再会の赤いクルマ
12話 再会の赤いクルマ
「ね、やっぱり。そのボロボロのセーラー服は考えものよ。アヤ、パーカー持ってたよね」
「うん、ちょっとまって」
わたしはリュックから、遠野を出るとき着ていたパーカーを取り出した。
今は持ってきたブルゾンを着てる。
寒くなったからね。
「ココちゃん、コレ上に着て」
「あ、寒くないよ。山にいたときは裸だったから大丈夫」
裸って、キツネの姿だったんだろうけど。
「違うの。ボロボロな服は良くないから隠すのよ。そのゴザを降ろして」
中腰になったココちゃんのお尻がチラッと。二本のシッポでスカートがめくれあがった。
「アレ、ココちゃん下着付けてないの?」
「下着?」
「パンツ……履いてないの」
「ココ、人間の姿になったら履いたほうがいいよ」
そうだよね静ちゃん。
「履いてたよ……。群馬から埼玉まで乗せてくれたメガネのオジさんが。お金持ってないって言ったら。パンツを千円で買ってくれた」
「はあ。そいつ……。よく無事だったなココ。そのオジさんは、あぶない奴だっんだよ」
「あぶない? 揚の入ったカップうどんくれた。やさしいオジさんだったよ。クルマから降りたあと、お金は食べ物買って、カップうどんも食べちゃたから、もうないけど」
「そうか。変なとこ触られたりしなかった?」
「変なトコ? 頭なぜられただけ。あと、シッポ」
「そう、それは良かった……」
「うそぉ〜。静ちゃんと彩ちゃんじゃない!」
と、言ったのはサングラスかけた女の人。
サングラスを外して。
「網切麻莉亜よ。お久しぶり、遠野で別れてからね……」
「網切さんだぁ。どういう偶然かしらまた、ヒッチハイク旅で会えるなんて」
「また、またよ。なにかの縁かしら……西へ行くの?」
「ええ、とりあえずは大阪に」
「大阪。私、鳥取へ行く予定なの……」
「鳥取って、どの辺だっけ?」
「大阪よりずっと西。日本海側だけど、大阪まで乗ってく?」
「本当は大阪に用があるのは、ひとりだけなんだけど。この子」
「あら、その子は、まえの子とは違う子ね。猫耳カワイイわね。シッポもある……ごめん。それ、ネコじゃないわよね」
「キツネです。金野狐々(こんのここ)です」
「この子とは、今、ここで知り合ったんだ」
「なんか、北海道のときも……。まだ、冬休み前だけど子供の家出とかじゃないわよね」
「大丈夫。子供みたいに見えるけど、この子大人だから」
多分、網切さんより長く生きてる。
「大人……中学生ぐらいにしか見えないけど……。まあいいか。クルマは向こうよ」
網切さんのクルマに乗る前にトイレに。
「ごめんね、コレ私のだけど洗ってあるから、履いて」
「平気だよ。山にいるときは履いてなかった」
「人間のなかにいるときは履いてた方がいいよ」
「どこかで、新しいの買うから……履きなよココ。アヤのはちょっと大きいかな」
「静ちゃんの方が大きいと思う。それにセクシーだしぃ」
「お金ないよ、あたし」
「気にしない気にしない」
高速で行けば大阪なんてすぐだ。
と、一反姐さんがまえに言ってたけど。わたしは西への旅は、はじめてだから、すぐと言われてもピンとこない。
それに空から見たのと大分違うんじゃ。
一反姐さん、今は空の上かな?
網切さんのクルマは、北海道のときと同じ赤い小さなクルマ。
今回は、静ちゃんが助手席で後ろにわたしとココちゃん。
「鳥取って、何しに。たしか、あそこって、妖怪博士と言われた大物漫画家の故郷ですよね」
「さすが自称妖怪研究家ね。素人妖怪研究家の私にも仕事が来てね。あそこに取材に行くの。亡くなってしまったけど妖怪研究の漫画家大先生の故郷にある妖怪ロードを歩きにね」
「妖怪ロードね。面白そう」
「大阪の用はかかるの?」
「どうかな、ココ。あ、後ろの彼女の力になってあげたいから、どのくらいかかるか……」
「そうか。一緒に行けたらと思ったけど。会えて、こうしてまた、クルマに乗せられたのも『縁』よね」
「早くすんだら、追いかけるから。スマホの電話番号教えて」
はじめは、大阪まで一気に行くつもりだったけど、静ちゃんのお腹の都合で浜名湖に寄ることに。
「浜名湖でウナギ食べるよアヤ」
「静ちゃん、あまりお金使うと、あとが……」
「アヤは心配性だな、無くなったらまた稼げばいいよ」
「でも、東京とは違うから」
「なんとかなるよ。一休さんもそう言ってた」
「一休さん……」
静ちゃんのことだからウナギだけでは、おさまらいだろうけど。
高速道路のサービスエリアって食いしん坊の人が作ったのかな。食べ物が多い。
昔は峠のだんごとお茶だったのに。
アヤ、いつの昔だ。今は令和だよ、今は。
江戸の昔。
そんな昔の事は憶えてないよ。
ウソだぁ。
「アヤさん、どうしたんです。静さんと網切さんはもう」
つづく




