先客
15話 先客
東京とも、北海道とも違った雰囲気のホテルだと感じた。
何が違うんだろう。大阪のヘビヅカヤ。
静ちゃんが受付けで。
「三人なんだけど……」
「ご予約は?」
「してません」
「しばらくお待ち下さい」
受付けの人が奥に行ったきり、なかなかこない。
「ホントにしばらく待たされてるなぁ」
「来たよホラ」
「すいません本日は、いっぱいで……あの別館なら」
と、言われて。ヘビヅカヤの裏にある建物に行ってくれと。ホテルから出て、ぐるっとまわった。
「別館ってあれね」
こちらは古い和風の建物で二階家だ。
「旅館へびや」と書かれている。
「別館? 別の旅館じゃないのココ……」
「はい?」
「あんたじゃないよ狐々」
ガラス戸を開けると、お婆ちゃんが座ってた。
「あれ、あんた砂かけ……」
「お客様で……。妖怪かね。では、別館の別館だね」
と、通されたのは裏口で、外に。
平屋の一軒家が。
「布団は押し入れだから。この家、好きに使ってくれていいよ。先客が、ひとりいるけど妖怪だから気にしないで。明日は早いのかい? まあ、出てく時に別館に一言言ってくれ」
コレは、東京とは大違いだ。
シェアハウスっていうの。でも、ホテルの別館だよね。
「部屋というより、一軒家まるごとだよね。これ」
「そうね。でも、誰か居るって……」
「とにかく入ろう。アヤ、ココ」
ドアを開けると普通に玄関。で、下駄箱にはスリッパが置いてあった。
スリッパにはヘビヅカヤと。
反対側の下駄箱には靴が一足。女物だ。
先に居るというのは女妖怪か。
「しつれいしま〜す」
と、皆で上がり廊下を行くとリビングが。
ソファに座ってテレビを見てるのは、見た目は若い女性で、黒いロングヘアに黒いセーター、黒いパンツ。靴下も黒。
その彼女の脇に赤い巾着袋が置いてあった。
「遠慮しないで、私も客だから……」
「間違ってたらゴメン。もしかしてきゃしゃ?」
「え、あなた……二口」
「きゃしゃだよね、あたしは、今は草双紙静と」
「間違いないようね草双紙静。その名前、濡れ女から聞いたよ。遠野にも行ったんだ」
わたしは、知らない妖怪だけど静ちゃんの知り合いらしい。
「柳行李麗ね。会ったの」
「ああ、あいつ人間とうまくやってていい暮らししてるよね」
「そうそう、黒髪バッサリやってて金髪にしてたでしょ。はじめわからなかったよ」
「あんただって、現代人ぽくっ。あ、立ってないで座って」
「きゃしゃもあか抜けちゃて。その赤い巾着で思い出したよ。連れは、二面のアヤと化けキツネのココよ。あんた人間名あるの?」
「黒井……」
「名前は?」
「きゃしゃ」
「まんまじゃない」
「あんたら、よくウララとか、シズカとか、つけたよね。なんかさぁほかの名で呼ばれるのが照れくさくて……姓は自分でつけた」
「で、まんまなのね。あたしら、妖怪名が○○女じゃない。世間には名乗れないからね」
「文車妖妃につけてもらったんだってね」
「そう。でもね、あんたの黒井きゃしゃは……。まんまだから。う〜んあたしがつけてあげようか、イイ名前」
「いいよ、いらないよ」
「深大寺ソバ子とか、浅草餅アン。う〜んもっとハイカラなのがいいか崎陽軒マイとか」
「どこが、ハイカラなの。それにみんな食べ物じゃない。私は今のが気に入ってるから、このままでいいの」
「なんか、お腹すいたわ。アヤ、ココ。なんか食べに行こ。あんたも行こ。きゃしゃ」
つづく




