冬の朝のささやかな楽しみ
田舎の小さな駅の前にあるバス停に作業服を着た男たちが続々と集まる。
冬の澄んだ空気とは裏腹に彼らは皆死んだような顔をしている。
バス停の近くにある駐輪場には中高生たちの学校指定のシールが貼ってある自転車が並んでいる。
そこへ学生服を着た少女が原付で走ってくる。
彼女は原付を止めると短いスカートの下に穿いているジャージのズボンを脱ぎ、原付の座席の下に丸めて突っ込み、駅へ駆けていく。
──今日もパンツは見えなかった。
無防備な生着替えをバス停から凝視するのが廣人の日課だった。
直後、到着したバスに乗り込む彼らは総勢25名。
全員が着席したと同時に発進し、向かうは山奥にある小さな工場。
田舎には珍しく車通勤不可の職場だが、不満を漏らす者はいない。
彼らのほとんどは現場研修や人事異動で一時的に引っ越して来た東京人のため、自家用車を持っていないからだ。
舗装されていない山道を走るバスは大きく揺れる。
汗をかく季節でもないのに車内は男たちの臭いが立ち込める。
廣人は目を閉じて一刻も早く職場へ到着することを願った。
おかげで隣の席の男が吐き気を催していることには気づかなかった。