物の怪ヶ原2
14話 物の怪ヶ原2
ヤツらは、声は聞こえるが姿が見えない。
「食わないよ女」
「ホントに! じゃ帰して」
「女、わしらの声が聞こえるのか。姿は見えるのか?」
「黒い蔓は見えるけど、あなたたちは見えないわ。あなたたちは何? 妖怪」
「ココに人間が入るのも久しぶりだが、会話も久しぶりじゃ」
「何言ってるの。入りたくて入ったんじゃないわよ。無理やり蔦で……」
「妖怪蔦だ。わしらが使ってるわけではない」
「クション。寒い。食べないのなら帰らせて。風邪ひいちゃう。お願いおトイレも……」
「オジジ、この女。ほっとけば死ぬ。そしたら」
「それは裸で一晩明かせば死ぬわよ! 死んだら食べる気」
「ああ、わしらは食屍鬼でな。生きた人間は喰わんのだ」
「だから、裸に……」
「いや、今の女の裸が見たかっただけだ」
ええ、なにこのスケベ妖怪。蔦は、誰が操ったのよ。自分らとは別物みたいに言ってて。
食屍鬼って、グール。でも、グールは。
「こんなトコで、なにしてんの餓鬼ども!」
わっ! 静が、突然現れた。
ガサガサと藪の中から彩ちゃんとココちゃんが。
「網切さん! 大丈夫?」
「ええ、彩ちゃん!」
静が、脱がされたコートを。
「裸にするなんて、餓鬼どもめ。寒かっただろマリア」
「ほう、そういうコトか。それで、その女はわしらと……」
「なんのもののけだか知らぬが、その女を連れて出ていけ! わしらは、ナニもせん」
わたしとココちゃんは脱がされた網切さんの服を揃え、藪を通ってクルマの所へ。
「寒かったでしょ網切さん」
「ありがとう彩ちゃん。よくここがわかったわね」
「あ〜。アレが、探してくれた」
と、静ちゃんがそらを指さした。
いいの静ちゃん。
「あ、あれって遠野で見た。一反……姐さん」
「そうだよ、友だちなんだ。あたしたち」
「静は妖怪と友だちなの……」
友だちとか言っちゃたわ静ちゃん。
「言ったでしょ自称妖怪研究家は、妖怪の友だちもいるのよ」
「河ババァも?」
「ああ」
「スゴイわね静って。さっきのアレって……食屍鬼って言ってたけどグールじゃないの?」
「グール? あいつらは戦国の世、もっと前にも居たな……屍から出来た付喪神みたいな奴らで、餓鬼と言った方が、わかりやすいかな」
「そういえば、餓鬼と呼んでたわね」
「こんなトコ、長居は無用。行こうマリア」
「ごめんなさい、ちょっと……」
そう言ってクルマの反対側へ行った網切さんは、クルマの陰で。
ふーっ。
お漏らしよりマシか、このさい。
ちょっとまえ。
約束の場所にいくら待っても網切さん、来ないから。
なんかあったんじゃないかと、心配してたら。
上空に、一反姐さん。
姐さんに網切さんの赤い軽乗用車を探してもらったら。
クルマを見つけた姐さんが戻り、みんなを乗せ現場に。
「静、乗れ! 藪の向こうに裸の女と餓鬼どもが」
大阪へ向かう車中。
「ねえ、静は、何処から現れたの? 彩ちゃんたちは藪の中から来たのは、わかったけど……」
「空から……」
「空っ?!」
「一反姐さんに乗って」
私の頭の中で、漫画の一反もめんに人が乗った絵がうかんだ。
でも、私が見た一反姐さんは、漫画に出てくる一反もめんとは、違うヒラヒラの女の生首。
アレに乗ってたの。静は。
う〜ん漫画ね。
「ねぇ彩ちゃんたちも一反姐さんに乗ったの?」
「え、ええ……」
「今度、私も乗せてもらおうかしら。あ、私、高所恐怖症なのよね。やめた」
「その方がイイわね。乗りごごちも悪いし。魔女のホウキ以下よ」
「魔女のホウキに乗ったこと、あるの?!」
「ないよ。でも、あれ痛そう。やっぱり姐さんの方がイイか」
大阪に着いたのは夜だった。
「今夜は大阪で一泊ね。みんなは?」
「知り合いのトコに……」
「そう。じゃ何処で降りる?」
「駅前で」
来る途中、ヘビヅカヤを見つけてた。
わたしたちはそこへ行くつもり。
「わかったわ」
「一人旅気をつけてね。マリア」
「あなたたちもね。私も何処かホテル見つけて泊まるわ。お風呂に入りたい」
「そう、行けたら鳥取へ行くから。またね~」
つづく




