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再会の老夫婦

2話 再会の老夫婦


 はじめに、停まってくれたクルマは最初のヒッチハイク旅の帰りに乗せてくれた老夫婦だった。

 


「あなたたち、またこんな夜中にヒッチハイクしてるのね」


「憶えていたんだ、あたしたち」


「ああ、忘れんよ。とくに美人さんはね」


 旦那さんがそう言って笑った。


「でもね、若い子が深夜に二人で……あぶないよ。良い人ばかりじゃないからねぇ……」


「大丈夫です。あたしたち、こう見えて強いんです」


「強い? 本当にそうは見えないなぁ。でも、気をつけないとなぁ。ヘタに抵抗すると、どうなるかわからないよ」


「大丈夫です。負けたことないですから」


 旦那さんは、まえのときよりなんか嬉しそうだ。


「まえのとき、お二人さんをおろしてから、このひと『もっと乗せてやればよかった』なんてね。心配してたけど、ホントは、あなたたちみたいな可愛い娘を乗せて嬉しかったのよ」


「ああ、若い娘と話せるなんてそうないからな。よし、茨城まで行ってやるか。いいだろう」


「私は、かまいませんよ」


「いいんですか、そちらの都合も……」


「遠慮しなくていいよ。そのかわり、家内の話を聞いてやってくれないか。私は聞きあきてるんでね」


 お婆ちゃんは、霊感の強い人でまえに乗ったとき。誰にも信じてもらえないカッパの話をしてくれた。


「お婆ちゃん、また妖怪の話し聞かせてよ」


「妖怪でいいのか? けっこう怖い話もたくさんあるぞ」

「あなた、私の話は聞きあきたんでしょ。妖怪話は、あまりしないから。あなたも聞きなさい」


「あたしらも、怖い話は……。妖怪の方がいいわ」


「ほら、女の子が怖い話を好きだとは、限らないのよ……。それじゃ昭和の頃の話。私が学生だった頃にね」


「家内は女子校で生徒会長をしてたんだ。文化祭で私と出会ったんだ」

「あなたとの話なんか聞いてないわよ」


 旦那さんは、ホントわたしたちを乗せたのが嬉しいんだなぁとわかる。


「旦那さんとの恋バナも後で聞きたいわ」


「そんな昔の恥ずかしい話は聞かなくていいわよ……」


「ええ、恥ずかしい話なんですかぁ……」


「それより、妖怪の話ね。学校の階段ってあるわよね」


「七不思議とかっていうのですか」


 と、言って。なぜか静ちゃんはわたしを見た。


「あ、静ちゃん。わたし学校とか、あまりいってないからよく知らないわ。そーゆーの」


 と小声で静ちゃんに。


「ああ、その怪談ではなくて登る方の階段ね。まぎらわしい言い方しちゃったわね。階段のとこって、なぜか居るのよね」


「妖怪ですか?」


「そうだと思うの。だってね、ソレは人の形をしていないのよ」


「狐とかタヌキですか?」


「獣じゃなくて、ホウキというか、モップみたいなあ形のが。私のかよっていた学校に居たのよ。はじめは掃除当番が、かたし忘れたのかと。同級生に話したらそんな物は無いと」


「あ、多分それは掃除道具の付喪神じゃないかしら。お婆ちゃんの学校って、古くありません?」


「まあ明治に出来たとか……付喪神? それ、掃除道具の神様か、何か?」


「いえ、妖怪です。古くなった物とかが妖怪化するんです」


「そう。それで物の形の変な生き物見たいのが居るのね。妖怪って、カッパとか天狗やろくろ首見たいのをいうのかと」


「いろんなの居ますよ。頭の後ろにもう一つ醜い顔が有るヤツとか、あたっ」

「わたしじゃないよ」

「わかってるわ、裏アヤでしょ」


「後頭部に口が有って、異常なほど飯食う『底なし女』っていうのも居るんです」


 裏アヤが、わたしの声を真似て言った。

 裏アヤとは、わたしの顔の後ろに有るもう一つの顔だ。別の人格があり、静ちゃんと仲が悪い。


「その話! 私、友達から聞いたことがある。たしか、綺麗な女房をもらったら飯を食わなくて不思議に思って、さぐってみたら夜中に後の口で飯を食べていたの見て、驚いたという……」

