を掴み上げて。
「わしゃつくものもんじゃからクモと……」
橋姫が行っていたやろうか酒とは、この男なの。
「帰るとき、こいつを誘い別れにちょっと呑むつもりが、いつの間にか……こいつが妙な術を使い帰さなんだ」
「いや、わしも帰らさないつもりじゃないねん。つい、酒をすすめるのがわしら『やろうか酒』なんだが、こいつと呑んでると楽しくなっての、ついわしも呑見すぎてしまい……いらぬ術がつぉーなってな」
「しまいには働いてぇは、呑んで。んで群馬に帰れなくなってしもうた」
「あんた、群馬の家族のことを考えなかったの」
「しらふのときはのう……早く稼いで帰らなくちゃって思うだがよ。呑んじまうと、この方が楽しくなっちまってな。それの繰り返しだ。すまない狐々。明日こそ帰るから……が、金がない」
「帰る金なら、私が貸してやるから、とりあえず帰りな。そいつから離れるんだよ」
「すまん、女将さん。群馬で働いて返す」
とココちゃんのお父さんは女将さんに土下座した。
「そうかぁ……わしと離れるか。あんたと呑み歩くのは群馬に居た頃から楽しかった……」
「わしもだクモちゃ〜ん」
今度は二人で抱き合い泣き出した。
「ホンマはあんたを帰したくなかったからや〜」
「なんだ、このふたり。まだ、酔ってんのか」
「おっさんずラブやない……アホらしい闇大阪なんて、なんも関係あらへんかったわ」
後日わたしたちは化けギツネ親子と別れ大阪を出た。
つづく




