ヒッチハイク旅再び
1話
「九州……」
「行ったコトある? 静」
「ないんだけど……遠いよね」
「そうかねぇ飛んで行けば一日かからないけどケケケッ」
「ケケケって、姐さん。旅費もいるだろうし、なんでまた九州なんて誘うの……姐さんにしては珍しい」
「あ……実はね、このまえ仙台上空で一反爺さんに会ってさ。たまには遊びに来いって。で、そう言われて故郷に帰りたくなっちまったのさ」
「なら、ひとりで行ってくれば?」
「そういうな、それもいいんだが。退屈してんじゃないかと思って静に声かけた」
「退屈ね……たしかに。九州まで乗せてくれるの?」
「それはなぁ。アヤも連れてくんだろ。二人乗せては、しんどいわぁ」
「休み、休みなら行けるのかしら? あ、でも姐さん。乗るのにみかえりを要求するわよね」
「まあ……」
「それじゃ行かない。ため込んだ資金も大分減ったし……それに」
「それなら、静かよ。出稼ぎに行くがよい」
「河バァ……いつ来たの? 出稼ぎって」
「農家の手伝いも、いいが静なら東京で稼げるだろう」
「ただいまあ、静ちゃん。柿もらったよ」
アヤも帰ってきた。アヤは河ババァの知り合いの農家で手伝いをしている。
以前まで、居たキレイな空き家は、持ち主が売ってしまい。わたしらは居られなくなったので、もう少し山奥の畑のそばにある古い空き家に移った。ここは、まえの空き家に比べ、ひどくボロ家だ。
それであまり、居たくないのでマカさんちへ以前より行くことが多くなった。
今日は、たまたまこの空き家にみんなが。
「出稼ぎって……ナニ? 河ババァ。ここじゃダメなの静ちゃん、農家でもけっこうもらえるよ」
「まあね……あたしが行ってるトコも問題はない……だけど、ひとつね困ったコトが」
「ああ、あそこのせがれの件か。聞いておる」
「ナニ? 息子とケンカでもしたの静ちゃん」
「いや、その逆。 わたしがやたらとアイソ良くしてたら、独身の一人息子に惚れられて求婚を」
「なんで? なんの球根もらったの」
「そっちじゃなくて結婚してって言われちゃって。いきなり指輪まで出されて……」
「ほんに、お父やおかぁにも気に入られての」
「で、やめてきたの仕事。しばらく遠野から離れようと思ってるの……」
「そうなの静ちゃん。わたしのトコは、お爺ちゃんとお婆ちゃんだけだから、こっちに来れば……。あそこは、そんなに雇えないかなぁ……」
「そうか、なら静、九州へ行こう」
「九州って一反姐さん? 東京より遠いよ。静ちゃんは?」
「でも、姐さん。さっき行ったけど資金不足で、行くなら楽しみたいのよね」
「なら、静。東京でひと稼ぎしてから……」
「河バァは、簡単に言うけどさ。向こうに仕事あるかなぁ」
「モデル事務所とやらに行けば、なんかあるじゃろう。静なら」
「どうかなぁ……あ、姐さん、東京までなら一気に」
「う〜ん。アヤもだろ」
「わたし、行くって言ってないよ」
「アヤ、行かないの?」
「行きたいけど……コレから寒くなってお爺ちゃんとお婆ちゃんが可哀想で……」
「そうか……アヤ。じゃ……あたしゴトだし。ひとりで……」
「彩、行っといで。あそこはわしが手伝いに。まあいざとなったら、山から山童でも呼んで手伝わせるよ。またお土産たのむよフッホホホ」
そんなわけで、わたしと静ちゃんは東京に。
今回はオシラサマにたよらず、一反姐さんに県外まで、国道まで乗せてたもらった。
静ちゃんは、ヒッチハイク旅がしたいようだ。
昼間は目立つので、夜中に出発して、すぐに県外の国道に。
静ちゃんは、スーパーでもらったダンボールの箱を切って作った札に東京と書き首にかけた。
「コレでよし、なんか久しぶりねぇアヤ」
「だね。早くクルマ停まるといいね」
「ええ、お腹すいたし」
相変わらずだ。遠野を出る前にファミレスで食べたばかりだ。空だとコンビニに寄れずパンとか買えなかったし。リュックには、もうなにもない。
「あ、停まったよアヤ。行くよ」
早くも、青い軽自動車が少し通り過ぎて停まった。
わたしたちが前のマドのトコに着くと。
「福島までで、いいかしら?」
助手席のウィンドウが下がり。
「あら、あなたたちは」
つづく
 




