女将は……
18話女将は……
お昼は砂掛舞ちゃんの知り合いというお店で。
「いらっしゃい舞ちゃん。お友だち?」
「お客さん。ここが美味しいと、連れてきた。サービスしてや」
いかにもな大阪飲食店の女将さんって感じのヒトだ。
「たこ焼き、お好み、串揚げ、なんでも美味しいから、沢山食べていき。サービスするよ」
噂に聞くお好み焼き定食とか、ある。
「女将、二階の個室いいかな」
「あいよ」
「夜までだいぶあるけど、ナニか出来ることはないのか?」
「そうねぇ少し情報集めとこか」
「大阪ってさあ妖気みたいなものは感じないんだ。あんたも、砂かけの婆さんも。やっぱり、長く人間界に居ると消えるの?」
「東京でも、そうなんやろ」
「まあ……あたしらは東京モンじゃないけど」
「だろうと思ったわ。妖気感じるもん。そっちのキツネは群馬って……」
「あたしらは、岩手の遠野に住んでる」
「あそこには、妖怪がぎょうさん居ると聞いたわ」
「昔はね、今は少ない。カッパも座敷わらしもいないんだ」
「そうなん。カッパは、何処でも居るもんちがうの?」
「遠野は、観光客が、わんさか来るようになってね。うるさいとカッパたちは出ていっちゃたんだ」
「なるほど、わからんでもないなぁ。大阪の妖怪連中は上手く人間界に溶け込んでる。この店の女将も妖怪なんよ。わからんかった?」
「入るときに見たあの太った女将も。ナニ妖怪? タヌキ? 獣臭はしなかったから違うか」
「知ってる? 寢肥。女将は寝る前から太ってるけどね」
「知ってる。あたしの知ってる寢肥は、東京でモデル事務所やってる」
「モデル事務所、その寢肥は、太ってないの?」
「ぜんぜん。普段はスタイルのイイ美人だよ。あたし彼女が寝てるの見たことない」
「へえ〜そうなん。あ、女将も情報通やけどなぁ。持ってる情報は、ちと違うかも。呼ぼうか」
「あんたら東京から……。働き場の情報でっか」
「このキツネの子の親が大阪に行って十年帰らないそうなんだ」
「キツネねぇ……おっさんでっか……若い子ならね、色々あるけど、キツネのおっさんが地方から来て仕事……わからんわ」
考えたわりに結論は、砂掛舞ちゃんと同じじゃない。
「舞ちゃん、橋姫んとこ行ったかい」
「これから行こうと思ってる」
「橋姫か大阪に居たんだ」
「橋姫知っとるの」
「会って見ないと、自分が知ってる橋姫か、わからない。あたしは江戸で会ったから。大昔だ」
「なら、同じ橋姫かも。大阪に来る前は江戸に居たと言うとったわ」
そこへ、二階に上がる前に頼んだ品々が運ばれてきた。
「自分ら、ずいぶんぎょうさん頼んだなぁ。コレ何人まえだ」
静ちゃんが、たことお好み定食頼んでた。串揚げの皿十人まえに鍋物も。
「女将、東京の寝肥は、モデル事務所やってるらしいわ」
「モデル……」
「起きてるときは、たいそうな美人さんらしいよ」
「私とどっちが美人だい?」
わたしの声の裏アヤと静ちゃんが声を合わせて。
「東京の方!」
「そう。一度おうてみたいわ」
わたしたちは、橋姫に会うために店を出た。
心斎橋駅近くに住んでるという橋姫。
テレビで見たことがある心斎橋。
「あ、居たで橋姫」
「え、ドコに」
つづく




