さよなら遠野
100話 さよなら遠野
「じゃあまたね。何処かでお会いしましょ」
良かった。みんなと食事しても網切さんが記憶を戻すことはなかった。
網切さん、後の髪切ってたのをさっき気づいた。前から見たら同じなのよね。
わたしゃ花巻で再会したときから気づいてた。
「またね、網切さん!」
「元気でね彩さん」
クルマは、遠野を出ていく。
「帰るんだな。マカ以外で、はじめて姿を見せた人間だ。空から見送るか」
と、一反姐さん。現れたと思ったらすぐに空へ。
網切麻莉亜の車中。
また、会えるかな。彼女たちが出かけなければ、遠野へ行けば会えるか。
それに静の電話番号も聞いてあるし。
でもスマホ、借り物と言ってたから、そのうち返すんだろうけど。
アレは!
フロントガラスから、空を見ると一反姐さんが
進行方向に飛んでるのが見えた。
短い手を振ってるように見える。
私をおくりに来たのかしら。
アレ、本物の妖怪なのよね。
「え?! 危ない!」
「あのおねいちゃん帰ったのか?」
「ええ、マカさん。久慈姫は?」
「家に帰した。まったく、コレであの娘の頭の中では、あいつがオレの嫁さんなんだよな。そういうのは消そうとしないんだ。あいつ」
「大変だ! 網切が人をハネた!」
一反姐さんが、もどって来るなり。
「あたいに乗れ!」
行くとまだ、それほど離れてはいない場所でクルマを停めた網切さんが。
「あ、静ぁ! 人、ハネちゃたよぉ」
見るとクルマの先に倒れてる老人が。
「救急車が、先?! それとも警察?!」
「さっきハネたばかりよね」
と、静ちゃんは倒れた老人をみてる。
「早く救急車呼んだほうがいいよね。あった。スマホ!」
網切さんは、そうとう動揺している様子。
目の前の一反姐さんを見て。
「空に、姐さんが飛んでるの見てたら前に人が……あ、救急車!」
「待って! マリア」
倒れた老人が半身を起こして笑った。
「わしは大丈夫だよ」
アレは花巻で会ったカッパの三平爺さん。
「二口の、水持ってるか? ハネられたとき皿の水がの……」
「姐さん、爺さんを近くの川か池に連れてって」
「ハイよ!」
三平爺さんと姐さんは、飛んで行った。
「マリア、良かったね。ハネたのはカッパの爺さんだから水に浸かってれば問題ないよ。そんな軽いケガだから」
「か、カッパって静は遠野には居ないって……」
「三平爺さんは、花巻に移ったカッパでね、たまに遠野に来るんだよ」
「静はカッパの知り合いも……」
と、わたしを見るから。
ウン、と笑顔をでうなづいた。
「やっぱり、あなたはスゴイわ。自称なんて言わないで本物の妖怪研究家と名乗りなさいよ」
「いや、あたしは学ないから、学校なんか出てないしへへへへ」
「そんなの関係ないわよ……」
そこで、わたしたちは二度目のお別れをした。
網切麻莉亜の車中。
ほんとにまいったわ。
私、遠野に来ると事故るのかしら。
前回は私のせいじゃなかったけど。
まあ偶然よね。
それにしても摩訶富仕義先生の奥さん、綺麗だったな。
でも、あの金髪でロングヘアーで切れ長の目。そういう美人はどこかで見たような。
ま、いいか。
人にしゃべるなって先生に釘さされてるし。
もうすぐ、高速だ。上通って一気に帰ろう。
アレ、ヒッチハイクだ。
女のコだよねアレ。
「何処に行きたいの?」
「乗せてくれるトコまでならドコでも」
「ドコでもって……あの、あなた何処かで。あ、どうぞ乗って」
この子何処かで見た。どこだっけ?
「あなたは何処から来たの?」
「北海道です」
「あ、そうか。あなた、北海道で静たちと一緒に」
「え、静さんのお知り合い?」
「あなたがはじめに乗ったクルマの……。あなた、名前なんだっけ」
「百河唯です」
おわり