「底なし女じゃなくて……」


「旦那さん、ソレは『二口女』です」


「そうですか……。妖怪に詳しいんだな君は」


「まあちょっと研究とかしてたり……」


「そういえば、あなたたちはカッパを見たとも。遠野の人なのよね」

 

「でも、出身は二人とも千葉県なんですよ」


 前回は、あまりしゃべらなかった旦那さんは、よくしゃべった。


 ホントに旦那さんが若い頃の恋バナなんかも話してくれた。


 宮城県に入った頃には明るくなってきた。

 

 仙台で朝ご飯を食べようということに。


 街中を走ってるとき、福の神仙台太郎が歩いてるのを見かけた。


 アレはお婆ちゃんは見えないのかなぁ。

 それとも普通の人だと思ってるのかな。


 食事は旦那さんか奢ってくれた。

 ファミレスだったけど。

 静ちゃんは、名物の牛タンを期待してた。

 帰りにでも食べようと、気に入ったらしい。


 旦那さんが常磐自動車道に乗り、茨城を目指した。


「普通の道路でも良かったんですよ。急ぐ旅でもないので」


「気にしない、気にしない。久しぶりに高速をぶっ飛ばしたかったんだよ」


「あなた、はしゃいじゃって。あきれた。安全運転してよ」


「私はいつでも安全運転だ。免許取得してから、一度も事故をおこしたことないだろう」


「はいはい。茨城に着くまで、誰にも話したことない妖怪の話を聞かせてあげるわね……。でも、私は妖怪に詳しくないのでホントは妖怪じゃないのかもしれないヤツの話なんだけどね。それは私がまだ小学校へあがる前、岩手に住んでたときにね」


「お婆ちゃんって、あたしらと共通点多いよね。カッパを見たのは千葉県に住んでた頃でしょ。岩手にも居たんだ」


「あら、そうだね。なんかの縁かね。面白いね。話の続きね。幼い頃近所の人が事故で亡くなって、お葬式へ出たんだよ。田舎だったんで、クルマも使わず皆でかついで棺桶を墓地まで運んだんだよ。今みたいに火葬にしなくて土葬だった。だからか、ああいうのがいたのかね。墓場までは近くてね。皆で徒歩でぞろぞろと。その列に見なれない女がひとり混じっていたんだよ。その女は、長い黒髪で薄い布の古い生地のぼろぼろの黒い着物を着てて特に目立ったのは赤い巾着袋を下げていたんだよ。なんか気持ちの悪い人だなぁって子供心に。棺桶を埋めた頃、雨が降ってきて、皆近くのお寺へ雨宿りさ。私が見まわすと、赤い巾着袋を付けた女は何処にも居なかった。親や知り合いにも言うと誰もそんな女は見てないと。」


「そいつは妖怪ですよ。その後、お墓で何かありませんでした」


「ええ、墓が掘り返されてたと。その頃、重い墓石があったのはお金持ちの墓だけだったからね。簡単に掘れたんだよ」


「やっぱりね。今みたいに火葬にして骨を骨壷に入れ重い墓石の下に入れるようになったのは、そういう妖怪が居たせいですから……」


「幼かったから、よくわからなかったけど掘り返されてた墓はどうなったのかしら? そこはよくおぼえてないんだよ」


「多分食べられたと思います、ご遺体……。『きゃしゃ』とか呼ばれてたヤツでしょう。赤い巾着袋が特徴です。それに食べ残しを入れてたとも」


「お遺体が……食べられた」


「今日のは、なんか嫌な話しだねぇ。妖怪っていうから、てっきり……」


「おもしろ、おかしいのも沢山居るんだけど、お化けだから怖い話になっちゃうのよ。のっぺらぼうとか、ただおどかしてるだけで、あとナニもしないの多いのよね。」


「映画で見たんだが、顔みたいな肉の塊に短い手足のある……」


「『ぬっぺら』ですね」


「アレなんかも出てきて何するわけでもないんだろ? さっきの『底なし二口女』っていうのも話だけだと存在理由もわからないな。タレントの大食い女みたいなもんかね。まあ異形だからテレビには出られないな」


「旦那さん、彼女は美貌という武器がありますから後ろの口がバレなければ映画俳優やモデルもできますよ」


                つづく

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